1）日経サイエンス：2020/5 新型コロナウイルス特集
1．病原体の実像に迫る（出村・古田＝編集部）
はじめに：
● 2003年のSARS（重症急性呼吸器症候群）,2012年のMARS （中東呼吸器症候群）に続いて大規模なコロナウイルス感染に見舞われるのは3度目。これまでの二回と異なるのはコンピュータ科学を使い疫学や生物学などの学問分野が急速の進歩を遂げ、感染症と闘うことになったこと。
●新型感染症COVID−19は一例目の患者発生から3か月で世界中に広がり、パンデミックを引き起こした。
●病原体であるSARS-CoV-2は速やかに特定され、タンパク質の立体構造アドも明らかになり、コンピュータを用いたゲノム解析の成果を示す。
●中国での数万人規模の疫学調査から人により多様な症状を示すCOVID-19の病態が明らかにされた。
●既存治療薬の中から効果的な治療薬の迅速な洗い出しが始まり、臨床研究も始まった。
1‐1 予想外の拡大：湖北省武漢市で原因不明の肺炎患者の報告が出たのは2019年12月31日、12月8日の最初の発見例から月末には44人に増加。WHOに報告。感染源と見られた海鮮市場は2020年1月1日に閉鎖され、しばらく患者数は減少したが、この問題に注目した専門家らは、同じく中国から始まったSARSと症状が似ており、SARSやMARSとの関連を疑った。
1‐2．COVID-19は急速な感染者が拡大、一方SARSの時には2か月かかった病原体の特定は、今回は患者の検体採取から1週間でウイルスが特定された。
これには20年前には普及していなかった次世代シーケンス技術が使われた。
中国CDC（感染症予防センター）と復旦大学は41歳の患者の肺洗浄液中のRNAを網羅的に調べる「メガゲノムシーケンス」を実施し、38万個のRNA配列のなかの存在量の多い配列に注目し、3万個という長い配列を調べて、SARSに近い新型コロナウイルスを特定した。武漢ウイルス学研究所も別の患者の検体で同様のメガゲノムシーケンス研究から同様の結果を得た（2020年1月7日に特定、11日には
CoV-2ウイルスの塩基配列データを公開した）
1‐3．中国科学院と上海交通大学らの共同研究では、コンピュータ内でタンパク質の立体構造を再現する in silico解析が用いられ、SARSと新型コロナウイルスはよく似ていること、ウイルスのスパイクと宿主の細胞表面のタンパク質はカギと鍵穴の関係にあることを突き止め、1月21日にはScience China Life sciences誌に発表された。
1‐4．1月25日には上海科学技術大学などの研究チームが、SARS-CoV-2 タンパク質の立体構造シミュレーションから30種の治験薬候補を絞り出した。特にウイルス増殖に欠かせない3CLプロテアーゼに注目し、立体構造が公表され、世界中の研究機関で治験薬のスクリーニングなどが進められるよう人あった。
1月下旬にはウイルスの遺伝子配列や立体構造の解析が進む中、「ウイルス粒子」そのものの分離に成功、中国CDCは電子顕微鏡写真を公表した。1月29日にはオーストラリア、31日には、日本でウイルス分離に成功した（国立感染症研究所）。ゲノム配列は最初の中国例と99.9％一致。
1‐5．武漢での封じ込め：
武漢では、1月23日に都市封鎖が導入され、封じ込め対策の詳細が純を追って描かれている（詳細略）。2月初めまでは感染者数が増え続け、その後次第に減少に向かう。
2月17日、中国CDCは疫学調査の詳細を公表。SARS-CoV-2ウイルス対策の基本データとなる。その中では、症状の詳細、年齢別の症状の違い、高齢者における致死率の上昇、基礎疾患者の死亡率の上昇など、様々なデータがまとめられた。また疫学では感染ルートの研究も出され、感染者の多くは誰にも感染させていないが、少数でスポーツジムやライブハウスなど特定の場所で多くの感染者を出している。年齢の若い世代は感染しても無症状か軽症で気が付かないうちに人に感染させる危険性がある。症状のない感染者も人に感染させることがある。
