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Yamareco

記録ID: 21132
全員に公開
沢登り
中央アルプス

三ノ沢岳(奥三ノ沢→伊奈川)

2003年06月05日(木) 〜 2003年06月07日(土)
 - 拍手
GPS
56:00
距離
23.1km
登り
2,064m
下り
2,478m

コースタイム

6月5日寝覚ノ床のあずまや泊→木曽駒ヶ岳登山道林道のゲート・発(7:30)→車道終点(8:00-8:20)→三の沢二股(9:20)→奥三の沢二股(10;30-12:40)→F1(12:50-13:50)→F2(14:00-15:00)→F2上のC1(15:30)
6月6日C1(7:00)→雄滝の上(8:30)→三の沢岳頂上(12:00-13:15)→伊奈川標高1990C2(15:30)
6月7日C2(8:30)→標高1370登山道の渡渉点(12:30-50)→八丁峠(13:15)→国鉄倉本駅(15:00) →ドライブイン木曽
天候 一日目、快晴のち曇り
二日目、晴れ・ピシャリ山頂
三日目、晴れのち雷
過去天気図(気象庁) 2003年06月の天気図
アクセス
コース状況/
危険箇所等

感想

主稜線からはずれた三の沢岳は、宝剣岳から道アタックなどしてはいけない。北面の滑(なめ)川支流、奥三の沢は中ア随一の滝の沢だそうで、これが一番礼儀正しい登り方でしょう。長年松原君が暖めていた案は山頂からの下りには南面の長大な伊奈川を下ること。伊奈川は西の木曽川になかなか合流せず、前衛の山脈を境に延々30キロ走る。屏風のように立つ山脈からさっさと木曽川や天竜川に流下する沢の多い中央アルプスにあって個性ある川だ。下半分は例によって林道とダムが延びているが、空木岳木曽側登山道が渡渉する15キロ地点までは無垢の川が残っている。急げば二日の行程だが、伊奈川をぶらりと下りたくて、三日を組んだ。

一日目、快晴のち曇り・気がつけばまだ六月だ

木曽川の景勝地、「寝覚めノ床」の公園のあずま屋で前夜泊。あずま屋は狭く、せいぜい二つ星クラスだがロケーションは最高。言葉通り寝覚めノ床で目を覚ます人はそういない。国道19号線から滑川への入り口は相当わかりにくい。特に僕の五万図は20年近く前のものなのでトンネルやバイパスが変わり果てていて苦労する。林道ゲート前は巨大堰堤と巨大橋、巨大石碑に芝生のサラ地など、砂防建設屋天国だった。澄み切った青空に御嶽山がデーンと見える。

林道を進み、広く傾斜のある滑川本流をゆく。カモシカ2頭がパカパカと走っていく。速いものだ、感心。本流はまっすぐドン突きに宝剣岳とその左に天狗岩が聳えている。天狗岩は斜めに覆い被さり、飛騨尾根からのジャンダルムの様だ。奥三の沢出会いは早くも雪渓に埋まっている。考えてみればまだ六月だ。三の沢出会いからの時間が短かすぎた気がして、さらに進んで四の沢出会いまで確認に行ったりする。三日もあるので焦らない。岩の上で昼寝までして余裕をかます。

出会い40m二条の滝は中間部分を松っちゃんがトップ。雪渓がふさぎ、上部8mほどになっている。水の滴る傾斜のある壁で、墓石大の岩がはがれ落ちそうでいやな感じ。そのすぐ上の雪渓の上にはたいそうな構えのF2,40mが現れる。やはり雪渓にフタをされ上部20mほどだ。上のほうが難しそうだ。一般的には左岸を巻くのだが、松っちゃんが滝に挑戦する。左岸は下部がいやらしく敗退。続く右岸は、半分ほど上ったところでシャワー浴びながら左岸へトラバースしなければならない。水流を浴びたところで悲鳴。振り返った松っちゃんの目と口は大きく開かれていた。この寒さでシャワー浴び横断はどうかやめてほしいと思ってビレーしていたので、こちらは一安心。懸垂で降りてきた。「低体温症だーっ!」かれこれ30分、雪解け水流の飛沫を浴び続けていたので体幹まで冷え切った様子だ。冷たい水でずぶぬれのジャージを脱ぎ、フルチンで振り回して脱水する。

