1963年にカナファーニは「太陽の男たち」を発表した。
この小説の中で三人の男たちは、クエートに出稼ぎに行こうとするのだが、あくどい密入国請負い人に莫大な金を請求されて、うちひしがれる。そこで密入国を手伝って小銭を稼ごうという一人のパレスチナ人運転手に賭けてみる気になり、空の給水タンク車に乗って、国境に向かうのである。それは生命を暴力的に破壊し尽くす太陽と、焼けただれた砂塵の世界だった。灼熱の太陽にさらされ、なぎ倒されそうな人間たちの姿は、そのままパレスチナ人の状況を映している。
国境の手前で、三人は空の給水タンクの中に身を沈めた。イラク側の検問所は通過できた。
タンクの中から裸で這い出る男たちは、息も絶え絶えになっている。休息は少ししか与えられない。再び三人はタンクに入り、車は疾走してクエート側の検問所に到着し、運転手は書類を抱えて事務所に飛び込む。
しかし国境の役人たちは、なかなかビザにサインしない。
ようやく車に飛び乗った彼は、全速力で国境を越える。しかし、タンクのふたを開けた時、三人は死体になっていた。三人をゴミ捨て場に捨てたあと、運転手は「巨大な理念」にとりつかれる。それは燃えさかり、脳漿を焼き尽くす。そして叫ぶ。
「なぜおまえたちはタンクの壁を叩かなかったんだ・・・・」
(黒田壽郎訳、前掲「太陽の男たち」)
広河隆一著 「パレスチナ」より
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