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からの続き
真っ白く湿った空気が風に流されていく、白い山々が荒い呼吸をしているようだ。
男3人連れのパーティーは、この視界の悪さから様子見ということか。
今日の天気は、晴れのはずで天気図から考えても大ハズレは無さそうだ。
まだ朝早いから、そのうち霧も晴れるだろう、しかし、まさに雲の真っ只中といった感じである。
稜線の幅はそれなりに広く、のぼりの傾斜も概ねゆるいので、私はぼちぼち歩いて行くことにした。
4月後半で、それほど寒くなかったが、森林限界を超えると、風も強く当たりだすので、今まで外していた赤いネックウォーマーを着ける。
足もとの雪は硬くクラストしている所が多く、足は全く埋まらずサクサクと進んでいく。後ろを見るとアイゼンの爪の跡が残るか残らないか位だ。
少し急な斜面を登るとき、斜面を斜めに登っていくのだが、アイゼンの片側だけ斜面に刺さっていても十分効いている。
薄暗いようにも感じるが,もう既に太陽は出ているはずで、雪と霧の白が、目に痛いようにも感じる。とにかく真っ白の世界である。
この頃、ヒマラヤなどの登山記録をよく読んでいたので、ヒマラヤにでも来ているような錯覚を覚える。霧がひどいときは、足もともはっきりとは解らないくらいだ。
とにかく横に見える薄暗い稜線からは、極力5メートル以上は距離を置き、こまめにGPSで確認しながら、視界5〜10メートル位の中を、一歩一歩進んで行く。
40〜50分位すると、又霧の中から声が聞こえる、後ろを振り返るが真っ白で何も見えない。
しばらくして大きな石の上に座り、休みをとりながらGPSで現在位置や、これからのルートを確認していると、後ろからの声がだんだん近づき先ほどの3人連れが霧の中から現れ先へ進んで行った。
もう頂上まで逢うことは無いだろう。私はゆっくり休みをとり、またぼちぼちと歩き始める。
頂上まで、あと100メートルを切ったであろう所まで着くと、先ほどの3人が地図のようなものを広げて話している。私は、何をしているのだろう、と思いながらも通り過ぎようとすると、一人が話しかけてきた。
「すいません、GPSを使われてますか」と聞いてきた。
先ほど私が、休みながらGPSを見ていたことに気付いていたようだ。
私は、え、GPSを持たないでここまで来たの?と内心かなり驚いていたが、すぐに取り出し現在位置と頂上の位置の確認をすると、もう30メートルも行くと到着のようだ。
「仙丈ケ岳へ来たことが有るのですか」と彼らに聞くと、リーダーらしき方は何度も来たことが有り、一人は夏に一度登り、もう一人はかなり若く初めてらしい。
この視界のない真っ白の世界をGPS無しでくるという驚きと、何度も訪れたことのあるベテランでも、あと30メートルが解らなくなるのか、という驚きで山の深さを感じた一瞬であった。
頂上に着いても相変わらず真っ白で、風も強くじっとしていると寒い。まだ朝の7時半で3人は少し下がった所で、雲が抜けるのを待つことにしたらしい。
私は今日帰宅を予定しているので、いつ晴れるか解らない霧を待つわけにはいかず、すぐに下山を始める。
しかし下山し始めて10分位すると、徐々に視界が広がっている。雲のヘリが近づいて来たのか、もう30分位すると雲の切れ目から青空も見えてきた。
今回、頂上からの景色は見ることが出来なかったのは残念ではあるが、これはこれで、なかなか出来ない経験であり、大満足であった。
下山中、小仙丈ケ岳の辺りで、次に登ってきた方とすれ違うが、向こうも下山者がいることに驚いていたが、私も驚いた。
その方は60才位はいってそうな男性の単独である。どうやら霧が濃いので樹林帯で霧が空けるのを待っていたらしい。
「今から登ると天気は最高ですね、お気お付けて」と挨拶を交わし帰路についた。
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