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ここのところひとさまの山行記録ばかり眺めて登らぬアルピニスト、歩かぬウォーカー状態に陥っていたので、大阪駅バスセンターまで自宅から歩いて行く事にした。毎日の散歩よりは、多少距離が稼げるであろう。
腰に水筒をぶら下げ、帽子を被る。まるで小学生の遠足といった出で立ちだが、まさにその通り。遠くまで足で行くのは、訳も無くワクワクするものだ。が、両手にポールを持ちトレッキングシューズを履いているのが、せめてもの山屋の証というところか。
歩き慣れた最寄り駅を通り過ぎ、イナロク(R176)に出た。幹線国道だけあって歩道もしっかり整備されており、裏道を歩くよりも安全だ。30分ちょっとで神崎川を渡る。今日は残念ながら大気の状態が不安定で、夕焼けは無い。
山陽新幹線の高架にN700系を見送った後、すぐに地平の踏切に行き当たる。目の前をサンダーバードの回送が通過。4000番台だから、通称「ヨンダーバード」か。などとマニアックな話題はさておき、あれに乗ると北陸まであっという間に快適旅行ができるのだろうなあ、とふらちな妄想が頭をよぎる。
が、オレはしがない山ガラス。少しでも廉価に、しかも効率良く山の行程をこなすために北陸ドリーム号なる夜行バスで行くのだ。邪念は消そう。そもそも上高地へ行くのに北陸経由自体が効率良くは無いのだが、富山で相方と待ち合わせするため、富山駅〜高山駅経由で入るのである。それもまた旅情をかきたてる。
ほどなく十三の歓楽地を通り過ぎ、新淀川にさしかかる。いつも電車やバイクで通過する時はさして気にも止めない情景であるが、歩いてみると大きな川を実感する。上空の雲達は西から東へと素早く駆け抜けているが、川面を渡る風はどの川も川上から川下、東から西へと吹いている。
いつの世も変わらず旅人を癒してくれる母なる大河。その恵みに感謝しつつ、長い橋を渡り終える。正面には建設中の大阪北ヤード、通称「うめきた」が威容を現しつつある。右手のツインタワー、「梅田スカイビル」が完成した時も度肝を抜かれたが、最近のキタの変貌ぶりには目を見張るばかりである。
中津を過ぎるともうキタの一画。見慣れたヨドバシの角を曲がり、新装なった大阪駅バスターミナルへ。無事チケットを変更してもらった。一回の変更だけ手数料がかからないのは知っていたが、支払うどころか、140円くれた。なんかよくわからないが、お気に入りルートに入れているからポイントがうんぬんかんぬん。まあ、もらえるのだから良しとしよう。
水筒の水だけではノドが乾いていたので、天の助け。すぐにその140円を持ってKIOSKにかけこんだ。第三ビール139円なり。1円の利益である。そのまま今日の目的の一つである、JR大阪駅の渡り廊下へと歩を進めた。
今日の山頂乾杯は、帰省や行楽の人で大にぎわいの大阪駅プラットホームを見下ろす、時空の広場。何度か訪れた事はあるのだが、いつも思うのは昔の大阪駅とのあまりの変わりよう。まるでヨーロッパの終着駅を思わせる、堂々としたドーム状の屋根を見上げながらしばし若き岳人だった頃を憶う。
淀川を渡る風も気持ちよかったが、昔と変わらず凛とした10面ほどのホームを行き交う電車達が連れてくる鉄の風も心地よいものだ。昔の10番線から、急行きたぐにやちくまの車中の人となってまだ見ぬ劔や穂高に心震わせていたのは、何十年前になるのだろう。
今や風前の灯となった思い出の夜行列車を見届けると帰宅するのが午前様になるので、立ち去り難い想いを振りほどき、北へと帰路につく。構内を出たとたん、大粒の雨が降り注いできた。すぐさま地下街への入り口の屋根へ避難。しばし雨宿りがてら観天望気をすると、上空は厚い雲だが西の空には都会の星がまたたいている。行ける。まだ多少ぱらついているが、歩き出した。
同じ道を帰るのは面白く無いので、国道の反対側の歩道を歩く。一見同じ道のようだがそこは天下の大国道、幅が広い。往路は東ばかり見ていたのが、反対を歩くと今度は西の景色が良く見える。何事も視点を変えれば、新しい楽しみが発見できるものである。
このような都会の中をうろつく事など、考えようによってはつまらない事かもしれない。しかし、クルマや電車で高速通過していたら気付かない素晴らしい情景に出会える事を再認識する。
また淀川を渡り、今度はネオンきらめく十三に突入する。しかし、大都会の歓楽街でハーフパンツにトレッキングシューズ。両手にはWストックの怪しげな出で立ちの私を見て、客引き達は何の声もかけない。彼らもプロ、一目でぼったくる金など持ち合わせていない事を見抜いているのだろう。好都合である。
少しばかり足裏が痛くなってきたころ、最寄り駅を通過した。我が黄金の御殿はもうすぐだ。
余談だが、先日先輩が訪ねてくれた際、山道具とカメラ機材に埋もれた我が家のあまりの狭さに絶句されていた。その先輩は、キャッチボールができそうな豪邸を自らの腕で建てたカーペンターだからなおさらである。
