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2024年09月16日 18:00老人と山全体に公開

あれから10年

この三連休は、家の中でぐったりしていた。もうダメ、沈没だ。
猛暑の疲れが出たのだろう。胃がむかつくようで食欲もない。冷たいものの飲みすぎに決まっている。クーラーの効いた自室の椅子にだらりともたれ、あれから10年か、早いようでも遠い昔のことのように思われるし、ああ、まあ、こんなものかと思い出に浸っている。・・・冷たいものはやめよう。


10年前の9月末、常念岳〜燕岳を歩いた。これが北アルプス登山の最後だった。75歳となりすでに体力がないことはわかっていた。その前年に鹿島槍を登ったときに疲労のためか山小屋の食事をほとんど受け付けず、それでもなんとか扇沢から頂上を往復したのだが、そのときの経験から、北アルプスはもう無理だということは身に染みてわかっていた。


夏の終わりになると夢を見る。本当にこれを最後にしよう、そう覚悟を決めて計画を立てた。そして9月初めに出発したが、そのときは天候急変のため常念岳を登っただけで撤退した。中止せよという天の啓示かと思ったが、9月29日に再度出掛けた。


1日目は駅前のホテルに宿泊し、2日目に一の沢から常念小屋まで登った。月初めに登ったばかりなので、美しくなった紅葉を楽しみながら気楽に登れた。

3日目は、常念小屋を出発し燕岳を目指した。途中の大天荘の食堂でランチを食べた。予想外に疲れたが、大天井岳頂上に立った時の感動は忘れられない。晴れ渡った青空のもとどこまでも遠く山々の姿がくっきりと見えて、ちょうど来合わせた若者と声をあげながら槍ヶ岳などをバックに写真を撮り合った。10年経った今でもあのときの感動は忘れられない。北アルプスの山々の姿がまざまざと蘇る。

ランチも美味しかったし、体力を回復し、さあ、と元気よく燕山荘へ向けて急坂を下った。登り返しも何ともなかった、あとは難所もないしもう楽勝だ、そんな気がした。でもなぜか疲れてきた、どんどん疲れてきた。こんな筈はない、呼吸は苦しいし筋肉が動かない、足が止まった。ふーっと息を吐いては少し前へ進む、もう燕山荘が見えるのに足が進まない。若い女性が2人腰を下ろしてのんびりこちらを眺めているのが見える。平らな道なのになかなか近づけない。数メートル歩いては立ち止まりを繰り返し、ようやく小屋の端へ到着できた。4時35分になっていた。


「こんにちは、どちらから来たんですか。」
「やあ、こんにちは、常念からね。」
「あらー、すてき」
燕山詣での女性の手前、平然を装って挨拶を交わし、ばれないうちに小屋へ入った。

受付が終わって部屋までが遠かった。案内の老婆が何度も振り返って階段を上がれない自分を待ってくれた。寝る仕切り場は空いていた。もう動かなくてもいい、壁にもたれてぐったりした。


翌朝は、せっかく来たのだからと大勢のギャルに混じって燕岳に登った。場違いのところに居るようで気分がのらない。小屋の桃ジュースを飲んで早々に下山した。

途中のベンチで昼食にしようとザックを降ろして、ハッと気が付いた。肝心の昼食がない、そうだ、昨夜弁当を頼むのを忘れたので下山前に売店でパンを買おうと思っていたのだ、それを忘れたのだ、ジュースを飲んだとき一緒に買えばよかったのに、しかし後悔先に立たず、ザックの底を漁ったら小さいツナ缶があった。それとあんぱんの食べ残しが現れた。周りのベンチでは美味しそうに弁当を広げている、情けない、しょぼしょぼの気持ちでわびしい昼食を口にしたが、あっという間になくなった。

まあいいや、中房温泉はもうすぐだから、そこでソバでも食べればいい、下山を急いだ。温泉といっても小さな小屋、受付から食べ物は何もない、飲み物だけという説明を聞いてがっくり、どうゆうこと?、仕方ない、風呂を上がってからカルピスをジョッキ1杯なみなみと飲んだ。水分補給にはなったが、空腹は治まらなかった。

バスに乗って穂高駅到着、以前駅前のソバ屋で食べたことがあったが、今回はなぜか気が進まず、駅のベンチでボンヤリしているとあんぱんの入ったビニール袋を提げた人が前を通った。それで駅前の土産物店に行き店先に置いてあったのを1個買った。電車の中で封を開ける前に眺めたら、賞味期限1ケ月、うーん、コンビニのは普通4・5日でないかな、ちょっと添加物がやばいかも、結局そのあんぱんは半分残した。

特急電車の中でワゴンから食べ物を買うことはなかった。なんか気分がよくないような、極度の疲労なのか、食べる意欲が起きない。心配になって脈を測ってみた。わー、脈が跳んでる、拍動は強いけど5回に1回位跳ぶ、ポンと跳ぶときにフッと気分が悪くなる。いつになく激しい。これはやばいんでないの、まじめに注意しなければならない。やはり自分には無理だったか。全く素人の自分が、この年齢でこんな山行をするなんて土台無茶というもの、するべきでなかった。もうこれを最後にしよう、そう考えながら静かにして新宿へ到着した。


何事でもいつかはできなくなる時が来る。その時が来るまでに、しておくべきことはしておくことだ。その後で、あの時ああしておけばよかった、こうしておけばよかったといくら後悔しても始まらない。人生は着々と間違いなく先へ進んでいる、時計の秒針と同じように


この最後の北アルプスは本当によかった。苦しかったけれども本当に行ってよかった。大天井岳からの展望の素晴らしさ、それを讃え合いながら青年に撮ってもらった写真、そこには75歳の颯爽とした元気な自分が残っている(そうだ、遺影に使おう。)。


それから10年経った。自分の余命はあと何年あるだろう、満身創痍だが、まだ颯爽(気持だけ)と山へ登っている。幸せなことだ。



写真1 はじめて印刷して廊下の壁に飾った。いつも勇気をもらう。

写真2 大天荘でのランチ、天ぷらうどんとミネストローフ、大変おいしかった。靴を脱いで上がる食堂もきれい

写真3 中房温泉、食べ物をお願いします。
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