第1 脂肪の蓄積抑制と交感神経の活性化
暑いときには汗をかき、体温を下げる。寒いときは、体が震えることで体温を上げる。外界や体内で起きる変化に対し、私たちの身体には、状態を一定に保とうとするメカニズム(ホメオスタシス)が組み込まれています。
食べ物から得たエネルギーを効率よく使い、余ったら脂肪として蓄積。これもホメオスタシスの一つ。このエネルギー代謝の恒常性維持の仕組みに、腸内細菌が創出する「短鎖脂肪酸」が影響を与えていることが近年の研究で分かってきました。
脂肪細胞や交感神経など体内の様々な組織には、短鎖脂肪酸を検知するセンサー(受容体)が備わっています。大腸から血液中に取り込まれた短鎖脂肪酸は、ほかの栄養素などと一緒に全身をめぐり、血液中で一定の濃度に達すると、それぞれの組織がもつセンサーにシグナルを送ります。
第2 「腸」から「体全体」へ
例えば脂肪細胞は、短鎖脂肪酸のシグナルを感知すると、血液中からの栄養の取り込みをやめ、脂肪の蓄積を抑えるようにします。一方、交感神経はシグナルを感知すると、心拍数を増やしたり、体温を上げたりします。
つまり、短鎖脂肪酸は、脂肪蓄積の抑制とエネルギー消費量の増加を同時に行わせることで、エネルギー代謝をコントロールし、肥満を抑える役目を担っているのです。
第3 短鎖脂肪酸の作用
短鎖脂肪酸とは、酢酸やプロピオン酸、酪酸などの総称。腸内環境を整えるビフィズス菌が酢酸を作り出すことなどが知られています。
腸内細菌は、様々な代謝物などを通じて、人の健康や病気そのものと深く関わり合っています。米ワシントン大学のジェフリー・ゴードン博士らは、腸内細菌叢と肥満との関わりを研究し、無菌マウスに様々な腸内細菌叢を移植することで、腸内フローラの違いが肥満につながることを証明したことで、短鎖脂肪酸のもつ新たな役割が注目されるようになりました。その後、体内の様々な組織にあるセンサーと腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸を結びつけて考える研究が進み、脂肪細胞や交感神経での短鎖脂肪酸センサーの発見につながりました。様々な病気について、腸内細菌との関わりが研究されるようになり、腸内フローラの多様性が失われたり、細菌叢のバランスが崩れたりすることが、病気の原因となることがわかってきました。
また、短鎖脂肪酸は、インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)や、血管、骨髄などでも機能し、腸内細菌がすむ腸管では、免疫細胞の分化やインスリンの分泌などにも関わっていることがわかってきています。
第4 酪酸菌が有効
短鎖脂肪酸のうち、大腸の働きの向上に特化して考えると、直接大腸にエネルギーを補給する「酪酸」を増やしていくことが有効です。酪酸は酪酸菌からしか作られないので、酪酸菌を腸内で増やせばよいということになります。しかし、酪酸菌は、食品としてはぬか漬けや臭豆腐などにしか含まれていないため、日々の生活で食事から取り入れるのはとても難しいです。そこで、酪酸菌を外から取り入れるにはサプリメントなどを利用するのがよいでしょう。代表的なものは「強ミヤリサン」です。
また、酪酸菌のエサとなる水溶性食物繊維を毎日の食事に多く取り入れるようにすれば、おのずと酪酸菌は腸内で増え、結果、腸内環境が整っていきます。現代人は、水溶性、不溶性にかかわらず、食物繊維の摂取量が必要量に足りていないと言われています。まずは、食物繊維の多い野菜類、海藻類、果実類などを積極的に摂ることが大切ですね。
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