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この花は、1957年、清水大典、福島定次郎両氏が秩父の武甲山で発見したもので、コイワザクラの変種である。この花の悲運は、石灰岩の岩壁に咲く故に、石灰岩採掘地の拡張とともに自生地ごと消滅の道を歩んでいかざるを得なかった点にあった。それは、頂上をも失った武甲山の悲運そのものと言っていい。もっとも、近年、毎年春には麓の武甲山資料館に採石地内で増殖されたチチブイワザクラの鉢植えが展示されている。関係者の方々のご努力は、大いに評価されていいだろう。
絶滅への危惧は、コイワザクラにも言えることだ。鮮やかな桃色の筒状花の先端は5つに深く切れ、それぞれの花弁はさらに浅くへこんでいる愛らしさに、中央基部が黄色いときているのだから、その姿は否応もなく目立つのである。
そんなコイワザクラの可憐な花に出会ったのは、４月の末の天気の良い日ヤビツ峠から塔ノ岳へと丹沢の表尾根を歩いた時だった。
「富士見つつ峰こえくれば岩陰にコイワザクラのひそやかに咲けり」
次の年の春、札掛から行者ヶ岳東尾根を登り、表尾根に合流し塔ノ岳まで足を延ばし、長尾尾根を札掛へと周回した時、やはり行者ヶ岳山頂付近の岩場で再会した。4月の土曜日の5月を思わせる暖かな天候にもかかわらず行者ヶ岳東尾根でも長尾尾根でも一人の登山者に出会うことない静かな山歩きだったが、表尾根では一転、様々な世代のハイカーたちがひっきりなしに往来していた。さりげなさを装いながら撮影に夢中の私を尻目に足早に通り過ぎていく若者たちには、花には興味はないのかといささか不思議な思いがしたが、一方でそれくらいであってほしいと願う私がいたのだった。
「行く春を惜しみつこゆる尾根の道小岩桜よ人知れず咲け」
思い入れの深い花に実際にお目にかかれば、うれしいものである。コイワザクラより一回り大きい花をつけるイワザクラには、鈴鹿の鎌ケ岳の長石谷で出会った。この時は、一筋縄では出会えなかったのだから、余計にうれしく感じ、思い出深い。
イワザクラを見逃すまいと、注意深く沢を遡上して行ったつもりだったが、イワウチワ、バイカオウレンなど可憐な花には巡り合えるが、肝心の花が見当たらない。結局、犬星大滝のところまで来てしまって、さすがにこれはまずいと、標高差にして80mほど下って行って、ようやく会えた。なんと、目線ほどの高さの岩壁の隙間に咲いていたのだった。
「登り行き下り来たりて相見たり岩陰にひそりイワザクラの花」
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写真�◆［觴�のイワザクラ
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