著者ジュリアン・サンクトンは2015年の「ザ・ニューヨーカー」の記事「火星への移住」から13か月間南極の氷に閉じ込められたベルジカ号の存在を知り、現存する航海日誌や乗組員の日記、出版された航海記などからベルジカ号の記録を再現します。隊長はベルギーのアンドレア・ジェルラッシュ・ド・ゴメリー。隊長を曽祖父に持つ子孫はセブンサミッター。船長ジョルジュ・ルコワント。一等航海士は若きロアーム・アムンセン。医師は後に世紀の詐欺と言われたフレデリック・アルバート・クック。13か月間氷に閉じ込められ、白夜と極夜を暮らすと人間はどうなるかを一次資料を引用しながら克明に描写します。転落死するもの、壊血病で亡くなる士官。発狂する船員。いままで白瀬中尉の「極」、「アムンセンとスコット」を読んでいましたが、このベルジカ号のことは知りませんでした。本多勝一の本には800文字弱の記述があるのみです。この本が初めて正面からベルジカ号を取り上げた書物のようです。本書の印象的な記述は無事南極の氷から脱出してそれぞれの国に帰った後の隊員たちの後日談でしょうか。栄誉をつかんだもの。詐欺の疑いで投獄されたもの。婚約者や肉親を航海中に亡くしたもの。発狂が治らずロボトミーで有名な精神病院に送られたもの。壊血病かヒ素中毒で体調が長く辛かったもの。
しかしながらベルジカ号の記録は南極点到達はできなかったものの多くの学術的資料と閉鎖空間での共同生活の教訓は残したようです。
クックがヒ素を使って現像した貴重な写真も多く掲載されています。
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