1‐6．最後に科学的解析の詳細＝細胞への侵入経路、巧妙な増殖機構、治験薬候補などについての詳細が記述されている。
細胞への侵入は、ウイルス表面の爪（スパイク）が宿主細胞表面にある「鍵穴」（レセプター）にフィットして結合し、そこから侵入する。SARSより結合が10倍強いことも分かった。
ウイルスが宿主細胞に侵入すると、すぐ宿主んおタンパク合成システムを乗っ取り、特に数珠つなぎとなるポリタンパクをカットする二つの酵素「３CLプロテアーゼ」とパパイン様プロテアーゼが重要で、ポリタンパクのン中からウイルス自身を切り離すハサミの役割を持つことが分かった。この後、ウイルス本体の中身と殻が形成され、細胞の働きで外部に放出される。
武漢では2月に一度終息へと向かうかに見えたが、欧州での感染爆発の影響が中国に戻り、再び感染者が増加する事態に至り、4月初めまで都市封鎖は継続した。封鎖は解かれたが潜在感染者はまだ数万人いると考えられ、封鎖解除後の再発が懸念される。
２）コロナ・ウイルスはどこから来たか？（同特集：S.メイキン・サイエンスライター）
SARSウイルスの場合は、ジャコウネコなどの野生動物から種の壁を越えて人に感染、MRASの場合はラクダから人に感染、今回の新型コロナを含め、その大本はコウモリと考えられている。
これまで通常の風邪の原因の5分の一は、4種類のコロナ・ウイルスであるが、病状はごく軽いことから重視されなかった。しかし毒性の強いSARSがコロナ・ウイルスと判明し、状況は一変、各国研究機関で詳細な研究が開始された。
記事ではコロナウイルス、SARS-CoV-2に関する生物科学的詳細んお研究史が記述されているが、疲れたので今回はここで終了、詳細は日経サイエンスをご覧ください。
3）東洋経済オンライン4月12日（登録すれば無料で閲覧可能）
https://toyokeizai.net/articles/-/333986
また東洋経済オンライン4月12日版では、中国の「財新」という雑誌の「新型コロナ・ウイルスはどこから来たか？」という記事を紹介、他にも関連記事多数。
「新型コロナウイルスの発生起源を突き止めようと科学者たちが研究を続けている。中国の独立系メディア「財新」の取材班は、最新の研究論文やその著者を独自に取材。同ウイルスの新事実に迫っている。
科学研究者たちは新型コロナウイルスの起源に関する研究をいまも続けている。最近、南方医科大学公共衛生学院三級生物安全実験室のある研究論文では、新型コロナウイルス（SARS-CoV-2）が発生した期間は2019年9月23日から2019年12月15日の間である可能性が高いと発表された。
また新型コロナウイルスと遺伝子配列が最も似ているコウモリが持つコロナウイルス「RaTG13」には時間的な進化関係が存在せず、新型コロナウイルスはRaTG13が進化したものではない可能性が高いことがわかった。
この論文のタイトルは「コロナウイルスSARS-CoV-2の変異と進化の分析」であり、『南方医科大学ジャーナル』に発表された後、2月22日に中国知網に初めて掲載され、査読を通過した。研究員はデータベース・GISAIDから45の新型コロナウイルスの全長遺伝子配列をダウンロードし、その中の39の遺伝子配列のウイルスの「最近共通祖先時間」（tMRCA、訳注：あるウイルス集団のすべてを子孫として、最も近い共通の祖先に遡るまでの時間）を計算した。
また、その他のコロナウイルスの遺伝子配列はNCBI（アメリカ国立生物工学情報センター）のデータベースからダウンロードした。GISAIDは多くのノーベル賞受賞者や世界有数の科学者が署名し成立しているオープンプラットフォームで、インフルエンザウイルスデータ情報の共有状況を改善するために設立され、現在はさまざまな感染症に対応している。（以下略）
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