正月休みのタイへの遠征計画を立てたものの、遠征直前に、あわや計画中止になるのではないかと思われるトラブルが2つも立て続けに起こる!!
なんとか乗り越えたものの、トドメの一撃となるような、さらなるトラブルが起こるとは思っても見なかった。
前編はこちら
https://www.yamareco.com/modules/diary/36225-detail-202918
◽三つ目のトラブル
さて、ついに出発の日がやってきた。
去年も同じ場所に行ってるせいか、特別な緊張感や高揚感もあまりなく、落ち着いた気持ちでその日を迎えた。
立て続けのトラブルによって
『行けるだけでもありがたい』
という気持になったからかもしれない。
フライトは夕方だったが、早めに着いて空港でお茶でもしてゆっくりしようと、昼過ぎには家を出た。
荷物は登山のようにザック一つにまとめず、ザックとキャリーケースに分けた。現場では宿に荷物を置いてクライミングギアを運搬するし、飛行機に乗る時に、預ける荷物と手荷物を分けておいた方が都合が良いからである。
私は背中にクライミングザックを背負い、前にアタックザックを抱え、さらにキャリーケースを引いていった。
フライトは成田空港からなので、山手線で日暮里まで行って、京成線に乗り換えて行くことにした。
山手線に乗りかえると混雑していたが、すぐ席が空いたので相棒が座った。私は背中のクライミングザックを床に下そうとしたが、相棒が荷棚に上げた方が良いと指示する。普段は荷棚に荷物を上げないので、なんとなく違和感を覚えながらザックを荷棚にあげた。
やがて電車は高田馬場を過ぎ、池袋を過ぎた。席が空いたので、私も座ってスマホを見たりしていたが、気付くと日暮里に着いていた。
電車を降りると、相棒が不審そうな顔で私をみながら口を開いた。
『あれっ?ザックは?』
私はキャリーケースを引き、ザックも背負っている。何か問題でもあるのだろうか・・・・?
しかし、なんか荷物が物足りないような・・・、
『はっ!!』
と恐るべきことに気付いた。
『クライミングザックがない!!!』
電車を降りる時、アタックザックとキャリーケースを持っただけで安心してしまい、さらにもう一つ網棚にザックがあるのを完璧に忘れてしまったのだ。
そのザックには、ロープと、私のハーネスやヘルメット、写真撮影用の三脚が入っており、クライミングをする上で欠けると、非常に、非常に、非常に、致命的なモノたちが入っていたのである。
これすなわち、『タイに行ってもクライミングができない』ことを意味する。
走り去ろうとする山手線を止める術はなく、茫然と見送るしかなかった。
『スマホなんかしてるからでしょ!!』
でも荷物が3つもあって、そのうち一つを網棚に上げておいたら忘れてもおかしくない。
『あなたは荷物1つで、僕は荷物を3つを持っているのはおかしいじゃないか!?』
と言い返したが、今は口論しても仕方ない。一刻を争う緊急事態である。とりあえず駅員に相談してみようと階段を上がり、有人改札に駆け込んだ!!!
