[パタゴニア探検記]
高木正孝著
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南米の南端パタゴニア。
日本・チリ共同の探検隊が、友情に結ばれつつ前人未到の大氷河を突破し
処女峰アレナーレスを征服する、その記録。
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感想:
古本屋で2冊50円で買った本の一冊です(笑)
登山時期も1960年代と古いのですが、探検記録として内容のクオリティは高く、手元に残す価値のある本です。
著者の高木氏はマナスルの登山経験があるベテランで、大学の心理学教授でもあります。
簡潔な文章は読みやすく、登頂時の感動もよく伝わってきました。
私が好きなエピソードを紹介します。
この共同登山、チリでは大々的に報道され、日本から運ばれた登山装備を迅速に通関させるために大統領令がでたほど。
なぜそんなにチリでは喜ばれたのか。もともと親日国ということもあるけど、高木氏が述べるにはチリ人はとても愛国心が強い。
その愛国心に以下の事柄が訴えたのだろう、と。
”これまでは、イタリア、フランスなど、西洋の人間が来てチリの山々を
勝手に登っていった。
日本人は、一緒に登ろうといってくれた。”
この文章は、一番心に残っています。
この本はまた、中南米のラテン人気質の理解を深める一助にもなります。
言葉で言うなら、
個人主義。個人同士のの関係がすべて物を言う。
仕事時間は短く。
約束は守らない。
でも親愛の情に厚く、歓待が大大大大好き。
例えば、日本から運んだ登山装備の通関は、多くの約束が交わされながらいっこうにすすまず、笑っちゃうくらい大変そうで、”個人的な働きかけ”を駆使してやっと通関できました。
また、この本が妖しく私を惹きつけるのは、著者・高木氏の死にまつわるイメージです。
パタゴニアの探検から4年後、この本の原稿を岩波書店に預けた後、
高木氏は学術調査のために南太平洋へでかけ、船のデッキから忽然と姿を消したのだそうです。
自殺か、事故か。いまだ明らかにはなっておりません。
解説者によると著者は生前ビルマの山に登るつもりだと言い残していたから、自殺を否定できそうな気もする。パタゴニア探検記が本になるのも見たかったはずだから、自殺ではないと思う。
でも高木氏を知る解説者は、高木氏が南の海の、暗くけだるい海の中に衝動的に身を任せてしまったのでは、と、無念さをかみしめながら考えている。
何故そう考えるのか。
それは解説者自身も、暗くけだるい海の誘惑を知っているから。
・・・お前の様な山男がなぜ海で死んだのか・・・
・・・ああ、でもなんとなくわかる気がする・・・・
そんな解説者の、喪失の無念さを滲ませた解説文。
それとは対照的にあっけらかんと書かれた高木氏の明るい文章が、
切なく魅力的です。
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