赤木沢敗退記・増水により赤木平から薬師沢左俣にエスケープ
- GPS
- 56:00
- 距離
- 31.1km
- 登り
- 2,171m
- 下り
- 2,135m
コースタイム
- 山行
- 4:20
- 休憩
- 0:35
- 合計
- 4:55
- 山行
- 11:10
- 休憩
- 2:10
- 合計
- 13:20
- 山行
- 3:30
- 休憩
- 0:20
- 合計
- 3:50
天候 | 8/14曇り 8/15曇りのち雨強し 8/16雨 |
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過去天気図(気象庁) | 2014年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
料金所脇の駐車場にて車中泊。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
【薬師沢小屋〜赤木沢出合】 小屋のテラスから梯子を使って左岸に。基本左岸を進み、途中胸まで浸かるへつりが2回出てくるので、そのときだけ渡渉して右岸へ。赤木沢出合手前の滝は左岸からまとめて高巻きします。 【赤木沢出合〜3段8m滝手前】 出合は胸までのへつりで入渓。もしくは出合を高巻いても赤木沢に入渓可能。 今回はウマ沢出合上の8m滝×2、その後の2段20m滝をまとめて右岸から高巻き沢床に出た辺りで急激な増水を避けて左岸にエスケープしました。 【沢床〜赤木平まで】 激しい藪漕ぎ、支尾根に上がるとハイマツ漕ぎになる。支尾根に上がった後赤木岳に向かって尾根は高度を上げる。ただ基本ハイマツ帯で、通過に時間がかかると思われます。 【赤木平〜薬師沢左俣〜稜線】 普段は小川のような薬師沢左俣も濁流に。赤木平は草原なのでハイマツ帯に比べて格段に歩行スピードが向上する。 水流は激しいものの両岸は草原のお花畑になっているので、基本沢の右岸を忠実に歩く。上流部の詰めは鞍部に出るように辿ったが、途中で間違えたようで赤木岳と北ノ俣岳の鞍部より北側の稜線にたどり着いた。 ※既に報じられている通り、遡行した当日、赤木沢で遭難者が発生しました。 |
その他周辺情報 | 薬師峠のテント場は午後の時間帯に小屋から係りの人が徴収に来ます。また午後6時までビールやジュース類の販売もやっています。 |
写真
装備
個人装備 |
Tシャツ
長袖インナー
ソフトシェル
タイツ
ズボン
靴下
グローブ
雨具
日よけ帽子
着替え
靴
ザック
サブザック
昼ご飯
行動食
非常食
調理用食材
飲料
ハイドレーション
地図(地形図)
コンパス
笛
計画書
ヘッドランプ
予備電池
GPS
筆記用具
ファーストエイドキット
常備薬
保険証
携帯
時計
タオル
ツェルト
ナイフ
カメラ
ロープ
ハーネス
ヘルメット
確保機
ロックカラビナ
カラビナ
クイックドロー
スリング
ロープスリング
セルフビレイランヤード
渓流シューズ
トポ
ルート図
|
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備考 | 入渓時からレインウェアーの上下を着用。赤木沢出合までの黒部源流でのへつり、渡渉を想定してだったが、結果的に功奏した。 また、メンバー全員インナーにファイントラックのドライレイヤーを上下着用していました。その後稜線で風雨に晒されましたが、体の芯は熱が保たれていたように感じたので、これが結果的に低体温症にならずに歩ききれた要因のひとつではないでしょうか。 http://www.finetrack.com/layering/l1.html |
感想
遭難のリスクと危機管理
既に報道されているように、8月15日、北アルプス赤木沢で沢の増水によって遭難事故が発生、2日後の8月17日に無事救助されましたが、まさにその8月15日に遭難したパーティーと同じ3名で赤木沢に入渓していました。
8/14
前日午後7時に都内を車で出発、関越道・上信越道・北陸道経由で立山インターに着いたのが日付が変わって14日2時頃。インター近くのローソンで最後の買出しを行い、有峰林道亀谷ゲートに到着。
