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仙丈ケ岳でアルプスデビューを飾ることになった相棒。無事に登頂を果たしたものの、下山中に両足の登山靴のソールが完全に剥がれてしまう。
修理して下山を再開したものの、バスの時間は迫ってきた。だが北沢峠まであと20分のというところで、登山者が渋滞の列を作って止まっている。なんと!30mほど先にツキノワグマがおり、進めないのであった。
前編はこちら
http://www.yamareco.com/modules/diary/36225-detail-124313
中編はこちら
http://www.yamareco.com/modules/diary/36225-detail-124961
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道具の破損やケガ病気といった、メジャーなトラブルは、学生時代の訓練や実際の対処を経験しているので大概は問題ない。しかしクマとの遭遇というのはあまりにレアケースで未経験だったので"どうしたものか?"と困った。
よく聞かれるクマに出会った時の対処は
・つとめてやさしい目で
・クマから目を離さず
・ゆっくりあとずさりして
・決して大声をあげたりしない
・死んだフリ
うんぬんかんぬん・・・
などと言われるが、ほとんどの場合はクマの方から逃げるらしい(至近距離でも)。上記のような対処法の効果は賛否両論あるようだが、襲われたらもうどうしようもないのだそうだ。
黒部の山賊では筆者がツキノワグマに餌付けして山荘で飼っていたなんてエピソードもあり仰天したが、何をもってクマを危険とするかの条件はよく考えるべきなのだろう。
実際そのときに”対処"を実践している者は一人もおらず、ある者はホイッスルをピーピー吹いて人間の存在を知らしめたり、ある者はイチガンを構えて写真を撮っている。
クマはクマでこれまた悠長で、人間の存在に気づきながらものんびりと登山道を横切っていた。
昨日、長衛小屋にテント泊の受付時、
『夜な夜なクマが食料を狙ってテント場を徘徊してるので、食料をテントの中に入れておけ』
と、恐ろしいことを言われていたのだが、きっとその"悪クマ"に違いない。
人を怖がらず、距離感を掴んでいるのか?山で会うカモシカなんかと同じように、他の野生動物となんら変わらないように感じた。
突然、
『キャァァァァァァァーーーー!!』
若い女性の悲鳴がけたたましく響いた!
えっ⁉ 何⁈
((((;゚Д゚)))))))
どうやらシビレを切らした若い女性が、登山道を強行突破したようだった。わざわざ悲鳴をあげて通過する必要はないと思うが、まあ、ちょっとパニック気味だったのであろう。
それでもクマはマイペース。自分は人間より強いと思ってるからなのか、なかなか図太い感じだ。
『クマ!早く行けよ!』
私もホイッスル組に加勢するため、ザックからホイッスルを取り出して、大きく息を吸い込み、思いっきり吹いた!
『ビ^v^v^v^v^v^v^v^vーーッ!』
しかし、それに反応したのは残念ながらクマではなく、前の方にいた"イチガンを構えたオジさん"であった。
『せっかく写真を撮ってるのに何をしてくれるのだ!』
と言わんばかりに怪訝な顔をされた。
失礼しました・・・って、悪いことしたのかな⁈
やがて、そんな"てんてこ舞い"な人間たちを尻目にクマは森の奥に悠々と消えていった。
良かったーーと思いつつも
『写真を撮っておけば良かった!』
というのが心残りであった。
それよりバスの時間が迫っている!テン場に戻り、大急ぎでテントを撤収し、そして北沢峠のバス停まで林道を急いで歩いていった。
バス停までの広い林道をセッセと歩いていると、前から人が焦るように小走りして向かってくる。なんだか様子がおかしい。
すると、すれ違いざまに
『クマがいるんですよ!』
と言って林道わき野山の中を差して教えてくれた。
『アイツまだいるのかよ!』
しかし、あんな調子のクマである、無視すれば問題なかろうと、そのまま突っ切ることにした。
山の中をのぞくと、いる!アイツいる!
30mくらい先の林の中でモゾモゾと黒いのが蠢いている。
そのまま通り過ぎればよかったのだが、写真を撮れなかった『心残り』を思い出した。写真好きな私にとってシャッターチャンスである!
『イチガンのオジさんが大丈夫だったのだから問題ないだろう』
と熊に向けてカメラを構えシャッターを切った。
(表紙の写真)
ただ、その時クマの真正面だったというのはさすがに良くなかった。
『ガバッ!!!』
ファインダーの中でクマがこちらを向いて立ち上がった!