が、狭いながらも楽しい我が家。人生座って半畳、寝て一畳。ベッドに寝そべりながらすべての用事を腕一つで済ます事ができる、私のような横着者にはこの上ない理想郷である。というのは、寸分の隙もないパーフェクトな負け惜しみであるのは言うまでも無い。
無事用事を済ませて辿り着いた我がマンション。待ち構えていたのは八階まで果てしなく続く心臓破りの階段である。ここまで歩いてエレベータを使うのも悔しいので、いつもと同じく階段登り。これが一番きつかった。
このようにしてたかだか20kmにも満たない何の変哲も無い平地の散歩が終わったのであるが、実に充実した5時間であった。しかも、一円の利益を生んでいる。
すぐ横を電車が10分に一本以上通過してゆく。路線バスもある。なぜ、一般的には無駄とも思えるこのような酔狂な行為を行うのだろう。
楽しいからである。
かつて大学山岳部の監督をしていた頃、覇気もなく前年同様の計画を立てる学生達に義務感で登る山の無益さを説いたことがある。
決められた事はこなす。言われた事はやる。が裏返すと決まった事、言われた事しかしない。
私は自画自賛ではあるが、いかに楽しく固定観念に縛られない人生を送るかをテーマに若い頃から登ってきた。それが今の創造力を必要とする仕事にも役立っている。
安全に留意するのは大前提、そんなことは当然の事である。その上で楽しく希望に満ちた生き方をするべく努力してきた。
他人の言う事を総て鵜呑みにし、模倣をして何が楽しいのだろう。
最後の一節は完全に余計なお世話。仕事や地域社会の付き合いならともかく、趣味の世界はあくまでも自分の好みで行うものである。主義主張はそぐわない。しかし、可愛い後輩達に少しでも熱い眼を持って欲しかった。もう大人数のパーティー登山をする事も無いだろうが、若き頃は青臭く若者を指導していた自分がいたことを多少気恥ずかしいながらも頼もしく思える。
これからは他人に迷惑をかけることなく、おおらかにひっそりと登りたい。
こんばんは〜就寝前の香り高い文章?、眠気が後退りしたみたいです
7月の下旬、初めて十三大橋を梅田へ歩きました。戦前の古い橋だったんですね〜と妙に感動
職場は十三乗換の京都方面ですので、普段梅田は利用しておりませんが、宝塚線の各駅間は途中下車等々、機会あれば歩いております。但し、当方はビジネスシューズ(風のウォーキングシューズ)に肩掛けカバンと見るからに仕事帰りのサラリーマンですが
但し、176沿いの空気環境には馴染めず仕舞い、最近はより郊外、若しくは千里丘陵横断ルートを模索しております
今日?から遠征ですか〜良い旅になりますよう祈っております
inakabusさん、こんばんは。いつもながらの独り言にコメント、ありがとうございます。
今宵は盆休みの都心とあって、国道は空いていましたので快適でしたよ。最近、中津界隈の古い町並みや橋などがTVでもよく取り上げられていますね。
温故知新と言うと大げさですが、やはり伝統とか文化は大事にしたいものです。
千里丘陵、アップダウンが多いのでトレーニングにはもってこいですね。東豊中あたりの豪邸を見て回るのも、社会勉強と思っています(笑)。
信濃路遠征、本来は今日(8/12)出発だったのですが、明日豪雨の中テント設営がこの上なくイヤだったので、相方に事情を話して一日順延しました。明日出発です。今回はまったく山歩きをしない相方同伴ですので、山行記録では無く、この日記に道中記をアップしますね。
sekitoriさん、こんにちは。
アーバンアウトドアライフですか。都会の人しか味わえない、特権ですかね。バイク専門と思っていたら、歩く事もあるんですね。
私も、京都、奈良、大阪をメインに街中を歩きますが、交通機関での移動と異なり、新発見する事があります。
「毎年同じ事を云々」確かにそうですね。私が若かりし頃学校で、先生が黒板(今はホワイトボ−ド)に昨年使用していた方眼紙に書いた文面をセロテ−プで貼っていたのを思い出しました。
「ビ−ル片手に」最高ですね。
山から帰ってシャワ−後の一杯、それも最高の幸せですね。
nonkibouさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
たいそうなタイトルを付けましたが、昔アウトドア用品の業者向け展示会を企画した事がありましてその時のテーマを思い出して、つい。
都会だから緑が無いとあきらめずに、視点を変えれば楽しめるものです。
普段の買い物や用事は極力バイクを使わず、歩いていますよ。以前山暮らしをしていたときの方が、駅まで遠い事を理由にどこへ行くのも乗用車を使い、不健康な生活だったのかもしれません。
何十年も同じ解釈が続く学問等では、前年同様の講義もやむを得ないかもしれませんが、趣味や遊びの可能性は無限に広がっていると思います。
私は他人の遊び方を参考にはしますが、決して真似はせず創意工夫することに楽しみを見いだしています。
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