昨年も同じくらいの時間に到着したが、そのときはゲートの前に既に数台が並んで行列を作っていたが、この日は行列はなく駐車場に8台程度。これなら並ぶ必要もないだろうと駐車場に車を停めて、早々に仮眠体制に。最初は車の中で3人で寝ようと思ったがなにしろ暑いので結局は外にマットとシュラフで就寝体制に。1杯ひっかけて眠りにつこうとしたものの、絶え間なく襲ってくるヤブ蚊に加え4時前には雨も降り出し、結局車の中で寝ることに。結局2時間くらいしか寝られず朝を迎える。
6時のゲートオープンと同時に一路折立を目指す。折立駐車場は満車だったが臨時駐車場には問題なく停められた。準備をして7時過ぎには出発。
この日はあいにくの薄曇り。ただ樹林帯を抜けて稜線に出ると、アルペン的な雰囲気を味わうことができ、とりあえずは満足。太郎平小屋で小休止して12時過ぎに薬師峠キャンプ場に到着したが、この頃から薬師岳は濃いガスの中。およそ5時間の登りでそれなりに体力を消耗したこともあり、明日に備えてこの日予定していた薬師岳往復はカット。テント場でゆっくり昼食タイムにする。これで薬師岳は4回目指して4回登れず。どうやらなかなか縁がない山らしい。
薬師岳往復をカットすると時間がかなり空いてしまうので、夕方までテント場近くに詰め上げている薬師沢中俣を下降しつつ釣りタイムにする。今日のうちに中俣を偵察しておいて、使えるようなら明日薬師沢小屋まで行くときのショートカットに使えるかもしれないなどと考えながら、沢装備に切り替え13時半頃スタート。
上部は源頭の様相で小滝が連続、時々小さい釜がある。30分ほど下降して魚影が見えてきたところで、釣り竿を出す。やはり沢自体が小さいからか、当たりは10cmくらいのヤマメが1匹のみ。15時半を過ぎると夕立がきたので下降は中止して猛ダッシュでテント場にかけ戻る。
結局ヤマメはリリースしたので、この日のお魚料理はなし。でも持ってきた焼肉やナスの味噌炒めなんかで、なんだかんだ豪華な宴会となった。テント場でビールを売っていたのもうれしい。
テント場の受付をしていた小屋の方と明日の天気について話をしたところ、あらかじめ予想してはいたが、やはり夕方以降天気は崩れそうだ。
夕食後、ちょうど隣のテントのパーティーが赤木沢を遡行してきたとのことなので、最新の状況を聞く。かなりの熟練者のようで、いろいろな沢の話、イワナの話など興味深い話をたくさん聞くことができた。
8/15
3時に起床して4時半に出発。今日はサブザック行動になるので、非常食、行動食、登攀具、ロープ、沢装備など必要最低限の装備を詰め込む。かなりのハイスピードで6時40分には薬師沢小屋に到着した。
沢装備に切り替えつつ他の登山者とも会話を交わしつつ、7時ちょうどに恒例の記念撮影をして入渓。左岸をもくもくと歩き、途中2箇所ほど右岸に渡渉しながら、1箇所ある高巻きを越え、8時過ぎに赤木沢出合に到着。やはり身軽だからか、いいペースで進めている。
ここの出合の光景はやはり圧巻。しかも時折日差しも除いたりして水面がきらきら輝き、エメラルドグリーンがまぶしい。そして奥には本流にかかる端正な小滝。ここだけでも来た甲斐がある場所だ。
昨年は出合を高巻いて入渓したが、今回は出合の左岸をへつって入渓する。
さっそく赤岩のきれいなナメに出迎えられ、一気にテンションが上がる。最初の滝も水線上を楽々に越えられる。この辺りで竿を出していた2名パーティーと男女3名パーティーを追い抜く。追い抜き際に「また太郎平小屋で逢いましょう」と会話したが、このときはまさかあんな出来事が起ころうとは思ってもみなかった。
3人パーティーを抜くとその向こうに6人くらいのパーティーが高巻きしているのが見える。かなり先だがこのまま行けば大滝の高巻きの最中には追いついてしまいそうだ。ここまでかなり快速に飛ばしてきたし、高巻きの渋滞に捉まるのも嫌だったので、ここでしばし小休止しつつ釣りタイムをとることに。
8m滝の緑色の釜で竿を出す。40分ほどの間に3人でイワナ2匹とヤマメが2匹。まさに入れ食い状態。思わず楽しくなって時間を忘れそうになるが、この辺りから雨がぽつぽつと。少ししたら雨粒も大きくなってきたので、遡行を再開する。釣りをしている間にさきほど追い抜いた2人組と3人組に追い抜かされていたので、巻き返さなければ。
8m滝2つと20m滝をまとめて右岸から高巻き。この高巻きはけっこう大きいのだが、ここで滝を巻いている15分くらいの間にいきなり土砂降りの雨へと変化した。そして巻き終わり沢に着くと、既に沢床が見えないほどの濁流へと変わってしまった。それでもへつり気味に右岸を進むが厳しくなり、一旦水流が緩やかなところで左岸側に渡渉する。
