ルートを間違えた。
今となればどう間違えたのかはっきりと分かるけれど、その時には最善のルートを歩いているつもりだった。
目に見える不確かな支点に釣られて登り始めたのはよかったが、岩はボロボロで良さそうなホールドはみんな剥がれる。草付きも想像していたよりも悪く。かえって泥が靴に付いて悪い。
気づいたら降りる事も登る事も出来なくなった。
20分くらいもがいていたと思う。
ロープを繋がないフリーソロ。50メートルは確実に落ちれる。
きっと綺麗に転がれるだろう。
足が痺れる頃になって、撤退の準備にもがき始める。
クラックは無数にあるが、どれも脆い。
表面にあるクラックに手持ちのカムが効きそうもない。
幸いな事に目の前には草付きの穴の奥にアンダーホールドがあり、両手こそ離せないものの体勢は楽だった。
だがやがて疲れて限界が来る。その前に何とかしなきゃ。
ちょっとしたひらめき。手に持っている半分泥で埋ったアンダーホールドを片手でほじくって見ると思いのほか深い。
泥を指でかき出して見て何度か苦戦してようやくカムが1本決まった。
あぁ、生きられる。とホッと一息ついて、岩角の溝に引っ掛けたナッツをもう一つ決めて、後は脆くて力が加われば剥がれそうな岩の隙間にカムを効かせたが手で引っ張ると抜けてしまう。
一応3点で分散流動にしてザックからロープを出して脱出した。
カム2つも残置するのは悲しいが、命とは比べるまでもない。
おそるおそる懸垂下降を始めて、これまた微妙な下降用支点まで下りて来て直ぐにそっちにロープを切り替えた。
でも、結局その後も登った。50メートル目一杯伸ばしたが草付きが続いていて下降支点が作れない。50メートルぴったりザイルを伸ばして露出した岩にカムを一つとナッツを二つ効かせて何とか下降して残置したカムも回収した。
結局ルートは間違えたまま。トポを読み間違えたまま、僕は登れる所まで登り、
ほぼ垂直に思える草付を登っている最中に足場が崩れて草にぶら下がったりしながら、半畳程度の段々になった岩の上で一晩過ごして稜線へと抜けた。
所々に残置支点もあり、草付きも踏跡をなぞって居たので、時々迷い込んで登るのか、正規にルート名がついているのかは分からないが、登攀そのものの難易度は低いがホールドの不確かさ、支点の取れなさにより精神的に疲れるルートだった。
未熟過ぎて正直笑えない。山行記録にも上げられる内容でもないので日記に記録する。
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