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山小屋のご飯なんて、質素な食事で、大したもんでもなかろうと思っていたが、最近のメニューは実に凝っていて侮れない。
涸沢ヒュッテの『おでん』、広河原山荘の『ベジカレー』、黒百合ヒュッテの『こけももカップケーキ』、燕山荘の『ケーキセット』
燕岳の受付でケーキセットというメニューを見た時には『山でこんな贅沢をしていいのか?』とびっくりした。
学生時代におやつといえば、行動食かコッフェルいっぱいに作ったゼリーやフルーチェをガツガツ食べてたので、贅沢をする習慣もなかったからだ。(それはそれで楽しかったけど)
ガスで北アルプスの展望はなかったのだが、テントの中で退屈するより、外のテラスで過ごした方がいいだろうと、チーズケーキとコーヒーを頼んでみた。
本来であれば、燕岳から北アルプス主稜線の山々、そして大天井岳までパノラマで見渡せるのだろうが、そんな景色を想像しながらケーキとコーヒーで退屈したのも、悪くない思い出である。
今回は、山と旅の中での食にまつわるエピソードをご紹介します。
■赤岳鉱泉の裏メニューの話
冬は南八ヶ岳によく行くのだが、赤岳鉱泉で昼食をとることが多い。
赤岳鉱泉は、食事サービスに力を入れている山小屋であるが、お昼のメニューだと、バラエティ豊かな「選べるカレー」が挙げられる。
その内訳はビーフカレー、タヒチカレー、ジャワ風カレー、インドカレー、マレーシアカレー、パンジャブカレーの6種類。カレー自体はレトルトらしいが、その割に具沢山なので満足感があるし、毎回選ぶ楽しみもある。他にもラーメンやパスタもあるが、ついカレーを選んでしまう。
ここのカレーはゆうに10食以上食べているにも関わらず、地名と味がいまだ一致しない。インドカレーくらいなら覚えているが、マレーシアカレーってどんなんだっけ?とわからなくなる。
いまだに全て制覇しきっていない気がしているが、多分味が全く想像出来ないタヒチカレーあたりがアヤシイと睨んでおりコンプリートを狙っている。
しかし、赤岳鉱泉の名物といえばなんといっても、夕食の『ステーキ』だろう。山で肉が食べられるというと、大喜びする人も多い。
ただ、いくら名物と言っても毎食ステーキが出るわけではない。しゃぶしゃぶ、赤魚、ステーキ、水餃子等、ローテーションとなっているのでステーキに当たるのは運次第だ。ステーキに当たると喜ぶ人は多いらしく、ステーキの写真に喜びのコメントが添えられたレコをよく見かける。
そんな登山者憧れのスペシャルメニューだが、以前、会社の登山グループメンバーで八ヶ岳に行った時、その「ステーキ様を食べたくない」という不届き者がいた。
本人曰く『ステーキ・アレルギー』だという。果たしてステーキアレルギーなどというモノが存在するのかは謎だが、実際、蕎麦はダメとか、エビはダメとか、食べるものには気をつかうタイプらしい。
本人曰く、ステーキはお腹をやられるということだったので、おそらく油ものがダメということなのだろう。かくなる私も油ものは苦手で背脂の入った家系ラーメンや、揚げ物を沢山食べるとお腹をやられてしまう、ヒヨワな消化器官を持つ人種の1人である。
しかし、赤岳鉱泉の夕食メニューはローテーションするからステーキ以外が出てくれば心配ご無用のはず。念のためメンバーが当日のメニューを電話で確認した。すると・・・
『ステーキです。』
と、無情な答えが返ってきてしまった。
脂身を残して食べさせようとか、我慢して食べなさいとか、本来の登山計画のやりとり以上に夕食関連の連絡・相談が飛び交ったが、いずれにせよステーキが出てくる以上、どうしようもない。肉と他のおかずを交換して分け合おうという話になり、また、行動食を多めに持ってくるという話で落ち着いた。
さて登山当日。赤岳鉱泉で受付をした時、黒板に今日の夕食メニュー:ステーキと書き出されていたが、その下には、『別メニューがあります』みたいなことが書かれていた。
『あれ、別メニューあるじゃん!?』
と話していると、鉱泉の若旦那が、アレルギーなどで食べられないものがある人向けにメニューを用意していると説明してくれた。
『エビフライはどうですか?』
と勧められた。