『乗っていた場所は何処ですか?』
と駅員から電車の図を見せられた。
難しい・・図を見てもさっぱり分からない。というか、これ見せられてもよくわからない。
何か特定出来る情報はないものか、考えを巡らすと、電車を降りたのは、ちょうど上がってきた階段のそばであることを思い出す。
『今そこの階段を上がってきました!!階段の近くの扉です!』
と手掛かりとなる情報だけ伝えると
『だとすると10号車ですね。』
と瞬時に場所が特定された。
座っていた位置や荷物の特徴などの聞き取りが完了すると、先回りとなる御徒町駅にすぐさま捜索依頼の電話をしてくれた。対応が早い。
『これは間に合いそうだぞ』
ゆとりを持って家を出てきているので、御徒町に取りに行って戻ってくるなら充分間に合う。
が・・・なんだか様子がおかしい。
『日暮里駅の〇〇です。捜索をお願いしたいのですが。はい、はい、わかりました。ガチャン』
とすぐに電話を切ってしまった。どうやら捜索を断られたようだった。どの駅でも荷物捜索ができるわけではないようである。次に東京駅だったが、こちらもダメ。駅はとても忙しく、特に山手線の捜索は対応が難しいらしい。
その間、ICカードの入場取り消しを依頼するヒトや、道を聞く外国人など、色々なヒトがやってくる。駅員は1人しかおらず、あとからあとから入ってくるヒトを同時に捌かねばならない。
電話をしては入ってくるヒトの対応で中断し、電車の位置を確認しては、更に先の駅に電話をする。そうしてる間にも私のザックを載せた山手線は、日暮里からどんどん離れていくわけなので、焦りがつのっていった。
中には、『急いでんだよ!』
と大人気なく駅員を怒鳴り散らす乗客もおり、駅員に申し訳ない気持ちにもなったが、藁をも掴む思いでハラハラするしかなかった。
しかし、ついに・・・・・・・・
『大崎で捜索を頼める事になりました!!』
やった!一件落着である。
と一瞬ほっとしたが・・・
『それって日暮里の反対側じゃん!!』
ザックは環状線である山手線の反対側で回収されることになってしまったのである。これはなんとも微妙である。
『30分待ってもう一度来てください。荷物が回収できたかどうか、お知らせします。』
・・・これ一体どれくらい時間のロスがあるのだろう?
日暮里駅で連絡を待って30分。
大崎まで山手線で行って30分。
受け取りに10分。
戻ってきて30分。
乗り継ぎの時間を考えると・・・
うっ!2時間近くのロスである。
空港でのんびりしようと、結構時間に余裕を持って家を出てきたが、それでも乗り換え案内で検索するとフライトの15分前に空港につく計算である。
昔、巨大空港にフライト40分前について、空港内を猛ダッシュしてギリギリ間に合ったことがあるので、多少の無理なら大丈夫という頭があったが、流石に15分前着だと、チェックインした時点でゲームオーバーになるのは目に見えている。
ふと、前の大家さんのおばあちゃんから聞いた話が、悪魔の囁きのように頭をよぎる。
『うちの息子ったらねぇ〜、
“飛行機の時間に遅れて、
だいぶ飛行機を待たせたんだぜ”
なんて言っていて自慢してたのよ〜。
もう聞いていて、呆れたわよ』
チェックインに間に合えば航空会社によっては飛行機が待つケースもあるらしいが・・・いや、いい大人なので、人様に迷惑を掛けるのもどうか。。。それ以前に待ってくれる保証もない。
かくなる上は『最終手段』を取るしかない。
その最終手段とは・・・。
『体だけタイに移動して、あとは己の肉体のみで、どうにかする!!!』
パスポートと航空券とお金さえあれば、旅はどうにかなるのである。
かつてパスポートと航空券とお金をすべてホテルに忘れ、取りに帰ったこともあるワタシではあるが。。。
有人改札に戻って
『フライトに間に合わないので荷物は旅行から帰ってきたあとに受け取ります』
と駅員に伝え、意を決し、荷物は諦めて空港に向かう事にしたのである。
しかし、
『どうしよう・・・・』
一体6日間も同じ場所に滞在して、クライミングもせずに何をすれば良いと言うのであろう?
