硫黄岳北東尾根


- GPS
- 09:37
- 距離
- 13.7km
- 登り
- 1,389m
- 下り
- 1,383m
コースタイム
- 山行
- 7:23
- 休憩
- 2:13
- 合計
- 9:36
天候 | 晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2024年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
自転車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
・標高2270m付近の崖 高さ5~10mの垂直な崖。巻くなら結構下まで行かないといけなさそう。岩肌にコケや土が乗っているのがいやらしい。ちゃんとクライミングをやっている人なら北側からいけるかも。 ・標高2640m~2700m 最大で背丈ほどのハイマツの薮。傾斜が緩やかなのでさほど難しくない。うまく上に乗りましょう。シカ道をたどると吉。 |
写真
感想
ヤマレコの地図検索画面で近所を眺めるのが趣味なのだが、その中で以前から気になっていた尾根があった。八ヶ岳の硫黄岳から爆裂火口を縁取り、その荒々しさのまま湯川に飲み込まれて消える尾根だ。硫黄岳北東尾根と呼ぶことにした。
侵食を免れてつるんとした山肌を延々と引きずり、果てはゴルフ場やレタス畑に利用される尾根の多い八ヶ岳という山域の中で、峻険でいかにも尾根らしいところに惹かれていた。一般的にはお目にかかれない硫黄岳の三角点を、バリエーション山行であることを免罪符に踏みに行けることもモチベーションになった。
しかし地図検索画面に赤線はなく、インターネットや念のため日本登山大系も調べたものの、ここを登った記録は見つからなかった。あったのは湯川左俣を遡行して尾根に乗り、ハイマツの壁に敗退した記録が一件のみ。せっかくなら情報が少ないまま攻略し、初登の名誉を恣にしたい。挑戦する機会を伺っていたところ、泊まりで別の山に行こうと思っていた土日の大気が不安定だと分かった。幸い八ヶ岳付近は比較的安定しているようだった。どれだけかかるか分からないが、とりあえずビバーク装備を持って挑戦することにした。
地図を見ると、2106m標高点が岩峰っぽいのと、標高2270m付近の急傾斜が崖っぽいのが気になったため、一応最低限の登攀具もザックに入れた。水と食料は1.5日分持ち、荷物は14kgになった。
本沢温泉入口に駐車し、尾根先端まで自転車で移動。点線で描かれていた林道は思いのほか状態が良く、終点まで漕いでいけた。終点というか、林道が湯川に寸断されているところだ。その先へは、傍らに架かる真新しい水道橋?で足を濡らさずに渡ることができるようになっていた。ここに自転車をデポして、登山の支度を整えて出発した。
橋を渡った先は石垣積みの水平な道が続いていた。数十m先、湯川左俣にぶつかるあたりで取水施設のようなものがあった。本沢温泉の水が入らないここから水を取り、下流へ送っているのだろう。
その間の尾根先端に取り付く。本当の先端は距離100mくらい下だが、石垣が登りにくそうだったので省略した。しばらくは至って普通の薮尾根だ。傾斜が緩くなると、朝露を纏った笹薮が膝まで伸びてきて足を濡らした。良い方向の獣道を繋いで歩く。尾根上はやや岩がちで、コメツガシラビソ林の下層に様々な濃度でシャクナゲが生えている。歩きづらくはあるが、難しくはない。じわじわと急傾斜を登り、2106m標高点の台地上にたどり着いた。
地形図では2070m台の場所だが、GPSは2092mを表示していた。予想通り部分的に岩峰チックになっていて、開けていたところから最高点方面を見ると、標高差は10mもないようだった。どうやら地形図の方が正確でないようだ。尾根上や北側と比較して、南側はやや傾斜が緩くシャクナゲも薄かったため、南側斜面を山頂方面へ巻いていった。南側斜面でもシラビソの枝に阻まれるようになったところで、荷物を下ろして偵察をするついでに休憩。念の為ヘルメットを被り、懸垂下降グッズを出せるようにしておいた。偵察の結果、濃く見えた尾根上のシャクナゲは意外とそうでもないことが分かり、その後も薮や岩が進路を完全に塞ぐことはなく、すんなり最高点に着いた。
すぐ先の岩の上からは西側の展望が良く、横岳から稲子岳までの稜線と、そこへ繋がる峻険な尾根が見渡せた。気になっていた標高2270m付近は、確かに崖があってもおかしくないような傾斜をしているようだ。まだ先は長い。
この岩は簡単に降りることができ、その先には新しいシカの足跡があった。シカが歩けるということは、崖はないということである。足跡をたどっていくと、傾斜は強いものの、ロープを出さずに歩いて下ることができた。