これで解決!と思ったが、どうもエビもダメらしく、首を振る。なかなかストライクゾーンが狭く手強い!しかし、そこはさすが赤岳鉱泉の若大将、それすらも想定範囲内なのか
『じゃあコロッケはどうですか?』
と切り返してきた。
パァっと顔が明るくなった。1人我慢している人間がいるというのも、どことなく心苦しいものである。みんな、よかったなぁ、となんかホッとした気分になった。
最近の山小屋はサービスが充実して来たが、多数派の満足のためだけでなく、色々な人が楽しめるようになっているのは、とてもいいことだと思う。
■美濃戸口のおしゃれレストランの話。
数年前だろうか?南八ヶ岳の登山口のひとつ、美濃戸口のバス停の前にJ&Nというオシャレなレストランが出来た。
はじめは
『なぜここに?』
と思った。
山の施設って真っ黒に日焼けして無精髭を生やしたスタッフや、元気のいい女性がバンダナを巻いて切り盛りしているような、無骨でワイルドなイメージがあるので、違和感を感じたのである。
また、地方のおしゃれなレストランは高くて美味しくなさそう、という変な先入観もあり、しかも、はじめはお客さんもチラホラしか入っていなかったので、入るのに躊躇していた。
しかしある日、下山後にバスの出発まで1時間ほど待ち時間があった。日帰り入浴もできるとのことで、入浴して、コーヒーとケーキでも頂こうとかと、ためしに入ってみたのだが・・・
『美濃戸口は、代官山※でしたか!』
※渋谷区のおしゃれエリア。素敵なカフェがたくさんある。
オーナーは様々なレストランで、修行されていたらしく、本業はパティシエ。イチゴタルトを頼んだら、美味しいのはもちろん、皿にソースや粉砂糖などで模様で演出され、登山ウェアでいただくのはもったいないくらいだ。普通のプリンであっても、とても美味しいと感じられるのはさすがである。
『これほどであれば、食事してみるのも良いだろう』
と、お昼ご飯の時にも立ち寄ってみた。
メニューは、ハンバーグ、カレー、ステーキ。パスタなど、どれも普通の洋食屋にありそうな、ごく普通のメニューである。山小屋の高い食事を考えるとそんなに高くない。
初めはハンバーグを頼んでみた。アツアツの金属のプレートの上に大きめのハンバーグに、人参とジャガイモとインゲンが添えられている。見た目はごくふつう。
しかし、食べてみてビックリ。「とても美味しい」のである。特別なソースがかかっているとか、そういうことではない。
『ハンバーグというものを本気で作ったら、こんなに美味しいものなのんですよ。』
と言う、素直で実直な美味しさなのである。
付け合わせのインゲンやニンジンも火の通し方が丁寧である。普段は味わわずに無意識に食べてしまいがちな付け合わせだけど、インゲン一本一本、味わって食べようと思わせる存在感があった。
かなり調理技術が高いのだと思う。
冬の限定メニューだが、ビーフシチューは、かなりオススメである。お外で食べるシチューは具が少なくて汁が多いことが多いけど、ここは明確に具が主役である。
大きなお肉の塊はトロトロで柔らかく、野菜もゴロゴロ入っている。おしゃれな店って、美味しそうに見えるものをちょこっといただくようなところも多いが、ここは美味いものをお腹いっぱい食べられるという嬉しさがある。
八ヶ岳で1泊2日の山行をする場合、山行前にお昼ご飯をいただくのがタイミング的に合いやすいが、山行前に美味しい食事をして食欲が満たされると、
『コレカラ、ワタクシハ、山二イカナケレバ、ナラナイノデショウカ・・・』
と思ってしまう。なにせ暖かなお部屋で贅沢なお料理をいただいて幸せ気分MAXになってしまっている。この状態で20kg以上の荷物を背負って山道を登り、アックスで氷瀑を叩きにいくのは遠いことに感じてしまうのだ。
『もう満足だよねー。もう帰ってもいいかもねー』
と、笑顔で交わす冗談が「半分マジ」なのはナイショである。
cajaroaさん、こんにちわ。
私も行動食がわりに小屋でかなり遅めの
昼ご飯を食べたりして晩御飯の量を減らしたり。
することはあります。それがひと手間かかった料理だと
さらにうれしいですね。。また夕食が名物になるような
小屋も増えてきてそれを楽しみに小屋泊まりというのも
いいですね。。永らく赤岳方面にはいってないので、、
ステーキもそのうち食べに行きたいなぁ。。(*´▽`*)
yamaneさんこんにちは!