その後5分ほど遡行したが、少しずつ水嵩が増してくる。左岸を進んだがこれ以上進めなくなったところで、一旦崖上に退避する。あの明るくて美しい赤木沢は、ものの10分そこらで恐ろしいほどの飛沫をあげる濁流へと変わっていた。
立ち木でセルフビレイをとって、今後の対応を協議する。
まず薬師沢小屋に向かって引き返すことを考えたが、赤木沢以上に増水しているであろう黒部本流の沢筋を歩くのは流される危険性が高い。それに左岸から戻る場合滝をいくつか懸垂下降する必要があるが、ちょうど支点にできそうな立ち木などが少なかったと記憶している。
ならば選択肢はこのまま左岸の斜面を登り、赤木岳から東に向けて延びる尾根に乗り上げ、そのまま稜線を目指すルート以外に取るべき選択肢はない。
とにかくこれ以上の遡行は危険と判断し、エスケープすることに決定した。
そのまま避難した斜面をまずはやぶ漕ぎしながら、なるべく西に進路を取るようにコンパスで確認しながら高低差250mほどの斜面を2時間ほどかけて藪漕ぎをする。登るに従って今度は足元にからみつくようなハイマツ漕ぎへと変わっていく。赤木平南東の2370mピークまで休みなしでひたすらヤブとハイマツを漕いだ。
ここからさらに赤木平東側の2460mピークの南側の小ピークまで草付とハイマツの混合した斜面を登る。ハイマツ帯は風も強く、風雨に耐えながらのハイマツ漕ぎが冷えた身体に堪える。しかも登山道ではないからとにかくあるきづらく、見た目以上に時間がかかってしまう。小ピークから40分ほど登ってやっと赤木平全体が見渡せる小ピークに到着した。ここで10分ほどザックをおろして行動食を食べながら、再び今後のルートを協議する。
このとき出たのが次の2ルート
1.このまま尾根筋伝いに赤木岳まで上がる
2.赤木平を流れる薬師沢左俣目指して下り、薬師沢左俣を遡行して赤木岳と北ノ俣岳の鞍部に出る
1案は確実な方法であるが、さらなるハイマツ漕ぎを強いられるので日没までに小屋に戻れるか不安がある。2案は沢筋なので増水が心配。
話し合いの末、普段水流の少ない薬師沢左俣なら増水していても逃げ場があると思い、ここは赤木平に向けて下ることに。
ピークから今度は進路を北西にとり、草付をゆるやかに薬師沢左俣に向かって下っていく。このときちょうどガスが微妙に晴れたので、進行方向もしっかりと確認できた。
薬師沢左俣は普段とはうって変って激流となっているが、両岸は草原なので沢筋をなんとか歩けそうだ。といはいっても渡渉というリスクはなるべく負いたくないので、そのまま右岸を行ける所まで歩き、水流が少なくなってからは一部左岸の歩きやすい草原地帯を歩きながら薬師沢左俣を詰め上げていった。ここにきてハイマツ漕ぎや藪漕ぎから解放されたので、歩行スピードも一気に上がる。
水流が消えて40分ほど格闘し、15時過ぎにやっと北ノ俣岳直下の稜線に到着。稜線上ももちろん風雨ともに強かったので、そのまま足早に太郎平小屋まで走り抜ける。16時40分頃に小屋にたどり着き、少しの間雨宿りさせてもらう。
このとき出合付近で逢った「太郎平小屋で逢いましょう」と言っていた3人パーティーが到着しているか問い合わせたところ、まだ着いていたいとの返答。
警備隊の方に当日の赤木沢の状況と入渓した他パーティーの状況について話をし、暖かいココアを頂きながら雷を伴った豪雨をやり過ごして、テント場へと戻った。
8/16
既に当初予定していた薬師沢左俣遡行は中止、やり残した薬師岳往復も晴れない限り取りやめと決めていたが、朝になっても天候は回復せず雨模様。当然薬師岳往復は中止なのでゆっくりと撤収作業をして8時前に出発する。
途中太郎平小屋に立ち寄り、情報収集。赤木沢に入渓した4パーティー中、1パーティーは薬師沢小屋まで自力下山、1パーティーは沢を詰め上げて無事に下山、行方不明パーティーのうち1人は右岸の支尾根に登りあげ、自力で下山したとのことだった。そして2人が行方不明になっているとのことで大滝手前の左岸に取り残されているとのことだった。
行方不明者が出たことに不安を覚えたが、豪雨の影響で有峰林道が通行止めになっているほどで、これ以上稜線にいるよりは少しでも早く下山したほうが、ということで急ぎ折立へ下山の途につく。
雨は降ったり止んだり、ときおり雷鳴も轟き、これまで降り続いた雨によって登山道自体が既に沢のような状態だ。
