「おやじが危ないから行っちゃだめだっていうんだ。」
「わかった。それじゃー予定通り。」
と言って電話を切りました。
予定通り友達と二人でハイキングに行くと親には言って翌朝家を出て行きました。
中学校三年生。卒業を控えた3月上旬です。
氷川駅(現奥多摩駅)を降りて水根でバスを降りる。
民家を抜けて山道に入る。
初めは伐採地で明るいが植林に入ると暗い。
木の棒を護身用に握り、足早に進む。
大丈夫。俺には加藤文太郎がついている。
やがて雪が出てきた。
しかも踏み固められてカチンカチン。
入学祝いに買ってもらった本格的登山靴。
セルバンシューズでは歯が立たない。
危うく谷に転落しそうになる。
白い雪を拾って進む。
尾根に出てからもカチンカチンの道が続く。
滑り始めると止まらない。
やっと水平な道に出た。
避難小屋が見えてきた。
あれ、鷹の巣山の山頂はどこだ?
立派な小屋だが入っていいものかどうか迷う。
お金もぎりぎりしかないし、休憩料を取られたら困るので、外の雪の上で缶に入った固形燃料でご飯を炊く。
芯だらけのご飯に卵をかけて食べる。
もう山頂は諦めて日原に降りはじめる。
(今は廃道になった巳の戸沢コースです。)
東西南北も理解していない私は北斜面の雪の多さに驚きました。
というか3月に山に雪があることすら知りませんでした。
薄暗い雪道を必死で降りる。
すっべて有刺鉄線にぶつかる。(当時は山葵棚が沢山ありました。)
大丈夫だ。俺には加藤文太郎さんがついている。
もう夕暮れだ。
やっとの思いで日原のバス停に着いた。
目の前の民家の藁葺き屋根にいろいろな草が生えていました。
最終バスを待つ間、マスクをしていたことを思い出して外してみた。
刺すような冷気です。
慌ててまたマスクをすると、そのマスクはカチカチに凍っていました。
父親に反対されて山に行くのを止めた同級生はその後、証券会社の副社長にまでなったが、劇症糖尿病であっけなく亡くなった。
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