昔は山は苦行要素が多かったように記憶していますが、最近は楽しみ要素が増えてきて良い時代になりましたね。
登山というより山旅という言葉が似合う気もします。
その方がこれから始める若い人とかも入ってきやすいでしょうし。
山小屋でステーキと言われると惹かれるものも大きいですよね。ぜひ赤岳方面にもいらして下さい。
コメントありがとうございました。
(^^) cajaroaさんこんにちは。
そのコロッケ、さてはいらすとやですね?
赤岳鉱泉のステーキは私もテン泊のくせに食べてレコにも載せました
丹沢のみやま山荘に最初に泊まった時は名物の焼き肉じゃなかったのですが、それはそれで満足したのにレコで「残念でしたね」的なコメントを頂き
ちなみに私も牛肉はお腹がカチンコチンになります…でも食べます
(よく噛まないのと、野菜食べないから…)
imoneeさんこんにちは
あ、バレましたか?いらすとやです。さすがです。
しかもコロッケピンポイントで使われてるなんて。最近知りましたが、これ便利ですね。
しかし、ピンポイントでお目当てのメニューを狙いに行くのは難しいですよね。下手をすれば永久に出会えない事もあるはずですから。リベンジが果たせたってすごいことなのかも。
牛肉ダメなのに食べに行くとは潔し、ウチのメンバーもそうなってほしいですが、わかる気もします。次からは野菜を食べるように言います。
読んでいただきありがとうございました!
こんにちは。いつも日記を楽しく拝読しております。
cajaroaさん、って読み方がわからず、ググッたのですが、でてこず。カジャロアさんでしょうか。
それはそれで、J&Nさんのお話。私、完成した当初に、長野でゲストハウスを本気でやりたいと思い、偵察をかねてJ&Nさんに素泊まりしにいった事があります。当時、できたばかりで、おしゃれすぎて浮いてしまうような感じでしたが、泊まる側としては、新築の二段ベッドしかも、扉がついており個室にできる。その日は一人だったので貸切。山ガールにはお勧めの宿。お風呂は檜風呂だった気がする。夜ご飯は、ビールやら洋食をいただき、女性のオーナー?さんといろいろお話を伺いました。どうしてここに?なぜ?とか。その会話の中に、私の今回泊まりにきたわけなどお話しして。朝には、お弁当と手紙が添えてありました。ゲストハウスの運営、応援していますと。ずっとそれを手帳にいれてお守りにしていたのですが、ゲストハウスの話もなくなり。。そんなことを思い出させてくれたお話でした。
赤岳鉱泉のカレーは冬のお昼ご飯やおやつに頂いております。美味しいですよね。いつもテント泊なので、トイレにいくとき、赤岳鉱泉のお部屋のコタツでほっこりしている人達を見てうらやましく思っています。いつか、泊まってみたい宿。
Fuhさんこんにちは
カジャロアで大丈夫です。
植村直己の極北をかけるという本の中に
『ナオミ!カジャロア!カジャロア!』
とエスキモーの女性が声を掛けるくだりがあり、そこから取っていますが、北極海のクジラを意味する言葉なのだそうです。もともと文字がないので当て字をしています。
ゲストハウスの運営はわたしもまったく想像できませんが、J&Nは、はじめはお客さんも入ってなかったので、大変なんじゃないかと思いました。
わたしは冬しか見ていませんが、最近はお客さんも入り、アルバイトの方が働いているので、大分美濃戸口に馴染んだ様子で良かったです。夏は山ガールとか入ってるのかな?
シベリアンハスキーのマロ君も、かなりでかくなりましたよね。
ゲストハウスの話がなくなったのは残念ですが、そういった思いがあったのであれば、将来、何かしらの形で実現するかも分かりませんので、応援しますと言っておきます。
鉱泉のおコタの部屋は未だ泊まったことはありませんが、夜、暗がりでヘッドライトを照らしてあの窓明りの前を歩くといいなぁと思いますよね。
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