4月28日、今城塚歴史館「弥生の丹後王国の盛衰と交易」

2018年05月01日 11:36講演会・研究会全体に公開

4月28日、今城塚歴史館「弥生の丹後王国の盛衰と交易」

　再び郡衙方面に戻り、郡寺跡の看板を見て今城塚に戻る。歴史館内ではすでに入場が始まり、慌てて会場に入って席を確保して、下の常設展示場で今日見た古墳などの遺跡の出土品の展示を見る。三島最古の古墳＝安満宮山古墳から始まり、3世紀後半の岡本山（120m）・弁天山（100m）・郡家車塚（86m）などの前方後円墳の王墓、石槨や木棺の変遷、武具などの副葬品の変遷、巨大古墳と埴輪生産などの展示が続く。前回見た新池埴輪工房跡遺跡に関する展示だ。続いて今城塚古墳の部屋に入り、巨大古墳の設計、築造技術、円筒埴輪、形象埴輪などの展示があり、阿蘇ピンク石などの石棺のレプリカの展示（実物は別に展示）、継体大王の生涯などに関する展示を見る。最後に奈良平安時代の嶋上郡衙跡や郡家今城遺跡の展示、最後に貴人（鎌足？）の墓とされる阿武山古墳の豪華な副葬品を見て講義室に戻る。

　講演者の肥後弘幸氏は元京都府埋蔵文化財センターの研究員で現在は木津川市境域委員会で調査を担当されている。弥生時代の丹後の発掘調査に半生をささげた研究者で、法学部在学中、もともと乙訓で育った考古少年だった肥後氏は丹後半島の発掘に明け暮れていたらしく、丹後三大古墳がなぜ成立したのかの謎を解くために結局考古学の道を歩むことになり、京都府教育委員会に就職を得て埋蔵文化財の仕事に携わることができた。折しも丹後発掘の最盛期にあたり、最初に志高遺跡（舞鶴市）で方形貼石墓に出会い、太田南二号墳、三坂神社・左坂墳墓群など次々に発掘を行い、直接発掘には携わらなかった大風呂南1号墳のガラス釧に立ち会い、赤坂南墳丘墓の調査も行った。まさに丹後発掘の生き字引のような研究者だ。「丹後」はもともとは「タニハ（あるいはタニワ）と呼ばれた地域で、旧国の丹後・但馬・丹波の一部を含む広大な地域で中心は「丹波＝タニハ」という古い地名の残る丹後の峰山町あたりが中心であったという。

1985年、奈具岡遺跡で見つかった貼石遺構は、当初何の遺構か遺跡かわからず、中世神社遺構かと認定されたが、のちに志高遺跡の発掘調査で明らかな古墳時代の層の下に梁石を発見して弥生時代の墳墓と分かったという。出雲地方ではこうした墓の四隅が出っ張り、四隅突出墓が出現、越前や越中にも伝播するが、なぜか丹後では見られないーー。扇谷や奈具岡出土の大量の装身具・玉製作工房跡は大陸との交易品製作による王国の成立・繁栄の基礎となった。
　
　圧巻は日吉ヶ丘や三坂神社・左坂墳墓群の発掘当時のよもやま話。日吉ヶ丘は弥生中期後半の墳墓で、同時期の墳墓としては吉野ケ里に次いで大きく、大量の朱で覆われ、管玉は全国最多の677個も出土、バブル崩壊期にあたる1992年（H4年）ころ、三坂神社墳墓群、左坂墳墓群が相次いで発見される。三坂神社墳墓群はホテル建設により全面発掘された貴重な墳墓群で、京丹後市のデジタル・ミュージアムによると、

「三坂神社墳墓群は京丹後市大宮町三坂に所在し、竹野川右岸の低丘陵尾根上に位置する。平成四年に発掘調査が実施され、墳墓群の概要が明らかになった。墳墓群は、標高68メートル～82メートルの尾根上に階段状に立地し、弥生時代後期に築造された六基の台状墓から構成される。埋葬施設は木棺墓35基、土器棺4基の合計39基である。特に3号墓第10主体部がこの墳墓群の盟主の墓で素環頭鉄刀（そかんとうてっとう）、やりがんな、水晶玉16個など弥生時代後期の豪華な鉄製品の副葬は注目される。全体の出土遺物にはガラス勾玉、ガラス管玉、ガラス小玉、碧玉管玉などの玉類、武器、農具などの鉄製品、土器などで、ガラス勾玉は鉛バリウムガラスである。ガラス小玉は総数2930個を数える。土器は墓壙内（ぼこうない）破砕供献土器（はさいきょうけんどき）などを伴う。丹後の弥生時代後期の方形台状墓（ほうけいだいじょうぼ）を知るうえで極めで重要である。」

とあり、その副葬品の豪華さから、この地域の王墓とされる。この時期から有力者の墳墓が村を見下ろす山の上に築かれ、土器をまく葬送儀礼と武器や宝器などの副葬品が豪華になる。とりわけ、頭飾り、素環頭太刀、儀仗など、王墓にふさわしい副葬品が主体部の木棺の中に収められていた。その近くにある左坂墳墓群は、同様の台状墓だが、副葬品はやや格が下がり,王の家臣の墓らしい。大規模な開発により全面発掘調査が可能だったが、そのためにすべて破壊されてしまった。何とか一部でも保存をという肥後氏の願いは届かなかったと残念そう。

　その後、大風呂南1号墳や赤坂今井墳墓などに王墓が引き継がれ、さらに巨大化していくが、弥生後期の最も美しいと言われるガラス釧（ほぼ完形）を出土した大風呂南も出土品は重要文化財に指定されているが、折しもケータイ・スマホのための電波塔建設が盛んで、残念ながら関西セルラーの電波塔建設で一部が破壊されてしまった。赤坂今井墳墓は何とか残されている。

　肥後氏ら京都府や関連自治体の文化財関係者の努力で、丹後王国の全貌が少しづつ明らかになってきたが、まだまだ未解明の部分も多い。弥生の丹後王国はその後急速に衰退し、ヤマト王権の支配下にはいって、分割され、現在では東京から最も遠い地域の一つとなってしまった。資金難のために発掘調査も出土品保存や遺跡保存も現状では困難な地域となってしまった。丹後王国の盛衰の歴史を発掘し続けた肥後氏の栄光と無念さを感じる講演であった。

2018-04-30 4月28日（土）高槻市の古墳と

2018-05-01 4月25日（水）特別史跡指定記

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