3時間ほどで折立に到着。未だ有峰林道の通行止めは解除されていなかったが、その後1時半頃に通行止めが解除、無事に下界へとたどり着くことができた。
その後、赤木沢での遭難が新聞、テレビで報じられたのは周知のとおり。直近で会話を交わしていたこともあって注意深くニュースを見ていたが、17日になって無事に救助されたとのこと。本当によかった。それに尽きる。
今回の山行、いろいろと反省すべきことが多いものだった。天候の急変のタイミングを甘く見ていた点は否めないが、その後の対処については要所要所でミスはなかったのではないかと思う。それに雨が降る前からレインウェアーの上下にファイントラックのドライレイヤー上下を全員が着用していたので、冷えで低体温症になることが防げてのも幸運であったと思う。
ファイントラックのパンフレットのキャッチコピーに
「ウェアはファッションだけでなく、無事に帰るためのギアだと考えたい」とあったが、まさにその通りだ。
とにかく、無事に事故なく下山できてよかったということに尽きる山行であった。
初めまして。私は12日に折立から入山し、13日に薬師沢小屋より黒部川に入渓、祖父沢にて幕営。14日に雲ノ平に詰め上がり、三俣山荘まで。15日に三俣山荘から新穂高温泉に下山しました。
15日、三俣山荘を6時過ぎに出ましたが、そのときから小雨がぱらつき、双六小屋に到着する頃にはものすごい土砂降りとなっていました。8時頃だったと思います。
その後はずっと土砂降りで小池新道は滝のように水が流れ、川と化した登山道を沢下りして下山しているような状態でした。
なので、ニュースを見たときに「15日にあの土砂降りの中で沢に入るなんて信じられない!自殺行為だ」と思っていたのですが、富山県側は雨の降り出しが遅かったのですね。
私も1日行程がズレていたら同じように危険な状態になっていたかもしれません。まさかあんなに激しい雨が長時間降り続くとは思ってもみませんでした。
下山しながら、昨日幕営した場所は間違いなく水没してるだろうな・・・と思っていました。
とにかく、皆さん無事でよかったです。
右俣林道で流された方たちは残念な結果となりましたが・・・・。
コメントありがとうございます。
富山側は降り出しが遅かったようですね。本降りになったのが黒部本流を歩いていることでしたら薬師沢小屋に引き返せたと思いますが。。。赤木沢に入ってしまっていたので、稜線に上がるしかありませんでした。
祖父沢は昨年遡行しましたが、祖父平辺りはビバークするにはちょうどよいところですね。イワナもたくさんいていつまでもいたくなるような場所でした。詰め上がると雲ノ平というシチュエーションも面白いですしね。
wadachiさん、おはようございます〜
山行計画で赤木沢に行かれることは存じ上げていましたが、遭難事故の報道もあり、中止されたのか否か・・・ と気になっておりました。
わずか10分程度で濁流に激変ですか・・・
怖いですね
藪漕ぎは大変だったでしょうが、無事に帰還されてなによりです。
また、遭難された皆様も無事に救助されて本当に良かったですね。
お疲れ様でした〜
藪漕ぎ大変でしたが、エスケープ開始が10時頃で日没まで8時間くらいあるという心理的余裕はあったので、行程は長く大変ではありましたがやり切れたと思います。早めにエスケープ決めてよかったです。
滝谷のほうは残念な結果でしたが、こちらは2人とも助かってよかったです。
wadachiさんとお会いしたのは去年の赤木沢遡行の時でしたね。
あの時のことを思うと、本当に信じられないです。
報道を聞いて、無理にでも出かけたのかなと思っていたりしたのですが
その実、このような状況だったのですね。
同じく沢を行くものとしてはとても勉強になるレコでした。
増水後のエスケープも落ち着いて対処されたようで素晴らしいですね。沢登りは何でもできないといけないと改めて思わされました。
本当にお疲れ様でした。
metaさんと会ったときはたしか折立からの登りと、赤木沢の出合のときだったかと記憶しています。あのときはmetaさんは赤木沢へ、私は黒部源流の方面でしたね。
このエスケープルートとしては一応想定はしていましたが、本当に使うことになるとは思ってもみませんでした。沢登りは登攀力だけでなく、読図、気象判断など総合力が必要な登山形態だと改めて実感しました。
なにかの参考になれば幸いです。
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