飯豊山スキー山行（後編）　石コロビ沢を滑る

2018年10月19日 20:39回想の山旅全体に公開

飯豊山スキー山行（後編）　石コロビ沢を滑る

　飯豊の山は、行ってみたい山の中でも第一級の山であった。幸い大学時代の山仲間のH君が東北の山に強い関心を持っていたので、5月（1974年）の連休を利用して残雪期の飯豊山に登ることになった。この季節、スキーを持っていくのは、登山には無用の長物で、体力的に重荷の何物でもない。しかし、そこは20代の若さである。石コロビ沢をスキーで下ってみたいとの思いだけで、山スキー道具一式を持っていくこととなった。
　5月2日夜遅く、上野駅から急行の夜行列車に乗り米沢に向かう。翌3日朝、米沢で米坂線に乗り換えて、3日午前8時前には小国駅に着いた。登山口となる長者原には、朝一番のバスで向かう。
　山形県側の飯豊山詣り（お西詣り）の登拝路としては、中津川口と長者原口があり、それは「本道といわれる中津川口が下谷地、岩倉を通り大日杉から地蔵岳、切合へと登るものであり、長者原口は小国の長者原から川人、温身平、大嵓尾根を通り、宝珠山に登り直接飯豊本山に達する登拝路であった」という。（梅田　始　（1998）『新潟県における飯豊山信仰（1）』　前編参考文献参照）
　今回の山行は、スキーの活用や連休期間という時間的な制約もあり、丸森尾根から地神山、門内岳、北股岳まで行き、できれば烏帽子岳まで足をのばして、最終的には石ころ沢を下るコースを計画した。
　午前10時に長者原バス停を出発。今年は雪が多かったと見えて、長者原から雪道を歩くことになった。午後の1時には飯豊山荘に到着、ここから丸森尾根を登る。最初から大変な急登に閉口した。時計が午後4時を指したところで、あまり無理せず、最初のピークを越えた標高780mあたりの尾根でツエルトを張り、静かな夜を過ごした。
　翌4日、天気晴れ。
　午前6時30分には出発して、ひたすら尾根を登ってゆく。S君はスキー板をリュックに挟むように立てて登っていく。少し風の影響を心配したが、幸い風もなく、あまり苦にならないようだ。それでも、登りにかなり時間を消耗した。13時30分、地神山に到着。稜線に出ると新潟県側からガスが吹き上げてきており、視界が一変に悪くなった。門内岳頂上の北頂稜に門内小屋があるはずだが、小屋を見過ごして胎内尾根の方に少し降りかけてしまった。幸い二王子岳・藤十郎山から登って来た登山者に出会ったので自分たちの位置を確認し、そこから軽く登り返して、午後4時過ぎに無事門内小屋に到着した。
　5日、朝起きると、雪交じりの強風が吹き荒れている。今日一日、小屋で沈殿することにした。5月に入ってもなお一日中風雪が吹き荒れるとは、飯豊の山が東北の山であることを実感させる。結局、季節外れの雪は、20㎝ほど積った。
　翌6日朝も新潟県側からガスがかなり風に乗って吹き上げてくるが、昨日とは寒さが違った。7時30分に小屋を出発。念のため、アイゼンをつけ、ピッケルを持って稜線を歩く。9時には北股岳の頂上に着いた。頂上の鳥居と祠にはびっしりとエビのしっぽが貼りついており、5月上旬とはにわかに信じられない冬景色だ。十文字の鞍部に向けて下っていく頃には、ガスの切れ目から青空も見え、一安心である。
　午前10時10分、梅花皮（カイラギ）小屋のある十文字鞍部に到着。ここでスキーをつけ、いよいよ石コロビ沢を下る。カイラギ沢を経て温身平小屋まで標高差1，400m、最大斜度45度といわれる途轍もない大斜面である。はるかかなたにピッケル片手にゆっくりと降りていくパーティの姿が見える。滑り出しは、傾斜もきつく、斜面の状態もあまりよくないので、慎重に下る。お世辞にもスキーとは言えないような滑りで、ちょっとおかしくなった。
　次第に調子を取り戻し、傾斜が大分緩やかになったところで、一息入れる。振り返ると、この沢がいかに雄大で、迫力十分であるかが分かる。雪の豊かさ、斜面の厳しさ・広さ、谷幅の長さ、どれをとっても5月の山としては一級品だ。温身平小屋に着いた時には、稜線鞍部から温身平まで標高差1400mを滑りきった満足感で、胸がいっぱいになった。
　温身平小屋で少しゆっくりした。ふと気が付くと、長者原の最終バスの時間まで、それほど余裕がない。午後2時30分に温身平小屋を出発。ここはスキーをつけている強み、ハイペースで飛ばし、最終バス出発の10分前の午後4時40分に長者原のバス停に着いた。
　残雪期の山ほど、登り終えた開放感と呼応して、一日一日の季節の移ろいを敏感に感じさせてくれるものはない。登る時に踏みしめた雪道が、帰りには土の香をほのかに感じさせる。どこかぼやけた印象の若葉の木々が、もう確固とした緑を身に着けている。
　雪の残る長者原は、桜の花が満開であった。

【山行記録】
昭和49年（1974）5月3日～6日
5月3日（金）　快晴
　10:00長者原出発、最初から雪道を歩く。13:00飯豊山荘着、16:00丸森尾根の標高780m付近にツエルト泊
5月4日（土）　晴
　6:30テントサイト発、13:30地神山、16:05門内小屋着。
5月5日（日）　　雪交じりの強風。　一日小屋で沈殿。20cmの積雪。
5月6日（月）　　曇り
　7:30門内小屋発、9:00北股岳、10:10十文字の鞍部、スキーで石コロビ沢、カイラギ沢を下る。14:30温身平小屋発、16:40長者原バス停着

（参考）
「飯豊山スキー山行（前編）　成人登拝の山　飯豊山」
https://www.yamareco.com/modules/diary/356744-detail-173612

2018-10-11 飯豊山スキー山行（前編）　成人

2019-02-16 祖母山追想　～岡城址にて～

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