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奥日光、奥鬼怒、尾瀬、会津駒周辺を山スキーと輪カンジキを頼りに彷徨い歩いた。
そして、それまで苦手としていた声楽曲を好んで聴くようになる。
「冬の旅」〜、バリトンのフィッシャー・ディスカウも好いがバスのテオ・アダムの歌に魅せられた。
昼の陽光の下、荒涼とした枯野にスキーを休めて周囲を見渡す時、ふと心に浮かびあがる歌声はこのバスの「冬の旅」であった。
声楽に親しむ切っ掛けはマーラーの「亡き子を偲ぶ歌」を聴いたことである。
この歌は女声もドラマチックでよいが、遺恨と喪失感漂う男声が共感を呼ぶ。
その後、好みの中心はドイツ歌曲からフランス歌曲にシフトして苦手だった声楽もすっかり楽しめるようになったが、未だにオペラだけは駄目である。
だが苦手のオペラにも例外の作品が三曲ある。
その一曲がバルトークの「青ひげ公の城」である。
2月12日の日曜日の朝、NHKのBS放送がこの作品を放映した。
デュトア指揮のN響による演奏と外来バス、ソプラノ歌手による名演で、久しぶりにゆっくりと楽しみながら聴くことができた。
この作品はバルトーク唯一のオペラであるが、原典のペロー「マザー・グース物語」の逸話とはまったくかけ離れた象徴的な内容になっている。
べーラ・バラージュによるこの台本では、ヒロインのユディットも他の女達と同様に青ひげ公の女の一人として城に残る。
同じ題材を扱ったデュカスのオペラでは、ヒロインが自己の目覚めから城を去って行く幕切れであった。
この異なる結末は、西欧的人生観と東欧圏ハンガリーの人生観の違いであろう。
大編成の管弦楽を駆使した極彩色の音楽でありながら、その色調にはバルトーク独特のくすみがかかっていて、その仄暗さが却って魅力である。
例外のオペラ作品残る二曲は、ドビュッシー作曲「ペレアスとメリサンド」、そしてブリテン作曲「ねじの回転」である。
「ペレアスとメリサンド」はメーテルリンクの童話を題材にした印象派色の濃い美しい作品であり、「ねじの回転」は怪談小説をオペラ化した心理学的興味が尽きぬ特異なオペラ作品の迫力ある傑作である。
冬の原野歩きを終えて、もはや三十数年になろうか。
しかし、今でもこれらの声楽曲を聴くと心が騒ぐ。
声楽曲に、冬の原野の荒涼たるイメージを呼び覚まされるのは、自分だけなのだろうか。ainakaren
*歌劇『青ひげ公の城』全曲
アイナカさんこんにちは
今週の津軽半島山行では石川さゆりも歌いましたが、「冬の旅」も鼻歌しましたよ。大きなダケカンバの傍らでは、「リンデンバウム」、吹雪の中では「おやすみ」や「凍った涙」なんかがよく似合いました。
オペラ三曲はどれも僕の知らないものばかりです。モーツアルトやプッチーニやヴェルディなんかの主流派とは違うんですね。ハンガリーおよび英仏系なんですね。機会探して聞いてみたいです。
yoneyamaさん、こんにちは。
携帯用音楽機器のない時代、枯れ野を吹きぬける風音の傍らで「亡き子〜」や「冬の旅」が、心の中で聴こえていました。
なんとも冬の荒涼たる風景に、ピッタリの歌声でした。
オペラが苦手なのは叙事的音楽であることが、情緒人間の自分に解り難いのかも知れません。
言葉が解らないこともあります。
ですから、声楽は声を楽器のように叙情的に聴きます。
音楽の背景を知っていれば、メロデイや声そのものが全てを叙情的に語ります。
オペラは、筋が単純で登場人物の少ない作品が好きです。
三曲、是非聴いてみて下さい。ainakaren
*追伸 歌劇『青ひげ公の城』YouTubeに有りましたので本文にURLを追記致しました。
バルトーク
歌劇「青ひげ公の城」
台本 ベーラ・バラージュ
青ひげ公 コロシュ・コヴァーチ(バス)
ユディット シルヴィア・シャシュ(ソプラノ)
語り手 イシュトヴァン・スタンカイ
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮 サー・ゲオルグ・ショルティ
https://www.youtube.com/watch?v=XRbtOM892qc
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