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1991年に読み、その後機会のある毎に山岳部の仲間に貸していた本です。
冬山の経験がある人なら、そのリアリティーに恐怖を感じるでしょう。
前半の登頂までの記述とクレバスの中で生きていることを知り、戻る戦い。
情景描写もさることながら、その心理描写は事故経験者には当時にオーバーラップし
古傷が疼いてきます。
岩や雪をやらない人にも、遭難とは何か、生きるとは何かと臨場感を以て伝わります。
決して諦めないことが「帰る。」唯一の道であることが理解させられます。
もしあなたが、事故にあった時この本で疑似体験したことを思い出せば、あなたも帰れます。
そんな本です。
山での事故を素材にした記録文学では最も怖い作品です。
訳者が現役時代に東大山岳部に籍を置いて居た年齢を重ねた人であることも秀作にした一因でしょう。
また本書を原作とした「運命を分けたザイル」も私の知る限り最も優れた山岳映画です。
更にその続編かとおもわれた「運命を分けたザイル2」ではシンプソン氏が、完全復帰を証明するためにアイガー北壁に挑戦する記録映画が主だったと思われます。
(本人が登場して現地で語ります。)
実際はヒトラー政権下でプロパカンダとして利用されたドイツ・オーストリア隊の悲劇を自らの体験に重ねて語る手法が取られます。(役者による再現映像)
当時公開されたばかりの「アイガー北壁」に見られる脚色はなく、ある意味リアルです。
そしてアイガー北壁の特殊な環境が非常に分り易く映し出されます。
麓のホテルから望遠鏡で死の瞬間まで見渡せること。アイガーを貫く山岳鉄道の山中駅で北壁に扉一枚で躍り出ることが出来ること。
シンプソン氏に大きな影響を与えた「白い蜘蛛」を読めば一層リアルに伝わるのでしょうが、本で「死のクレバス」を読み、その映画「運命を分けたザイル」、「白い蜘蛛」を読み、映画「アイガー北壁」と順を追ってみていたので、だいたいつまらない二番煎じ物であるはずの「運命を分けたザイル2」も恐怖を以て観られました。
コメント失礼します。
アイガー北壁ものではハラーの本があまりにも有名ですが、冬季初登をしたトニー・ヒーベラーの「死はともに登る」も読み応えがありました。最初のページに北壁を落ちていくクライマーを望遠で捉えた写真があって、大変ショックを受けました。
アイガー北壁初登チームのリーダーだったアンドレ・ヘックマイアーはハラーを嫌っていました(ヘックマイアーの奥様から直接聞いた事です)。ヘックマイアーがほとんどルートファインディングしてトップで登ったのに、ラストだったハラーが有名になったせいかなと思いましたが、そんな単純なことではない様です。ヘックマイアー達ドイツ人がアイガー北壁を目指したのはナチの指示だった様な事をハラーが言ったのが気に入らなかったのではと推測しています。その後ハラーにもナチ党員だったのではという疑惑もおきたようです。あの時代では政権に利用されたのは仕方がなかったのかもしれません。しかしながら、本人達の北壁を攀るという気持ちは純粋であったと信じています。
ヘックマイアーの著書「アルプスの三つの壁」の日本語訳本は誤訳が多く、意味不明なところがみられたため日本では評価されなかったのでしょう。翻訳者は山では有名な方でしたが残念に思います。
そういえば表題の「死のクレバス」はまだ読んでいませんでした。必ず読んでおきます。
ハインリッヒ・ハラーの死亡記事には元ナチ党員でアイガー北壁発登頂者という肩書きがつくと聞きました。それゆえインドで収容所に入れられ、脱出の末チベットで7年間暮らした記録が「セブンイヤーズチベット」として結実したのですね。ハラーが新編白い蜘蛛でザイルパートナーと評したナンガ・パルパット遠征隊長ペーター・アウフシュナイターがかたくなに沈黙を通したことが気になります。
白水社の本も自宅に転がっていますが、評判を聞いているのでまだ読んでいません。(笑)
「死はともに登る」を今注文しました。
今度読んでみます。
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