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昭和40年代に、この施設を「がらくた館」と称していたことでも分かるように、膨大な収蔵品の学術的なレベルでの整理が長年の懸案になっていました。そのような時に、東京で民俗学を学ぶ学生が夏休みを利用してやってきて、収集品の整理の手伝いを始めました。
私は、まだ民俗学者の卵であった友人のS君に誘われて、昭和52年(1977)と昭和53年(1978)の夏に2度ここを訪れたことがあります。確か学生たちは公民館に泊りがけで、民具の収蔵品カードを一生懸命作り、近在の農家に出かけて石臼調査などの聞き取りを熱心にやっていと思います。素人の私はといえば、滞在期間も短く民具整理の仕方の実際を見学したり、石臼調査に同行するばかり。思い出に残っていることは、どちらかというと、お宮さんの境内で遊び呆ける子どもたちの姿や学生たちがお寺の本堂で子どもたち向けに開いていた学習会の様子、地元の方が学生たちに教えてくれて作った粽(ちまき)の味、小学校のプールで夜こっそり泳いだ時の爽快な気分、丸島焼の窯を訪ねて初めて目にしたろくろ成形の妙技といったところです。
それはさておき、米沢で私が最も興味を引かれたのは、遠藤氏宅の敷地内に移築されていた行屋と呼ばれる小さな建物でした。S君の説明によると、この地方では飯豊山に登る前には行屋にお籠りし、家族とは別火の生活を送って肉食を避け、幾度となく水浴びをして身も心も清めてからお山に出かけたのだそうです。行屋は、専らその用途に使われた建物で、もう在所には残っていないとのこと。飯豊山は、数年前残雪期に登った思い出の山でしたから、興味の赴くままにあれこれ話を聞いたのをよく覚えています。
行屋に関しては、平成9年(1997年)12月に、「置賜の登拝習俗用具及び行屋」として、お籠り関係用具、登拝関係用具・行屋関係用具・行屋・附登拝関係記録が一括して国の重要有形民俗文化財に指定されています。
文化庁の国指定文化財等データベースの解説によると、「わが国の各地には生育儀礼や成人儀礼の一つとして山岳登拝を行う習俗がみられる。米沢盆地を中心とする置賜地方一帯では、数え年13〜15歳の男子が飯豊山に登拝することで一人前と認められる習俗が大正時代中頃までみられた。
後に年齢は20歳までとなったが、この間に3回ほどの登拝を行う決まりであった。飯豊山は標高2105m、盆地西方にあるため「お西山」と呼ばれ、作神としての信仰と、オニシマイリ(お西詣り)と呼ばれる成人登拝の山として知られた。
お西詣りは、毎年旧盆前の8月13日までに済ますものとされていた。この習俗は、登拝前の行屋籠りとお山登拝の行事とからなり、かつては1か月、その後でも1〜3週間ほどお籠りをした。この間は、別火精進の生活を続け、酒や肉食を慎み、何度も水垢離をとって身を清めた。なお、お西詣りを終えると、オキタマイリ・オシモマイリ(お北詣り・お下詣り)などと呼ばれる出羽三山登拝の講中に加わることができた。お北詣りも行屋籠りと三年詣りの習俗があり、これは戦後まで続いた。」ことが、歴史的、学術的に重要な点としています。
このように国から文化的価値を認められ、有形物として厚く保存されることとなったことは素晴らしいことですが、大人への区切りとしてのお山詣りという無形の習俗が失われたままでは、いささか残念な気がしてなりません。
その後、立山や白山、岩木山など成人登拝の習俗があった山は全国にかなり多いことを知りました。修験者の修業の一環である登拝行為が江戸時代中後期に始まったお山信仰の大衆化に伴い、成人登拝の習俗として各地に成立していったと言えそうです。また、明治から昭和初期にかけては、学校体育の思想とも結びついて成人登拝が各地で熱心に奨励されたようです。
スポーツとしての登山を楽しむとともに、山をめぐる歴史的な文化に興味をもち日本文化としての登山の魅力を存分に味わうことは、登山のひとつの楽しみ方といっていいのでないでしょうか。
次回の日記では、20歳代半ばで登った飯豊山スキー山行の思い出を綴ってみたいと思います。是非お読みください。
【参考文献】
1. 置賜民俗資料館及び行屋について (公益財団法人)農村文化研究所HPを参照。
http://noubunken.com/facility/okitama-folk-museum/gyoya/
2. 「宝は田から “しあわせ”の農村民俗誌 山形県米沢」佐野賢治著 春風社 2016
半世紀近くにわたる米沢でのフィールドワークと研究の成果をまとめたもの。飯豊山登拝に関する多面的な考察は参考となる。
3.「新潟県における飯豊山信仰(1)」梅田 始(1998)「会誌 石仏ふぉーらむ」新潟県石仏の会3号
http://www.inet-shibata.or.jp/~iide/iidekanren/iidesinkou/iidesinkou.html
(参考)
「飯豊山スキー山行(後編) 石コロビ沢を滑る」
https://www.yamareco.com/modules/diary/356744-detail-174047
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