標高2270m付近まで、薮は大したことはないが、倒木が多く、相変わらず歩きにくい。標高2200mあたりから傾斜が強くなるが、獣道がずっと続いている。このまま問題なく抜けられないかと思っていると、高さ10mくらいの崖が現れた。崖の下には獣のねぐらがあり、崖を越える足跡は見つからなかった。いよいよやっていかないといけない。荷物を置いて攻略できそうなところを探してみた。
北側の崩壊縁に出ると傾斜は80°くらいになるが、落ちたら50m下だ。南側に距離100mくらい下ってみるも、崖はこれといった弱点もなくずっと続いていた。ちょうど最初に崖に突き当たったあたりには一ヶ所、ところどころに幅10cm程度の土のバンドがあり、1.5mくらいの段差を繋いでいけばどうにか抜けられそうなところがあった。とりあえず登攀装備を整えて取りついた。
土はもろく、どこに体重を乗せても崩れそうだ。それでも落ちても死なないことが分かっていると体が動くもので、立木に支点を取りながら、なんとか5mほど上のテラスにたどりついた。荷物と支点を回収しに戻っていると、土に体重をかけた瞬間、足元が崩れ、体が宙に浮いた。山の中で落ちたのは初めてだ。登攀具を持ってきておいて良かった。下から現れた岩肌は丈夫で、その後は問題なくテラスまで戻れた。そこから先はさほど難しくなく、崖の上部に出られた。ほっと息をつき、登攀具をザックにしまった。
ここから先は体力勝負だ。2360m圏ピーク付近はシャクナゲの勢力が強く、最高地点は踏めなかった。その先も、縞枯状のギャップの中のシラビソやコメツガの幼木に苦しめられる。2450m圏ピークは遂に現れたハイマツ薮の中で、こちらも最高地点は踏めなかった。硫黄岳北東尾根上のピークで踏めたのは、2106m標高点のピ一クだけだったことになる。
南側の薮の縁を巻き、湯川左俣の源頭にあたるコルにたどり着いた。平らで快適に幕営できそうだ。西側が開け、遂に硫黄岳の爆裂火口縁の岩壁が見えた。荒々しくて格好良い。しかしそれよりも目を引くものが足元に落ちていた。スマートフォンである。これを落とした人は無事帰れたのか、これを落としたことで記録を上げられていないだけで、その人が初登だったのではないか等、考えが巡る。帰宅後、連絡を取る糸口を掴むために調べたところ、SIMが入っていなかったため、恐らくサブ機的なものであろうが、回収して警察に届けてあるので、心当たりのある方は甲府警察署に相談してください。
相変わらず尾根上は薮が濃く、尾根南側を進む。次第にコメツガシラビソの割合が減り、ダケカンバやハイマツが増えてきた。日差しを遮るものが少なくなってきたが、時折涼しい風が吹くので、プラマイやや暑いくらいだ。
標高2580mくらいから、いよいよ部分的にハイマツを漕ぐようになる。しかし、ダケカンバに守られた草付きも多く、またシカの足跡がそれを繋ぐように走っている。それを辿っていけば、直線的ではないものの、それほど苦労せずに標高を稼ぐことができた。
徐々に草付きの割合が減り、一面をハイマツが占めるようになる。ダケカンバの木に登って次のダケカンバを探し、なるべくハイマツの上を歩く距離を減らそうと試みるが、標高2640m付近で遂にあきらめ、ハイマツの上を直登し始めた。傾斜が緩いため、しっかり上に乗ることができ、それほど難しくない。意外と獣道が通っていることもあり、背丈ほどのハイマツ薮にしては調子よく進む。標高2700mくらいからは腰くらいの高さになり、ハイマツの無い箇所も増えてきた。三角点に出るように進路を取り、薮地帯を抜けた。
三角点からは硫黄岳山頂になくさん人がいるのが見えた。崩壊縁沿いに少し下ってみたが、やはりこちらのほうが薮が濃いようだ。
「行き止まり」「Dead End」と書かれた看板を越えて、登山道へ生還した。
下りは、登ってきた尾根を眺めながら、夏沢峠から本沢温泉方面へ。温泉に入ろうかとも思ったが、雲が上がってきていたため、次回以降の楽しみにとっておいた。代わりに?本沢温泉野営場の近くの「毒沢」を味見してみたり(金気がした。飲み込んでいない)、「毒沢」と「水場」の石をひっくり返して棲息する生物の違いを見たりして遊んだ。
途中で三角点のある「ハゲ山」に寄った。ここもかなり踏み跡が薄いが、初登ではなく、山頂には木にビニールテープが巻いてあった。四駆車用の駐車場のところで登山道に復帰。そこから先は駆動方式というより、車高が物を言うような道だった。自転車でもちょっときつそうだと思いながら、車まで歩いた。
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