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この連休、絶好の登山日和が続くのに平凡なところへ出かけるのは勿体ない、それでこの際とにかく当たって砕けろの精神で「海沢探勝路」を通って大岳山へ登ることにした。この機会を逃せば永久にこのコースを歩けないだろう。
「お父さん、この連休どこの山へ行くの。」
オフイスで娘にそう問いかけられて、いつもなら
「うーん、いつにしようかなあ、どこにするかなあ、・・」
などとのらりくらし胡麻化していたのだが、今回はつい正直にちらりと漏らしてしまった。するとしばしネットで調べていて、
「私も行く。」
と言い出した、自分でもいろいろ興味を持ったからか、よろよろの老人がひとりでそんなところへ出かけるのを心配したからか、その辺のところはわからないが、結局一緒に行くことになった。
以前は、青年小屋に泊まって権現岳へ登ったり、塔ノ岳や景信山をよく一緒に歩いたのだが、ここ2年間ほどは同行してない。もうペースが合わなくなっているだろうから娘に迷惑かけたくないし、また自分としても娘に合わせるため無理をしたくない、ひとりで勝手気ままに歩きたい、それで最近はなるべく黙って一人で出掛けるようになっていた。今回ちらっと漏らしてしまったのは、心の中にやはり一人では心細いから付いて来てほしいという弱気な願望が潜んでいたためだろうか。
夫婦で出かけるのもなんだが、父娘で一緒に歩くのもちょっと微妙なところがある。父性本能から、つい衣類を1枚多く、パンやお菓子を多めになどと余計な心遣いをしてしまいザックが重くなる。かといって登山中に娘からあれこれ心配するような声を掛けられると、うるさい、お父さんはそんな耄碌してないよ、馬鹿にするな、などと言い返したくなる。まあ、娘といわず息子といわず、大人になると親に向かって偉そうなことを言い出すものだ。仕方がない。
3日(水)ホリデー快速1号のひとつ前の電車で奥多摩駅に着いた。絶好の登山日和、駅前は登山者で賑わい、こちらの気分も高揚する。こうゆう賑わいは本当に好きだ。さあ、これから楽しいことに挑戦するぞ、みんな子供の心に回帰する。丹沢の大倉バス停も同じ賑わいだが、あそこは山慣れた登山者がほとんどで特に若者が比較的多い、例えれば渋谷か、ここはあらゆる年齢層がごっちゃごちゃ、若者でも素人っぽいのが多く交っている、雰囲気が少し違う、奥多摩駅は登山者の新宿だ。
屋台で買ったおいなりを一個づつ食べ、自販機の缶コーヒーを飲んでレッツゴー、登山口の海沢園地まで長い長い車道と林道歩きに出発した。
途中にある「アメリカキャンプ場」が素敵だった。地図で眺めていたときは名称からアメリカ人用かなと不審に思っていたが、日本人の家族連れで賑わっていた。建物やロッジの造りやカラーが瀟洒できれいだった。周囲の新緑を眺めながら退屈もせず、1時間50分掛けて登山口到着。車で来れば簡単だが、アメリカキャンプ場を過ぎたところで通行止めの柵があるので車では入れないらしい。登山者はそれを除けて入ってもいいのだろうか。
海沢園地では、これからの難路に備えゆっくり休憩した。アメリカキャンプ場の車が滝遊びの親子グループを運んできて、海兵隊出身のようなごっついアメリカ人が引率して登山道に入って行った。大楢峠から降りてきた車が目の前で駐車し、モノレールに荷物を積み始めた。ワサビ田で作業するらしい。ほかに誰も居らずのんびりしていいところだ。
11時丁度、モノレールと同時にスタート、何時間掛かるのだろう。大岳山までCTは、山と高原、守屋詳細の両方の地図とも2時間となっている。これはおかしい、後者なら2時間30分となる筈、まあ、いずれにしろ自分には縁遠い数字だ。おそらく自分の脚では4時間だろう。
「お父さんのペースで行くよ。」
娘にはきちんと言い渡した。
破線ルートだし、出発点の標識には「悪路」と大書してあるし、自分得意のルートミスをするのではないかと不安ではあったが、コース全般にその心配はなかった。踏み跡は比較的明瞭だし、赤テープもあって、経験者なら迷うことはないと感じた。ただ晩秋など落ち葉がたくさん敷き詰める時期なら踏み跡が隠されて困るかもしれない。
三つの滝が見どころなのだが、最初の「三段の滝」だけ眺め、ほかの「ネジレの滝」、「大滝」はパスした。いったん下ってから急登するらしい。
山行記録では渓流を渡るポイントに戸惑ったことが必ず書いてあるが、ここは登山道が渓流に出会ったらそのまま渡らず、渓流を少し上流へ向かうと渡りやすい地点が現れる。前方に赤テープが見える(遠いので発見しにくいかも)ので迷うことはない筈、こうゆう道に慣れてない娘が先行して見付けたくらいだから問題ないと思う。
渡った地点で休憩、時刻は12時35分、登山口から3分の1余りしか歩いてないのに1時間半も掛かった、仕方ない、これが自分のペースだ。ここからはひたすら登る。悪路に変わりないが踏み跡明瞭、迷うことはない。だが疲れが出始めた。美しい広々した自然林の中を登りながら見上げると尾根らしき姿が目に入ってきた。ほっと思ったときは既にバテバテ、足が重い、道標があって最後の急登に差し掛かった。
3時間登ってきた。山行記録ではベテランでもこの急登がつらいと書いている。改めて集中力を高め、立ち止まっては呼吸を整えながらこれが最後の頑張りだ言い聞かせ必死に登った。尾根に出ればそれで終わり、そのあとは尾根道をのんびりと頂上まで、そんな甘い夢を見ながら・・・