頭は半分真っ白で、途方に暮れかけていた。
これまで準備をしてきたのに・・・。
病気に悩まされ、乗り越えたのに・・・。
さらにパスポート問題も諦めず乗り越え、ここまできたのに・・・。
完全にトドメを刺されたような気分である。もちろんそれは自分のせいなのだけど・・・。
なんとも言えない脱力感を抱えながら、京成線に乗ったのであった。しかし、もう本当にどうすることもできなかったのである。
それでも、せっかくタイに行くのだから、気持ちを切り替えて、何かすることを考えなければならない。京成線にゆられながら、どうしようか話をしていた。
滞在予定のアオナン の街からは島巡りなど、ツアーも出ているので、色々遊ぶことはできる。しかし、やはりクライミング を目的にタイに行ったのに、なんか暇つぶしをするみたいで、イマイチ気が乗り切らない。
半ば諦め気味に
『ボクは砂浜で寝てるから、キミは一人でガイドを雇って登ってネ』
そんな冗談を言ったその時の事だった・・・
『あれ、ガイドを頼むと一人でも登れる・・・ということはつまり?!』
ガイドを頼めば、つまり道具一式レンタルとしてついてくるはずである。
『毎日プライベートガイドを雇えば解決するじゃないか!!!』
なんか強引な感じだが、解決方法はあるにはあったのだ。もともとプライベートガイドを1日、2日くらい雇うことは想定していた。プラナンの正月はクライマーも集まってきて混雑するので、ガイドを雇った方が効率的に登れるからである。
ただし、全日程分雇うとかなりのコストがかかってしまう。私も体力が落ちていてそんなに難しいグレードが登れる状態でもなかった。
『普通のクライミングツアーで十分じゃないか?』
そこで旅程の前半は2日コースを申し込んでおき、後半は現地で考えるという作戦で行く事にした。
そうと決まれば即行動である。さっそく相棒が京成線の中からネットで申し込んだ。申し込むとすぐに、トラベルデスクから申し込み完了の知らせと、ピックアップのためホテルの部屋を知らせてくれという返信があった。
まったく便利な世の中である。先日、半年間世界を旅から帰ってきた知り合いの話だと、最近のバックパッカーはネットを駆使して効率的に動くようになったらしい。
『あっ!!!しまった』
と相棒が声を漏らした。
『おいおい今度はなんだよ、もう勘弁してくれよ』
と思ったら、どうもトラベルデスクの『Linda』への返信メールの宛名を
『Rinda』にしてしまったらしい。
『LでもRでも通じるから大丈夫だよ』
そんな、いい加減な話をしながら、ほっとした気持ちで空港に向かったのであった。
―――――――――――――
さて、Rindaを通じて申し込んだ2日コースは、実質プライベートガイドであり、しかも現地でクライミングギアのレンタルサービスも見つけ、後半は、自分達で登ることも出来た。
結果的に、当初の予定と全く変わらなかった上、しかも元々想定していたコストより安く上がってしまったのである。
※ツアーはプライベートガイドの半額なのと、保険を自分で申し込むより、保険込みのツアーが安く上がるため
一つ難点があったのは三脚とゴープロをザックごと山手線に忘れた事くらい。クライミングの撮影ができなかったので、レコが『タイフード特集』と化してしまった。
『いや〜食べ物すごいですね』
と言うコメントを頂いたが、実はコレ、クライミングシーンがあまり撮れなかったからである。
はじめはクライミングだけすることしか頭になかった。でも、いろいろなトラブルが重なり、一時的にクライミングという目的から離れることで、結果的にガスが抜けた感じもした。
知らない国に行き、知らない食やヒト、さまざまなモノに触れて楽しむということに、あらためて目が向いた気もする。
クライミングをするだけなら日本でもできる。せっかく海外まで遠征に来ることの意味を考えると、むしろよかったのかも?
