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村に立ち寄ったのはインド一周の旅をしたときの前半。その時はインドの北部をコルカタ(カルカッタ)から、ヴァーナラシー(ベナレス)、アラーハーバード、カジュラーホーと、西へ、西へと町伝いに転々と旅をしていた。その西へ向かう旅路の最後の街は『アーグラ』と呼ばれるタージマハルのある街だったのだが、列車の乗り継ぎの都合で一晩の宿を取る必要があり、その手前に位置するオルチャにたまたま訪れることになったのである。
村には昼すぎに着いたのだが、まだ時間も早かったので宿に荷物を置き、散策をしに出かけた。オルチャは北インドによくありそうな埃っぽい小さな村で、観光客が少ないせいか客引きもおらず、素朴で落ち着いた雰囲気だった。
水を買いたかったので道の角の小さな雑貨屋に立ち寄った。店の前には2-3歳くらいの小さな男の子が大きなイヌと一緒にちょっこり座っている。まるで童話に出てきそうな風情の雑貨屋である。
しかし水を買おうにも店員がいない。はて、どうしたものか?と思っていたら、そのちびっ子が値段を告げて水を渡してくれたので驚いた。
ちびっ子にお金をわたし、立ち去ろうとすると、奥から父親が現れてちびっこを抱き上げ、犬と一緒にニコニコしながら見送ってくれた。インドの買い物は値段交渉でひと苦労だが、親子の素朴な様子を見てホカホカした気持ちになった。
さてこれから何をしようか?たまたま訪れた村なので、見所も何もわからない。旅行ガイドをめくると辛うじてページの片隅に小さくオルチャの紹介が見つかった。読んでみると、どうやら古城の遺跡があるらしい。他にすることもなかったし、時間もあったので足を運んでみることした。
城の入り口には係員がいて、ガイドを付けるかどうか問われたが、気ままに時間を過ごしたかったので断った。夕方に門を閉めるので、時間になったら中から呼ぶようにと言われた。
中に入ると小さな中庭があり、その中庭を囲うように外壁がそびえ立っている。外壁は階層になっており、その内部には小さな階段や通路が縦横無尽に通され、まるで子供の秘密基地の迷路のようだ。外壁の各所には大きく窓の空いたテラスがあり、そこから遠くの霞がかった地平線が一面に見渡せるようになっていた。いにしえの時代にはここで兵士が見張りに立っていたのかも知れない。
城内は静かで、自分以外の訪問客は一組しかいなかった。小さな村の古城ゆえに立ち寄る人もあまりいないのだろう。建物もあまり手入れがされておらず、時の流れるまま風化と侵食が進んでおり、ほのかに動物の糞の匂いすらしていた。まるでこの古城は悠久の時間の中に忘れ去られているかのようだった。
やがて日が傾き始めると、もう一組の訪問客も帰ってしまい、だれもいない古城の中で私は一人ぽっちになった。目の前に広がる水平線には夕陽が近づいてゆき、遠くから街の音が聞こえてくる。テラスの窓に腰掛け、そんな景色をしばらくぼんやりと眺めていた。
どれほどの時間、景色を眺めていただろうか?そのゆっくりとした時間は急に動き始めた。目の前の光景の中にツバメたちが現れたのである。
最初は10羽、20羽くらいだったが、ツバメはまたたく間に増えてゆき、まるで空を埋めるように城の周りを物凄い速さで飛び交い始めた。その数は300羽、400羽、いやそれ以上だったかも知れない。弧を描くように飛び交うおびただしい数のツバメによって、夕暮れの空は渦を巻いているようだった。
その渦の中から、今度はテラスの窓に向かって、ツバメがきりもみしながら次々に飛び込んでくる。彼らは人を恐れることもなく、目の前をヒュン、ヒュンとかすめてゆく。私はもはや傍観者ではなく、その渦の中に取り込まれてしまったようだった。忘れ去られた古城はまるで息を吹き返したようで、私は城が閉まる時間も忘れ、茫然とその光景の中に捕らえられていた。
ツバメの渦はしばらく続いていたが、古城の中のおのおのの巣に帰っていったのか?時間と共にその姿を減らしていった。ふと現実に立ち返って時計を見ると、閉門の時間を過ぎている。慌てて城壁を降りてると、門は外側から鍵がかけられていた。門を叩いて声をかけるが音沙汰もない。何度か叩いていると、ようやく門が開き、さっきの案内のおじさんが顔を出してくれてほっとした。
城の門を出ると、どこか違う世界から現実に戻ってきたような気がした。私は不思議な余韻を感じながら、古城をあとにした。
cajaroaさん、こんばんわ。
まるでおとぎの国の話のようですね。。
昔からインドはおとぎの国だけど、、
未だにそうなのかな。。
インドは二ヵ月くらいいたのに、、
ほとんど回ってないのです。。
せめてタージマハルくらい綺麗なうちに
観ておくべきでした。(笑)
yamaneさんこんばんは
つばめが住んでいるのは自然の営みなのでしょうが
日本じゃありえないような光景でした。
日本だとツバメ大量発生と言われそうだし、
雑貨屋の子供も、児童就労とか言われそう。
そういうのが当たり前に受け止められてしまうのは
おとぎの国とうかんじですね。
インド、どんどん変化していると聞きます。
映画とかだいぶ洗練されてきている感じだし、
ガンジス川には綺麗なクルーズ船が航行してるらしいし。。。
どうなんでしょう。
沐浴とかはいまだにあんな感じなのところに
クルーズ船って、それもそれで新たなカオス感ありそうです。
タージマハル、大気汚染で変色しているって今知りました。
びっくりです。
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