『キャァァァァァァァァァァ』
今度、悲鳴を上げたのは相棒であった。
つとめてやさしい目で・・・いや!!
一目散に退散である。
まあ、実際はクマは立ち上がってこちらの様子を見ただけだった・・・。
とまあ、そんなこんなでバスにもなんとか間に合い、無事山行を終えることができたのであった。
――――――――――――
こんなドタバタ山行で、相棒は山を嫌いになってしまっただろうか?
いや、それどころかスッカリ山に魅せられてしまい、『本気で山やりたい!』と言いだした。トラブルがあったとはいえ、快晴の中で登頂し、しかも雷鳥に会え大満足だったのである。
でも『ねずみのおウチ』の登山靴はゴミ箱行き。
さっそくトレッキングシューズを買ったのだが、予想外にも奥穂高とか白馬とかテント泊で岩陵帯の山をガシガシ登ったため、靴底はケズれ縫い目もほつれ、1年であっという間にご臨終となってしまった。
次にワンランク上の靴を買ったものの、北アルプス〇〇銀座テント泊縦走やら雲の平縦走と、山行がハードになってしまい、またもや1年半で靴底がケズれ、トゥカップも剥がれてしまう。
さすがに山行スタイルに靴がついてこないと自覚した相棒は、ツワモノ店員が揃っていることで名高い水道橋の名登山用品店に意を決して"買い物バトル"に向かった。
店員は全員登山の猛者なんじゃないか?と思えるほど熟練なアドバイスをくれる店で、買う側も気合いがいる。
以前、着替えを入れる防水バッグを買おうとした時など、
『まぁ、長期縦走でも"殆ど着替えない"ので小さいので十分なんじゃないですか?』
と真顔で勧められた。
私の顔に『臭クテモ気ニシナイ』と書かれていたのかもしれないが、これから山を始める山ガールに同じこと言ってないかとても心配になる。
靴の店舗で1時間ほど店員と熱烈な議論を交わし、店内を歩き回った結果、LOWAの〇〇〇GTXとかいう、これまた立派なのを選んだ。
スェードをまとったえらく頑丈なやつで、つま先にクライミングゾーンが付いているだけでなく、セミワンタッチアイゼンのコバまである。ジャンダルムや、残雪期のアルプスにも突っ込んで行ける靴である。
もう靴底が剥がれることも、ねずみちゃんのおウチになることもないだろう・・・
トラブルはないに越したことがないし、重大な事故を起こさないために、いつも入念に計画と準備をするわけだが、あの時の仙丈ヶ岳の思い出はなぜか愛おしく思える。
そこには山の教えと、さまざまな思い出が詰まっているからなのかもしれない。私も久しぶりのアルプスだったが、山を始めた頃の思い出のように新鮮な感じがするのだ。
トラブルも多かったが、それはそれでキラリと光る思い出の”ひとかけら”なのである。
おしまい
他のドタバタコメディを読む
www.yamareco.com/modules/diary/36225-category-4
cajaroaさん、こんにちは。
日記、楽しく読ませていただきました(^^)
私は幸い熊には出会ったことは無いのですが(出来ることなら出会わずに💦)、先日登った日光男体山では、間近で星カラスに出会いました。
首をちょこんと曲げた姿が、とても可愛らしくて、下山の際も出迎えてくれました💕
山でのトラブルは、出来れば無いに越したことは有りませんが、私の場合、槍ヶ岳と穂高で体調のトラブルに見舞われ、その時は「何で来ちゃったんだろう😢 私は身の程知らずだったのかなぁ〜」とかなり落ち込みました。
でも、今となっては辛かった分、とても思い出に残ってます。
またいつか、ジャンダルム縦走を楽しんで歩けたらなどと、ちょっと思っちゃったりしています😁
ak0211さん
こんにちわ
ホシガラス可愛いですよね。カラスと付いているけど、模様が綺麗で同じカラスとは思えません。
未だに会えていない山の動物はオコジョ。レコで写真を見るたびにいいな〜と思います。一度それらしき影が見の前を横切ったのですが、黒い残像のようにしか見えず、果たして何者だったのかわかりませんでした。
トラブルは忌むべきものですが、安全を著しく犯さないレベルでの小さな失敗は大きなトラブルを想像し、抑止するための材料となるので、決して悪いものでもないと思います。
えらい長文になってしまいましたが読んでいただきありがとうございました。
待ちに待った最終編!
クマ、それも一日に2頭に出合う!?!?
(2度も出会う??)