いやいや、そんな、あまり手放しで良かったとも言えないけれど(笑)、
でも、これは旅の一つの物語として印象に残るものとなったことは間違いない。
ま、それにしても、幾つものトラブル?を乗り越えてたどり着いたものである。
相棒に
『むしろ忘れてよかったでしょ?』
と冗談で言ったら、
ムッとした顔をされたのは、言うまでもない。
おしまい
おはようございます。
堪能しましたぁ〜o(´ω`o)
しかしここまでトラブル続きだと、逆にトラブルがなければお二人らしくない気もしてきました。
ワタクシならたぶん、山手線でザックを置き忘れた段階でそれを追跡し、出国を諦める気がします。
しかしレコを拝見すると普段体験出来ない夢のような日々がとても羨ましく、日本の置き忘れザックがどうでも良い感じになりそう。
ギア一式は帰国後に再び手元に戻ったのでしょうか。
一式の買い直しとなるとかなりの出費になりそうですが…
SM100Cさんこんにちは
読んでいただきありがとうございます。
話の流れ上、省略してしまいましたが、京成線に乗るとき、駅員さんから回収完了の連絡が来ていたので大丈夫でした。
座席の位置は特定できていたし、盗まれそうなものでもなかったので、回収はできるだろうと踏んでいました。
ガチャ類はキャリーケースだったのと、ロープは予備があるので、最悪ハーネスとヘルメットを買いなおせば問題なかったという頭もあります。
でも、やっぱりモノより思い出をとるかも。
山や岩では、安全面でのトラブルはほとんどないですが、命に関わるものでないところは気が抜けるせいか、たまにあります。でもここまで連続したトラブルも珍しいです。全く説得力ないですね。
遺失物センターで無事受け取りましたが、係員から間違いないか確認してくださいと言われつつ、珍しいものですからまぁ間違いないですねえ。と言われました。
なんで大荷物を忘れるんかな〜って思ってたんよね 。これはアレやな、神様のイタズラやったんやな
読んでいただき
ありがとうございます
荷物を忘れたからというのも一つのきっかけでしたが、レンタルして、ウィーズプレゼントウォールに行った時、日本みたいな光景だし、日本人はたくさんいるしで、ハテ、何しにきたんだろう?と思いました。
レコの方で、エッシャーウォールという岩場が、タイらしくて良かったとしめてますが、計画時に、なんで遠征するのかということをあまり考えてなかったように思います。
大荷物を車や電車に忘れるのも悪くないです。オススメします。(笑)
前編後編共にとても楽しく読ませていただきました😊
二度ある事は三度ある・・・この言葉はcajaroa•maamご夫妻にピッタリですね😁
沢山のトラブルに見舞われた様ですが、無事にギアも戻りお怪我もなかった様で何よりです。出発前に体調を崩された様ですが、その後は大丈夫でしょうか?
私、基本的に活字を読むのが苦手で読書は全くしませんが、cajaroaさんの文を目で追うのがとても楽しいです。
山行記録のリスの動画も拝見いたしましたが、あの動きを自分がしたら(不可能ですが(^◇^;))首を痛めギックリ腰になりそうです(笑)
今回も、楽しい日記をありがとうございました。
こんばんは!
7度あることは8度あります。実はまだまだありまして・・・
成田のチェックインカウンターのお姉さんがバンコクではトランジットでも一度荷物を受け取るルールなので受け取ってくださいと言われだけど、待っても待っても荷物が出てきません。バゲージロストかと思って係員に聞いてみると、荷物の受け取りは不要と言われました。違うじゃん!オネーサン!
また、そのお姉さんは、成田→東京の航空券だけでなく、バンコク→クラビの航空券も一緒に出してくれたので、親切だなと思ったのですが、なぜか座席には座席番号の代わりに「GATE」と印字されていて、意味不明。結局バンコクで発券し直してもらいました。
違うじゃん!オネーサン!
初日、maamが宿の部屋の中にキーを入れたまま出てしまい、夜帰ってきたときに、ひと騒動ありました。
帰りの飛行機はクラビ→バンコク バンコク→成田だったので、クラビの空港で国内線カウンターに行ったのですが、国際線にゆけと言われ、エアポートバスで国際線に行きました。国際線のカウンターに行ったら、僕だけ国内線でチェックインするように言われ、僕はまたエアポートバスにのって、国内線カウンターに戻ることになりました。
僕のチケットはマイルで買ったので仕組みが違ったのです。Maamはバンコクで空港内でトランジットできましたが、私は一回空港の外に出て、出国審査をしなければならず、面倒でした。
文章書くのは苦手なので、いつも苦労します。なので、楽しいといっていただけると嬉しいです。
リスは早いですよね。口の動きとか特に。一生懸命で、かわいいんですけど。なんかずっと食べてました。
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