だが現実は、そんなに甘くなかった。実際はここまでがつらくとも楽しい山歩きだった。ここからは一転して地獄、急に脚が前に出なくなった、おかしいと思っても数歩以上は進まない、身体全体からパワーが抜けてしまった、歩いては立ち止まりしばらくじっとする、心拍数は100前後、脚や腰が痛いわけでも呼吸が苦しいわけでもない、気合を入れても身体が言うことを効かない、立ち止まる時間のほうが長くなった。休憩して栄養補給をすればよかったと今では思うが、その時は大岳山はすぐ目の前だから頂上まで突っ切ろう、そこでゆっくり休めばいいという考えに支配されていた。
娘は先で待っていてくれる、急登で悲鳴を上げていたのにやはり若いせいか回復も早い、のんびり花を眺めている。この尾根道は素晴らしく美しい、若々しい緑が両側を包み、その中に赤い山ツツジやシロヤシオの花が咲いている。
「この花はなんていう名前?」
親に似て花音痴の娘が聞く、
「ああ、それ、あれだよ、あれ」
ボケた父親はそう答えるしかない、知っていても名前を思い出せないのだ、
「普通と違ってとても清純だね」
娘がそう感じるくらいだからとても色が清らかだ、深山に咲く花はどれも美しい。
見とれていても疲労困憊に変わりない、ああ、どうしよう、崩れ落ちそうになりながらもなんとか堪え、よちよち歩いで鋸山登山道と合流し、這々の体で頂上に辿り着いた。時刻は午後3時、やれやれ、がっくり、大岳山登山でこんなに苦労したのは初めてだ。予想通り4時間かかった。まあ、いい、とにかく海沢コースを歩けた。それだけでよかった。得るところはたくさんあった。
3時半下山開始、ケーブル駅まで1時間半程度だろう。大岳山は何度か登っているが下り道の状況が殆ど記憶にない。最初にちょろっと岩場を下りあとは坦々と歩きやすい道を下って行くだけという印象しか残っていない。ところが実際は、登り返しはあるし、歩きにくい箇所もあったりして疲れがぶり返してきた。こんな筈ではなかったと思っているうちにのろのろ歩きになり、どんどんほかの登山者に追い抜かれた。
痛たたた!足が攣った、太腿の内側がキーンと傷んだ。歩けない。仕方ない、立ち止まってひと休み、わずかに残った最後の水を飲み干し、痛みが少し治まったところで歩き出したが、怖くてさっさと足を前に出せない。そぞろ歩きになった。
「なんて長いんだ、この道は!、前と違うぞ!、もう嫌になった・・・」
などと声に出してしきりに悪態をついたりしたが、娘も疲れたらしく、
「この歩き意味ないね、全然楽しくないよ、無意味だよ、大岳山はもうやめ・・・」
などと愚痴をこぼしている。
二人とも敗残兵になってしまった。
だけど満足した。長年の宿題をようやく片付けた。その達成感は半端ない、海沢探勝路は自分にとってやはり破線ルート、そこを歩くことができたという充実感は疲労以上のものがある。連休の登山は、これひとつで十分、よかった・・・よかった。
(写真1)
徒渉地点、渓流に出たところから沢の中を少し上流へ向かえば容易に対岸へ渡れる場所がある、行き止まり状態になっているし、見えにくいけど前方の木に赤テープがあるので迷うことはない。渡ったら右手にワサビ田が続いている。
(写真2)
徒渉地点を渡ったところ、ここで休憩した。沢の水がきれいなので湯を沸かしてコーヒーを飲んだら美味しそう
(写真3)
後半の広々とした林の中を歩く。気持ちがいいけど相当バテバテ、支尾根は近い
(補足)
このルート、山歩きにある程度経験を積んだ人ならとても面白いと思います。この日は、誰とも出会いませんでした。ただ、落ち葉の積もった秋や冬、雨天や雨後などは余程のベテランでない限り避けた方が安全かと、道の具合は滝の辺りから徒渉地点までの間で危険な箇所があり、そこを過ぎれば体力勝負となります。たしかに悪路ですが道迷いの心配はおそらくないでしょう。支尾根上は踏み跡のないきれいなところなので、人の多い鋸山登山道に出たときはつい汚く(?)感じてしまいました。
私にはルートファインディングが難しそうに感じたのが理由です
特に下りは岩と落ち葉でツルッと行きそうで怖くてへっぴり腰でこの辺りを歩いています
転んで大怪我しない事が大事だと思っています
こんばんわ
わたくしも不安でしたが、ヤマレコの山行記録をいろいろ調べたら、みなさんそれ程でないと書いていたので出掛けました。たしかにそのとおりで、ルートファイ、道自体の危険度はアップしますが、思った程でなく、鷲尾健さんなら楽楽でしょう。
ただ登山口までの距離が長いのが嫌らしいので、さっきいろいろ調べたら、鳩の巣駅8時7分発奥多摩行き、奥多摩駅9時12分発上日向行きのどちらかのバスに乗って神庭バス停で降りれば、30分近く時間短縮になることがわかりました。ご参考までに
今回は娘が同行してくれたので安心でしたが、単独だったら心細かったかも、こんな天気のいい連休なのに誰にも出会わないなんて
一昨日、昨日と疲労が残り家でぐったりしてました。あれは明らかにシャリバテだったです。自分としたことがそんなわかりきった失敗をするとは、反省しきりです。
ぜひ時期を選んで挑戦してください。
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