写真、合成かと思いましたが
クマはリアルだったのですね
本当にクマの恰好してる…
(当たり前ですが)
トラブルはその時はトラブルでも
後になれば印象にといいますか、
思い出、記憶に残りますよね。
(もちろんトラブルと言える程度のもので
事故レベルまで行くと軽くそうと言えませんが)
でも、すっかり山にはまって
一緒に山を歩く相棒になられて
良かったじゃないですか〜
ところで、ネズミちゃんのお家になった初代靴、
ゴミ箱行きでしたか…
もしかして、大切に保管され
また新しい用途を見出されたかも…と
あるいは殿堂入りしてるかと…
heheさん
こんにちわ
気合いを入れすぎて長くなってしまいました。読んでいただきありがとうございます!
出会った場所の距離を考えると二頭は多分おんなじクマなんじゃないかと思います。とはいえクマを識別できるほどではありませんので確証はないですが。
写真はもちろんリアルなクマです。クマを実際見ると、山にクマはいるんだな。という実感が湧きます。
また、クマに会う前は、クマは恐ろしいだけのものだと思っていましたが、実際会って見ると、イメージが変わりました。カモシカとかと同じような山にいる隣人というイメージが少し強まりました。
一歩間違えれば大変なんでしょうけどね。
ウチの相棒はモノにこだわりがないので靴は遠慮なく捨てられてしまいました。植木鉢にでもすれば、美しい話になるのでしょうが、あまりに考え方が合理的で感動モノにならないのです。すみません。
私はイタリアで買った、綺麗なオリーブオイルの瓶を、取っておいてあるのですが、それいらないでしょ?と狙われたりしています。
cajaroaさん、こんにちわ。
最終編楽しく読ませてもらいました。。
クマに遭遇しても意外とみなさん冷静というか、
鈍感というか。。(笑)
まあ、人なれしていない熊なら、
よほど刺激しない限りは大丈夫なのかもしれませんね。
追っかけられたら、帽子脱ぎ捨て、上着脱ぎ捨て、
ザック脱ぎ捨てて、最後は裸で熊の子に
なりきるとよいらしいですよ。。(最後だけ嘘)
それにしても相方さんのはまりぶり。。
羨ましいです。。
k-yamaneさんこんにちわ
クマにあった時どうすればいいのか?結局みんなよく分かってないので、『なんか襲って来ないぞ』と思った瞬間、よく分からない行動を取っちゃうんでしょうね。
世間で言われている、恐怖の塊のようなイメージとあまりにギャップがあるので、拍子抜けしてしまう。でもそうした時にどう行動すべきかは分からない。
我々のクマのイメージは最悪のケースの集大成で、しかも本当に人を襲うエゾヒグマのイメージが混じり混んでいるような所感もあり、正確なツキノワグマのイメージを掴みきれていないような気がします。
今回、参考にした『黒部の山賊』筆者の伊藤さんは、クマ(ツキノワグマ)には数えきれないほど出合っていらっしゃる方ですが、いつの場合でも熊のほうが逃げてくれたので 、どうということもないと書かれています。
ただ、にらみあいになったら、恐れずにらみ合いを続け、決して背を向けてはいけないと書かれており、やっちゃいけないルールについても指摘されていました。
そういう意味で、それに近しい行為である、若い女の子が悲鳴をあげながら登山道を強行突破したのと、私が最後一目散に逃げたと言う行動は間違いだと思っています。
追われたら、もうどうしようもないのでしょう。それこそ、ザック脱ぎ捨てて、とかするしかないのでしょうね。
よく山菜採り等ニュースで事件が報道されますが、踏んではいけない何かのスイッチを踏んでしまっているのでしょう。上記のようなルールなのか、縄張り的なものなのかなのかはわかりません。
ところで、誰か山に夢中にさせたい人がいるのであれば、私の経験上、晴れたアルプスと雷鳥と道具の破損とクマで間違いないと思いますよ(笑)
いつも読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
cajaroa さん
ご無沙汰してます。(^-^)/
久しぶりにお邪魔いたしましたが
いつも話の展開がとても面白く
つい引き込まれてしまい。。。
相変わらずイノキチ可愛いし!
また寄らせてもらいまーす。
sionさんこんにちは!
お久しぶりです!
イノシシと登山をした話でネタ切れかと思いきや、探せばあるものでボチボチ書かせていただいております。
山行全体として見てみると大したことはなくても、部分的に切り取って結構いろいろあるものなんだな〜って思います!
ウチも基本的には普通なんですけどね!
読んでいただきありがとうございます!
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