諦めがついて左岸の苔むした急斜面を高巻き、流れに戻る手前で天場。滝の真上でたき火をするが、この上は見渡す限りビッタリ雪渓に埋まっている。吹き下ろしの風が寒い。午後は日が陰り、たき火は快調なのだが冷え切った松っちゃんはなかなか回復しなかった。

二日目、晴れ・ピシャリ山頂

夜は結構寒かった。二人ともシュラフは1リットル牛乳パック大の600グラム、シュラフカバーは缶コーヒー大の250グラムの最新軽量装備だ。まだ季節が早い。朝一番からフェルト地下足袋つま先キックで雪渓登りだ。高度は稼げるが息も上がる。雌滝、雄滝の二股。両方40mだが埋まって上部5mほど。始め松っちゃんが雄滝の左岸にとりつくが歯が立たず中間の草付きバンドを上がってトラバース。これを抜けるとゴルジュ風だが、数十メートルのナメ滝も、滝滝滝滝の滝三昧もすべて雪の下だ。朝日を浴びながら今日も顔を灼く。特に大きい滝は落ち口が露出しているが、ほとんどネコまたぎ状態。中ア随一滝の沢もこの季節では形無しだ。頂上直下のルンゼまで雪は続き、ハイマツをまたいでピシャッと山頂に当たった。横になるのに具合のいい平たい岩の上で一時間以上くつろぐ。御岳山が見えないのは残念ながら、中ア全域が見渡せた。どの山も沢の中は雪渓バッチリだ。誰もいない、対岸の滝の音がかすかに聞こえるだけの静かな山頂だ。

下りは「俺にとっちゃーこっちがメインよ。」と松っちゃんがいう伊奈川だ。忠実に、山頂北東面の源流から降りる。小さなカール状地形ですり鉢の底までザックに腰掛けて滑り降りる。宝剣岳からの流れと出会うあたりまでザック滑りで一挙に下降する。雪解けの水流がごうごう流れだすあたりから、ひたひたと天場をさがしつつ歩く。この川は滝や函など目を引く物は一切無いが、山深い大きな川を堪能できる。側面の苔むした森から湧き出でる水流など、目を楽しませる場所もある。

できるだけ日が当たっているように、沢が真西を向く標高2000mを過ぎたあたりで天場とする。広い河原には巨木の流木が無尽蔵だ。たき火は焚き付け無しの一発点火でついた。一本だけ大切に運んできたエビスビールを冷たい水で冷やして飲み、ウインナーを遠火であぶって食べる。定番だがやめられないおいしい儀式だ。東正面には檜尾岳の主稜線と青空が見える。日が沈むまで3時間、沈んでからも北斗七星を時計代わりに4時間、たき火の傍らは退屈しない。ブラックニッカが無くなっても台湾ウーロン茶でのんびりする。

三日目、晴れのち雷・深山大河を下る。

ゆっくり起きてゆっくり出発、幅広い河原だが両岸の樹林帯は手つかず、広葉樹はちょうど新緑でよく光る。相手と百メートルも離れると、広い風景の中を歩いている自分自身の姿に見えたりする。奥深い山の川はやはりいい。近所の山ばかりで済ましていてはいけない。

沢は時折荒れるようだ。破滅的に横たわる流木、転石が大水の跡を示すが、林道工事で荒れた沢との違いは何だろうか。一度、凄い嵐の夜に、この川岸の高台あたりで一晩川を見ていたい気に駆られる。トラックぐらいの岩がごろごろ流れていくこともあるのだろう。

今回はすり切れてしまったフェルト地下足袋の足裏に手製のフェルトを貼り足して望んだ。接着面は最後まで剥がれなかったが、フェルト自体の強度が弱く、三日目には下地が露出してしまった。材質の改善が必要だ。やはり秀岳荘のはただのフェルトでは無かった。

