今年の正月は、タイのプラナンというクライミングエリアに海外遠征に行く計画をしていた。
海外遠征は、それ目指して頑張る目標のようなものになるので、当然ながら気合も入る。より登れるように、より楽しめるように、いろいろと準備をしていた。
まず、家に指懸垂トレーニング用の板を取り付け、毎晩指力を鍛える。クライミングジムや岩場に週3、4回は通って継続的なトレーニングも欠かさなかった。
また、体重が軽い方が有利なので、食生活も見直した。『あすけん』という栄養管理ソフトで炭水化物、タンパク質、脂質のみならずビタミンやミネラルも適切な摂取量になるようチェックし、1ヶ月に1.5kgずつ順調に減らしていった。
イメージキャラのミキさんに
『カロリーコントロールがバッチリでしたね!80点』とか褒められ、
『よしよしオレすごいぜ』
と思う毎日。
遠征まであと一か月となる頃にはレベルアップした手応えもあり
『準備万端、かかってきなさい!』
状態であった。
しかし、11月の最終週のことである。少し体調を崩し、風邪でも引いたかな?と医者に行った。すると・・・
『A型インフルエンザです』
と無情にも通告された。
これはツライ。今、遠征に向けて追い込みをかけたい状況で1週間以上トレーニングができないのは出場停止に感じるインパクトである。
さらに、それを知った相棒は、
『今、感染したらタイに行けなくなる。仕事も休めない』
と私を寝室に閉じめ、ソコから極力出てはならぬと監禁体制を敷いた。トイレのノブや水道の蛇口など、私が触れるものは、毎日徹底してアルコール消毒がなされる。
バイキンみたいな扱いである。
仕方なく寝室で大人しくしてようとしたが、仕事の納品が2件、提案書の作成が迫っているという、かなりヤバい状況であった。提案書は自分にとって大事なプロジェクトで、しかも入札が迫っていたので絶対に手は抜けない。
頼めるところは人に頼み、39度の熱がある状態でウンウンいいながら作業をした。その功もあってか無事入札も通った。
しかし、熱は下がったものの頭痛がひどく咳が止まらない。近所のクリニックに行き、医師に症状を伝えたのだが、突然顔色を変えてレントゲンを撮ると言い出した。そしてその結果を見ながら、神妙な顔つきで静かにこう言った。
『肺に白い影があります・・・』
『大至急大病院で精密検査を受けるように』
なぜか病名は告げられず、レントゲンデータの入ったCDと紹介状を渡されたのである。
『えっ!?ボク、死んじゃうの?』
これはもはや、遠征どころじゃないかもしれない。フラフラになりながら大病院に検査に行くと、
『肺炎です。マイコプラズマか肺炎球菌かも。2週間休んでください』
と告げられ、抗生物質の入った点滴を二回も打たれた。肺炎は悪化すれば死に至ることもあるため、流石に大人しく休んでいるしかなく、結局12月半ばまで3週間もの間寝たきり状態になってしまったのである。
人間寝たきりだと、ビックリするくらい激しく体力が落ちるものである。なんとか仕事には復帰したものの、歩くのもままらないほど憔悴しきってしまい、自分でも驚いた。
もはや追い込みどころか、クライミングができるかどうかも分からない状態だ。
相棒は
『そんなんじゃタイにはいけない』
『少しでも歩いて体力を戻すべきだ』
と、リハビリハイクと称して、伊豆に連れてかれる事になった。城山から西の海まで降りる『ユルフワハイク』だったが、ちょっとした上りで200m歩くごとに休憩するという有様。
心底ツライと感じるユルフワハイクも人生初めてである。
しかし、そのおかげか?普通に歩ことができるくらいには持ち直した。
本当にそれでクライミング出来るのかと懸念されたが、簡単なルートなら登れそうだし、最悪でもビレイヤー(補佐)は出来るだろう。
『そういえば、あなたは、高熱出した状態で渡航して、入国審査のサーモグラフィーに何度も引っかかって捕まっても、遊んでるしね』
アレ?そんなことありましたっけ?
