若かった頃にはしなやかに動いた身体も、今では固くなり動作もぎこちなくなっています。背中は曲がり首は前に突き出て、ガラスに映る自分の姿に嫌気が差します。また病気という悪魔にも立ち向かわなければなりません。身体の衰えは否応なしにはっきり自覚させられますから、山行きのときはそれなりに方法を講じることが可能です。
一方、心の方はどうでしょうか。確かに、気力がなくなった、物忘れがひどくなったなどの症状は自分でも気がついていますが、それ以上のことは意識していません。山行きのときは頑張ろうと思う程度です。しかし、メンタル面の衰えは気がつかないうちにしっかりと頭の中に忍び込んでいるようです。
そんな老人が、ひとりで山へ出かけるとどうなるか。
以下は、「山行記録」にアップした先の日曜日の鹿倉山〜大寺山の山行記録の中の1枚の写真の説明になります。
鹿倉山から大寺山へ着いた時には、やれやれ踏み跡不明なコースをよくぞ切り抜けてきたという安堵感でいっぱいでした。ベンチに腰を下ろしてお菓子を食べ、仏舎利塔をゆっくりと見物してから、登山道を下り始めました。それまでと違い、道ははっきりしています。あとは下ればいいだけと思うとすっかり気が緩んでしまいました。ここまで大きなアップダウンがあったわけでもないので身体は疲れていません。今日は車で来ているので時間を気にする必要もありません。ペースはいつの間にかそぞろ歩きに近くなり、心はいつしかあらぬ物思いに沈んでゆきました。
やがて登山道から森の中に下るところに差し掛かり、少し危ないなと感じながらも急斜面を下り始めました(ここで抵抗感を持たないのが精神の衰え)。柔らかい草むらなので転倒しても大怪我をする恐れはないようです。しかし、少し進んでから、これまでのような道ではないし、踏み跡もわからないし、やはりおかしいと思い始め、立ち止まって周囲を観察しました。下の方向は同じ森が急斜面のままどこまでも続いています。左右は広々として緩く盛り上がっています。振り返ってみると登山道のある稜線が近くに見えます。
おかしいと思ったら引き返すのが鉄則です。しかし、引力の法則が強力に働きました。登り返すより下る方が楽という誘惑です。それで下方を入念に観察しました。すると樹木の幹に巻かれた赤テープを発見したので、これ幸いとその樹木を目指して下りました。到着してあらためて周囲に踏み跡はないかと探しましたが、見つけられません。振り返ってみると、あの稜線がさっきよりもかなり遠くなっています。さすがに考え込みました。しかし、引力はまだ強力です。更に周囲をよく観察してみました。するとまたまた下方に赤テープを発見しました。どうだろう、あそこまで下ってみるべきか、いや、やはり樹木の赤テープは作業用の目印だから止めるべきだ、いろいろ自問自答してみた末、とにかく行ってみることにしました。結果は、やはり同じ状態です。落ちた枝葉が草むらの上に散らばり古い倒木が横たわり、もうルートミスは明白です。こんなところ登山道ではあり得ません。はっきり目が覚めました。
お前はなんという阿呆だ、またやったじゃないか。同じ事の繰り返しをして、馬鹿、馬鹿、馬鹿、激しく自分を責めます。どうしようもない自己嫌悪に陥りました。漫然と森林に進入した行為、おかしいと感じながらずるずると下り続けた行動、まさに遭難者の典型的なパターンです。
自分を責めてばかりいてもしょうがありません。振り返って上方を見上げると稜線ははるかに遠くなっています。あそこまでこの急坂を登り返すのかと思うとげんなりです。しかし、今日は、緩い坂を歩いて来ただけなので体力自体はあまり消耗しておらず、それに幸い急坂を下ることに備えて何年か振りにストックを1本用意してきたので、柔らかい草むらにストックを突き立ててはエイヤッと身体を持ち上げ、急坂を一直線に稜線を目指し、今日はじめての汗を流しながら無事登山道に戻ることが出来ました。
その後は大寺山へ引き返し、余沢の方へ下山しようかとも考えていましたが、登り返した地点からは明瞭な登山道が左右に伸びていて、右方向が下りのようなのでこちらに進んでみました。するとすぐに枝から下がった赤テープに出会いました。それでやけになってパチリと撮ったのが山行記録に載せた意味不明の写真です。
そろそろ暗くなる心配があったので、どこで道を間違えたかを調べる余裕がなく、その後は赤テープに従って下山しました。
私は、山歩きのときに精神面に問題があるようです。下山の途中に気が緩み、いつしか放心状態に近くなることが間々あります。今回のコースミスの仕方も、天祖山の時と全く同じパターンで、気の緩みという程度を越えています。あの時の反省が全く生きていません。同じ過ちを性懲りもなく繰り返す、これは高齢者特有の精神面の衰えでしょうか。
奥多摩では、「父が△△山へ出かけたまま行方不明です。心当たりの方はご連絡下さい」という張り紙を見かけますが、自分もいつそうなってもおかしくないようです。本当に気をつけないといけない、肝に銘じました。
nibinさんこんばんは。私も60代の素人登山者で山行で迷いそうになった事があります。確実な目印まで戻って、確認するのが原則ですが、下った道を再度登るのは中々出来ないものですね。自分でこの道で、間違いないと思って納得させているもう一人の自分がいます。GPSやログでの確認が必要かと思います。迷惑を掛けないように、安全に山行を楽しみたいものです。
komarikuさん、こんばんわ
コメントありがとうございます。
私は、いつもひとりなので、道迷いはしょっちゅうです。若いときは(60代)すぐに気付いてすばやく反応できたのですが・・・
GPS、ログ、スマホなどの近代兵器は、残念ながら高齢者の私には難しくて手が出ません。時代に取り残されましたね。
本当に気をつけねば。
(危うくスマホをパスモと書くところでした、訂正できてよかった)
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する