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著 者 デイック・バス&フランク・ウエルズ、リック・リッジウエイ
翻訳者 三浦恵美里
出版社 文藝春秋
発行日 1995年8月15日
先日、神田神保町で昼食後、手ぶらで喫茶店に入っても何なので古本でも、と思って古書店の店先をうろうろしていたら、ワゴンの中に山の写真が表紙の本書が目に付きました。手にとって表紙を開いてみたら小さな登頂のカラー写真が目を引きます。目次にはセブンサミッツの名前が重複的にずらりと並んでいます。あら、面白そう、でもこの手の本には文章の退屈なものが多いしなあ、ちなみに値段はいくらと裏表紙をめくったら900円の値札、ちょっと高い気もしますが、山の本なので購入することにし、レジへ持参したら店員がチラっと眺めて即200円ですと言います。あれ?と一瞬戸惑いましたが、口に出かかった言葉を飲み込み黙ってすぐに200円を払い、店員が本に触れないうちにそそくさと店を出てきました。なんかちょっと得した気分と後ろめたい気持ちが半々です。でも、古本屋の仕入値はあってないようなものでしょうから、これでOKかも。
喫茶店に入り早速読み始めたら、これが面白い、本当に面白い。胸がわくわくします。
50才を過ぎた登山の素人であるデイック・バス(スキーリゾート開発の実業家)とフランク・ウエルズ(ワーナー映画の社長)が、1年以内に七大陸最高峰を征服しようとの無茶な計画を立てて突っ走る豪快なお話です。まだ誰もこんな冒険に挑戦していない時代でした。
とにかく大金持ちの冒険ですからスケールが大きいし、内容が小説よりもストーリー性があって飽きません。旧ソ連領にあるエルブルースに登るのに駐米ソ連大使を利用したとか、南極大陸へ渡るのに特別な飛行機をチャーターしその燃料補給をチリ陸軍に頼むとか、その南極のヴインソン登山の最後の挑戦でフランクが自分の荷物を三浦雄一郎に持って貰いなんとか一緒に登頂を果たことができたことから、三浦は日本の真のサムライだと絶賛するくだり、エベレスト登山を企ててオランダ隊に冷たくあしらわれたとか、カナダ人も同じ企てをしていて先を越されるのではないかとか、とにかくお話が面白い。
文章も、登山中の細かい動作や場面毎の心理状況がとてもリアルに描かれ、ハラハラドキドキさせます。一方、フランクのおぼつかない登山の様子には、親近感を覚えます。
圧巻はやはりのエベレストへの最後の挑戦です。酸素切れによる遭難寸前の厳しい登山の様子に手に汗を握りました。妻の言葉をお守りに、俺は必ず家に帰る、と必死にヒラリーステップを下山するデイック、まるで映画のクライマックスを観ているようでした。それもさることながら、一方ではそこに至までの困難な舞台裏が生々しく描かれ、なかなか興味深いものがあります。
2人が謝辞で述べているように、この本は単なる登山の記録ではなく、2人の心意気と友情、―そしてなぜ山へ出かけていったかー を見事にとらえています。この本の文章自体は、2人と行動を共にした登山家にして作家のリックが書いているようです。
このような感動的なノンフイクションを書き上げた作家の力量には本当に唸ってしまいました。著者が登山家にして作家という点で、同じく山岳ノンフイクションの傑作ジョン・クラカワー著「空へ」を連想しました。こちらは、著者自身が参加したエベレスト登山における大量遭難事故が内容となっていますが、どちらの作品も行動の細部にわたって綿密な記述がしっかりなされている点で共通し、優れたノンフイクションとはこうゆうものかと感嘆せざるを得ません。
山レコの皆さんならこの2つの作品ともすでに多くの方が読んでおられるでしょうが、偶々200円でこの素晴らしい本を手に入れることが出来た嬉しさについ長々と紹介文を書いてしまいました。未読の方は是非どうぞ、とお勧めしたいところですが、新刊本ではないので、もう図書館でしか読めないかもしれませんね。
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