まぁそんなこんなで、なんとか危機を乗り越えられたのであった。
◽二つ目のトラブル
しかし気づけば、あっという間に遠征1週間前である。そろそろ旅行の準備をしようと、外貨に両替したり、航空券のe-チケットを印刷したり始めた。
夜、航空券やパスポート、お金を整理していると・・・
『あっ!!!!』
と相棒が赤い手帳を見開きながら、小さな悲鳴を上げた。
『パスポートの期限が切れてる!!』
なんと相棒のパスポートは9月で期限切れだったのだ。その手にあるのは文字通り赤い手帳でしかない。
『ど・・・どうしよう!!』
しかし、私も出張の直前でパスポートが切れ、大慌てで申請した事があるので、そんなには驚かなかった。
『コレでタイに行けなかったら、笑い話だネェ〜』
これまで、『もし行けなかったらどうすんの?』と脅されてきたが、立場が逆転したので、冗談まじりにからかった。
だがコレは冗談では済まなかった。
詳しく調べてみるとパスポートの発行には『最短8日』かかる。そしてパスポートセンターは『平日』しか空いていない。その日は『土曜日』だったが、出発は『来週の土曜日』。申し込みは『月曜日』になってしまうので・・・げっ!『あと5日』しかない。
『絶対間に合わないじゃないか!!!』
『パスポートの発行が間に合わない場合は、旅行会社にキャンセルを申し込みましょう』
と、速やかに諦めるように書かれているサイトも多かった。
もはや打つ手はない。
どうにかなるで通してきた私も
『流石にコレは詰んだかも・・・』
と思った。
だがしかし、諦めてはいけない。針の穴を通す可能性があるんじゃないか?と調べてみた。
一応、緊急発行という制度はあるらしい。ただ、海外の知人が病気になったとか、急な海外出張が会社から指示されたなど、それなりの理由がないとダメらしい。
では何か例外的な事例がないかと、質問箱サイトで、短期間で発行できた事例を探してみた。するとこんな質問が見つかった。
『新婚旅行に行くのですが、パスポートの期限が切れています。あと1週間しかありません。どうにかならないでしょうか?』
コレもなかなかすごい質問である。
そんな人生の超特大イベントでパスポートの期間を切らしているのも、相当のモノだとおもうが、もしコレで例外が認められていれば短期発行の可能性がある。
しかし、その回答を見てゆくと
『新婚旅行ごときで例外は認められない』
『残念でした〜』
と人の不幸を嘲笑うような無情な回答が連なっており、かわいそすぎる感じだった。
地方だと早期発給制度(数日短期発行)を採用する県も少しずつ増えてきているらしいが、相棒の申請先は人口の多い東京である。東京のパスポートセンターに問い合わせてみた的なサイトも見つけたが、明確に『No』という答えだったそう。
しかし・・・。
東京で
『早期発給してもらえた』
というクチコミを一件だけ発見したのである。これだけ『不可能』を指し示す情報の中、なぜこの人だけ早期発行が可能だったのかは全く不明だった。担当者の裁量で何とかなったのか?
まるで蜘蛛の糸ように頼りない一条の希望の光ではあるが、やってみる価値はある。
『月曜日に当たって砕けろで交渉して、もし弾かれたなら、潔くキャンセルしよう!』
と覚悟を決めたのである。
覚悟を決めると案外冷静になるもので、
『ダメだったら赤岳鉱泉で正月毎日アイスクライミングだね。』
とか予定をすでに考え始めた。
呑気なものである。
さて運命の月曜日。相棒は午前半休を取って、パスポートセンターに出発する。念のため航空券のe-Ticketを印刷して持って行った。担当者の裁量にかかっていると言う仮説なので、それを証拠に交渉する作戦である。
結果が分かるのは、昼くらい。そろそろ時間だなと、ドキドキしながら結果報告を待ち構えていると、
『金曜日に取りに行くことになった』
と勝利宣言があった。
『フゥウウウウウ・・・』
どうなることやらと思ったが、一件落着である。
ところが現場では、もう一問題あったらしい。なんと相棒はe-Ticketの、『フライトや日時が書いていない、注意事項のページ』を印刷して持っていってしまったのである。
コレでは全く意味がない・・・。
もちろんそれではダメで、一度はねられてしまった。ただ、辛うじてスマホにe-Ticketデータをダウンロードしていたので、コンビニのネットプリントで印刷し、それでなんとか認められたようだ。
最後の最後まで危機一髪であった。
――――――
果たして金曜に出来上がった相棒のパスポートを見た時、なんかおかしくて
『プッ!』
と吹いてしてしまった。
その写真は、まるで化粧をしながら鏡を覗き込むような表情をしていたのである。どこか寄り目でしかも口を尖らせている。焦って変な写真になってしまったようだ。
その写真のパスポートを10年使うのも微妙な感じだったが、そのうちいい思い出にもなるだろう。(笑)
今回は行く前からトラブルが重なり一難去ってまた一難だった。しかしあとはタイにゆくだけ。去年と同じ場所だし、土地勘もあるのでお気楽に行けば良いさ。
しかし、これらはまだトラブルの第一幕に過ぎなかった。まさかこの後トドメの一撃が来るとは夢にも思ってもみなかったのである。
後編に続く
https://www.yamareco.com/modules/diary/36225-detail-203040
おはようございます。
待ちに待った日記でした!
続きはよはよo(´ω`o)
おはようございます
SM100Cさんに捧ぐと書こうか悩みました(笑)実はボツにしたこんな前振りがありました
――
先日、剱岳のバリエーションルートを登っていたら知り合いのヤマレコユーザーさんにバッタリ出会った。
『こんなところで、マッタク、なんというグウゼンでしょう!』
場所が場所だけに、これだけでもビックリだが、次に
『次の日記はまだですか?』
((((;゚Д゚)))))))
と催促された。まるで山奥に逃亡して編集者に見つかってしまった小説家かなんかのようである。
――
後編は校正中です。もう少々お待ちを
だって面白いんだもん
日記たまに書いていて、まだですかと言われたときも書いたのですでも、イマイチで気に入らなくてボツにしちゃいました。
maamから、そのネタ面白いの?とかジャッジも入ります。
後編は書き上げてるので、大丈夫です(ネタはご存知かと思いますが)
結局面白いのは山や岩でなく、ヒトなんですかね。
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