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「海賊と呼ばれた」のは出光興産の創始者、出光佐三である。こういう方がおられたことを知らなかった自分がちょっと恥ずかしい。小さな石油小売業をどのように日本最大手の巨大企業の一つに育て上げていくか、反骨の人、出光佐三の波乱万丈の人生を辿ると、それはそのまま日本現代史の知られざる事実を辿る道でもあった。関東大震災、太平洋戦争、タンカー日章丸事件、オイルショック、巨大な歴史の転換点でいつも困難な側に立たされ、そのたびに乗り越えてこれたのは、人として正しきことを貫く強さにある。遠い未来を信じ、日本人としての誇りを揺るがずに持ち続け、戦い続けた男である。終戦時、復員してきた従業員も含め、1000名の内、ただの一人も馘首していない。創業時より2006年の東証一部上場まで「大家族主義」という日本的経営を標榜し、タイムカードや定年制が無かった。これも佐三の信念である。従業員を信じる、その一点であったという。それに応えた人達も凄いと思う。
これは小説であり、伝記ではない。百田尚樹が見た出光佐三の姿である。脚色もまた、百田の視線である。「物語」の中の出光佐三を私は一人の日本人として誇りに思う。「竜馬がゆく」の中で司馬遼太郎が描く坂本竜馬を愛するように、だが。
百田尚樹の文章は読みやすく、やや情緒的なところもある。もしかしたら百田自身が泣きながらこれを書いていたのではと、想像したりする場面もあった。小説としての瑕疵はあるのだ。でもなにより登場人物がとにかく魅力的で、爽快感が抜群である。読み進めたいという本の持つ根源的な魅力にあふれている。これが小説を読む喜びの一つだと思うのだが、いかが。
読後、グーグルで出光佐三を検索したら、
「…皇室を崇敬することが極めて篤く、死去したおりに昭和天皇が次の歌を残した。
出光佐三逝く 三月七日
国のため ひとよつらぬき 尽くしたる きみまた去りぬ さびしと思ふ…」
とあった。天皇が市井の日本人のために歌を残したという事実に驚く。1981年3月7日のことである。
ちなみに民間人のために昭和天皇が歌を詠んだのは、南方熊楠(みなかたくまぐす)が最初である。
雨にけぶる 神島を見て 紀伊の国の 生みし南方熊楠を思ふ
熊楠も凄い日本人だったよね。
おはようございます。
私も、今、空き時間にゆるゆると読んでいます。家内が読了し面白いと。特に、経営者として読むべきと。劔岳登山の移動で読んだ永遠のゼロも良かったし。
ちなみに、南方熊楠は雑誌Natureの掲載論文数は日本人ではダントツの最多だそうです。
いきつけの図書館にも在庫なしでした〜。
本屋大賞なのに!!
要望は今借りている本を返してからいわなくちゃ。
著者は、「賞の中で本屋大賞が一番うれしい」とおっしゃっていました。新聞で読みました。
pamir88さん、こんばんは。
劔に行く車中の永遠のゼロ、気合入ったでしょうか
奥様のおっしゃるとおり、これは、上に立つ立場の人には読んでほしい本であります。
この本を読んで、経済という言葉の元の「経世済民」という考え方を思い出しました。
グローバル化の流れを批判して、哲学者の内田樹は、最近「経世済民」という概念を援用しつつ、高度資本主義と日本の未来について示唆をしています。
百田さんは、出光さんを美化しすぎているかもしれないが、小説としては成功していますね。感動的です。
南方熊楠、巨人ですね。孤高の学者ですが、日本の誇りです。もうこんな人たちは日本には出ないのでしょうか。
yoneyamaさん、まず借りてるやつ返さないとね
秋田の友達も、海賊を図書館に予約したら、数ヶ月先と言われたとか。賞の力は大きいですね。
満州事変、226事件、そして終戦直後のGHQによる支配の時代など、生きた現代史を学んだ気持ちです。
このような上司がいたら、反発もするだろうけど、やはり強く惹かれていただろうな。
史記の言葉、
「士は己れを知る者のために死す。女は己れをよろこぶ者のために容(かたちづく)る」
まさにこの通りの小説でしたよ
読むタイミングについて、「仕事がたまっている時は避けた方がよい」とのお言葉、その通りなんですが・・
図書館から借りるとなると、その期間が限定されてしまうのがちょっと困ったところです
可能な限り読書を優先しましたが、3日遅れて今日、返却しました
作者が見た主人公の姿・生き方、本当にこんな気骨ある日本人がいたことに驚きました。創業者の器の大きさが会社の大きさを決める、なんて言葉もあるようですが、この人物のスケールの大きさや桁外れです。日本のために、消費者全体のために、あるいはメジャーに甘い汁を吸い取られてきたイラン人のために・・天に恥じない正しいことを貫く信念、社員に対するゆるぎない信頼、かつ目的を果たすための老獪な戦略・・
そばにいて影響(薫陶)を受けた人たちがうらやましくもありますね。同時に、こんな会社を敵にはしたくないな〜とも
「爽快感が抜群」、同感です
お疲れ様でした
kamadamさんの
>同時に、こんな会社を敵にはしたくないな〜とも
仕事のできるビジネスマンの鋭い感想ですね
伝記ではなくフィクションですので、誇張などもあると思いますが、百田さんの思い入れ、それも作家の特権ですね
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