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塵まみれなる街路樹に 哀れなる五月来にけり
石だたみ都大路を歩みつつ 恋いしきや何ぞわが古里
あさもよし木の国の 牟婁の海山 夏みかんたわわに実り
橘の花咲くなべに とよもして啼くほととぎす
心してな散らしそかのよき花を
朝霧か 若かりし日のわが夢ぞ そこに狭霧らふ
朝雲か 望郷のわが心こそ そこにいさよへ
空青し山青し海青し
日はかがやかに 南国の五月晴こそゆたかなれ
心も軽くうれしきに 海の原見はるかすとて
のぼり行く山辺の徑は 杉檜樟の芽吹きの
花よりもいみじく匂い
かぐわしき木の香薫じて のぼり行く徑いくまがり
しづかにも昇る煙の 見まがふや香炉の煙
山賎が吸ひのこしたる鄙ぶりの
山の煙草の椿の葉焦げて落ちたり
古の帝王たちも通はせし 尾の上の徑は果てを無み
ただつれづれに 通ふべききわにあらねば
目を上げてただに望みて
いそのかみふるき昔をしのびつつ
そぞろにも山を降だりぬ
歌まくら塵の世をはなれ小島に
立ち騒ぐ波もや見むと 辿り行く荒磯石原
丹塗り舟影濃きあたり 若者の憩へるあらば
海の幸鯨捕る船の話も聞くぺかり
且つは問へ 浦の浜木綿幾重なす松の下辺を
いざさらば 心ゆく今日のかたみに
荒海の八重の潮路を運ばれて 流れよる千種百種
貝がらの数を蒐めて歌にそへ
贈らばや都の子等に
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