途中、釣りにきた三人の青年にあった。イワナが多少釣れるらしい。僕らが釣りをやらないというと、「もったいないですね」と言った。標高1500mを下り川が屈曲するあたりでは青い釜や淵も現れるが、やがて堰堤、取水口施設があり、登山道渡渉点に着く。人造物が現れてからの川の様子は何かがさっと変わる気がする。

ここからは前衛山脈の峠を越えて、木曽谷へ抜ける空木岳登山道をたどる。今や伊奈川沿いに件の取水口まで伸びた林道があるので、車でここまできてしまう人が多いようだが、少なくとも20年前の僕の地図では林道はもっと遙か下で止まっていて、木曽側からの空木はこの峠越えコースしかなかった。峠までの登り200mはあまり人に踏まれていない様だ。若葉の常緑広葉樹や笹の原、密になりすぎない針葉樹の加減など、とてもよい雰囲気だ。峠も良い。下りの標高1300m付近の広葉樹林帯の中の緑のトンネルは、風呂上がりのように気持ちいい場所だ。トチやミズナラの葉影が揺れ、遠くまで続く、光るうす緑の中に朱色のツツジが一株だけ花を満載させていたりする。

ひぐらし蝉を聞きながら燦々と日を浴び、麓の棚田の農家でばあちゃんに道を聞き、畑の脇の坂道をどんどん降りていくと倉本の無人駅に着いた。なんというか、完璧な下山路だ。もう気分は「昔の人」だ。木曽川本流の流れを見るとじーんとくる。

今回は更におまけがある。かねてよりお気に入りの大衆食堂「ドライブイン・木曽」は倉本駅から19号線を南に歩いて数分のところにある。工事の人の泊まり宿兼用食堂で、トラックの人、工事の人向きのくだけた食堂だ。地下足袋に脚絆で、のしのし入ってぴったりくる店はそうそう無いでしょう。使い込まれた床板、壁いちめんのお品書き、五本指ソックスまで売っていて、いつも誰かおじさんがテーブルの上に一升瓶を置いてお酒を飲んでいる。半世紀前の雰囲気を保存した場だ。ここでご飯おかわり自由のサバ焼き定食を食べて満足。食堂には涼しい風が吹き抜け、遠くで雷の音。梅雨入り前の最後の好天を心底満喫した。町営ねざめホテルの温泉に浸かって牛乳を飲む頃、雨が降り出していた。伊奈川源流の苔の林に降る雨を想像したりした。

で、ヨネヤマさんとの三日行だ。俺は塾を休みにして、ヨネヤマさんは休暇を取って雲上人化す。かねてより計画の、長いラインのこの山行、こだわり抜いた想いが完全な形で実現の運びとなり、現実のものとなった。こういった妙ちくりんな計画に毎度毎度理解を示して付き合ってくれる人もそうは居まい。北海道で山岳思想を育まれた我々ならではの旅の道程であった。
 雪渓の融けきらぬ奥三ノ沢では全ての滝と対峙することは叶わなかったけれども(F2敗退は今もって悔しい!)、三年前に越百山から遠望した三ノ沢岳への登頂、その東に削られた小さなカールから下り行き辿りついた野生味有る伊奈川の広大空間、そして古式床しき倉本下山。ささやかな憧れではあったけれど、我らが懐のモノとすることができたことに深い慶びを感じる。Good story.
<遡行図・概念図有り><ヨネヤマ氏による記録有り(きりぎりす11に掲載済み)> 

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コメント

山岳名著
日本山岳名著にでもなりそうな、ヨネヤマさんの情緒たっぷりの文がすばらしい!
2020/8/13 16:54
Re: 山岳名著
平易な表現にして、奥行きと滋味ある文だと私も常々思います。私なぞ下山後のヨネヤマさんの報告文を楽しみに御一緒している傾向すらあり〼。ヤマレコで米山文を纏めて本にしたら売れるのではないかとも考えます。
2020/8/13 17:36
浮き雲さんRe: 山岳名著
感想ありがとうございます。久しぶりに読んだら、良い山行でしたねえ!
2020/8/14 4:00
プロフィール画像
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