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割れてから修理に出すまでの1ケ月間は、割れた片方にポリグリップを付着しだましだまし何とか食べていたが、もはやそれも叶わなくなった。下の歯は無事なのだが上の歯1本だけではどうしたものかと困り果ててしまった。
医師曰く「この残った1本の歯は歯茎の部分が細くなっていて浅いのでぐらつきやすいから注意してください。なくなったら悲惨ですよ。」恐ろしいことを言う。
それから今日まで5日間悪戦苦闘してきていろいろあったが、覚悟したほど惨めな思いをすることはなかった。意外だった。流動食にする必要はなかった。日曜日には山へ行くこともできた。
ただ食事にものすごく時間がかかる。トースト1枚のちょっとした朝食に1時間、コンビニ弁当類の昼食に1時間、夕食なら1時間半に及ぶ。妻が食卓を去った後も延々もぐもぐ口を動かし続ける。上の歯が下歯に衝突してはいけないから厄介だ。口が疲れる。登山と同じでコツコツとした忍耐が必要だ。
葉っぱものがどうしようもない。薄いレタスを噛んでも1本の歯では小さな穴が1つ開くだけ、なんらレタスの状態は変わらない、面倒くさいのでまとめてくちゃくちゃしゃぶって呑み込むが角が喉に擦れてぐっと痛い。おでんのこんにゃくも始末が悪い。小さな穴が開くだけでおわり、小片にならない。呑み込むとずるりと通るが胃の中でだぶつく。消化は大丈夫だろうか。米、芋、魚、肉団子などはなんとか口中で柔らかくして咀嚼できた。
意外な発見をした。食べ物のそれぞれの味がとても美味しく感じられるようになった。いままでは味覚を感じる上顎部分ががっちりと大きな入れ歯によって蓋をされていたのが、その障害物がなくなって本来の味覚が蘇ったようだ。若いとき歯が悪くなってもその場しのぎの治療で放っておいたのが、今になって悔やまれる。
コロナのためのマスク着用の習慣に助かった。誰と会っても口元をさらけ出す必要がない。息は漏れるが年寄りのためだと思わせることができる。
歯抜けの顔は阿呆に見えてみっともない。それでも家の中では夫婦お互い前歯の欠けた顔を向き合わせて平気でいられるから情けない。「ねえ、お母さん、僕のあこがれたあの人のあの美しい顔はどこへ行ったのでしょう。」
金曜日には入れ歯の修理が出来上がる。あと3日だ、柔らかいお芋と豆腐で頑張ろう。
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