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講演は縄文石器に関するもので、講師は安中市で文化財保護官をして、現在は國學院大學や明大の黒曜石センターなどで研究している大工原豊氏。縄文石器などに関する著書が多数あるようだ。今回はその中でも特異な「石棒」に関する興味深い内容だった。石棒とは百科事典によると
「縄文時代中期以降の磨製石器の一種。円形ないし楕円形断面の棒状を呈し,一端または両端に瘤状のふくらみがある。これによって単頭石棒,両頭石棒,無頭石棒などと区別することがある。中期の石棒は大型で長さ1mをこえるものが多く,長さ2.5mに達するものすらある。安山岩や緑泥片岩で作っている。後期の石棒はおおむね小型になるが,頭部の彫刻はやや複雑になり,粘板岩を用いたものがふえる。断面形もしだいに扁平になり,これから晩期の石剣,石刀が分化する。」
とある。これを「男性器」を象ったものという説と、そうでないとするものとがある。縄文中期では巨大なものが多いようだが、これは柱状節理でできた自然の石を瓦などで拾い、これを削って造られたものらしい。安中出身の大工原氏は、まず長野・関東以北、とりわけ東北では縄文遺跡への関心が高いが、ここ群馬では古墳・古代史への関心が高い。縄文・新石器時代にも目を向けていただければありがたいと、大工原氏の著書などを紹介。最初に松井田インター付近にある大山周辺の遺跡から出土した石棒を紹介。恩賀集落と大山の間の西野牧小山平遺跡(通称恩賀遺跡)と大山南西の初鳥屋遺跡に関して話をされた。まず石棒とはどのようなものか、映像を見る。縄文中期から現れた巨大な石の棒で上下が丸く膨らんでおり、見様によっては男根だ。男根を豊穣のシンボルとして祭祀に使われたという見解もあるが、見解は分かれているようだ。祭祀の道具であったことは間違いなさそう。柱状節理の発達した産地地域で造られた。この地域には大山東麓、西麓の他、茂沢南石堂遺跡(森泉山)、坂本北裏遺跡(刎石山)、横壁中村遺跡(丸岩=八ッ場ダム))など、石棒の出る遺跡付近には柱状節理のある山などがあることがわかる。その石だが、大山東稜は花崗岩、、森泉山南東麓は輝石安山岩、刎石山北東部は輝石安山岩、丸岩も輝石安山岩だ。しかし詳しく調べると火成岩中の岩石組成が異なるので、調べることは可能だが、出土した石棒は遺物として登録されているために、それを破壊して調べることができない。外から調べる方法があればよいが、岩石の専門家でも容易ではないようだ。
次に石棒製造過程を検討。恩賀石棒などは石を削って、荒くたたいて整形した後、磨きの行程を経ていないことが判明、磨きは別の場所で行われたという。
休憩を挟んで、スレート製細形石棒の話。少し時代が下って石棒が小型化し、石刀・石剣という形でやはり祭祀用に使われたようだ。
北上山地の粘板岩(スレート)で制作された成興野型石棒は威信財として東日本に広く流通したという。また関東では石棒は火にくべられて使用されたという。御墓に入れずに破壊されたため、完全な姿で残ることがほとんどないそうだ。その点、東北地方の場合はお墓の副葬品となっているので完全な形で出土しやすい。同じ石棒でも文化圏が異なると使用方法が異なるらしい。
この北上山地の粘板岩は旧石器時代は石器原料、縄文時代には石棒・石剣の材料、江戸時代には硯の材料で現在では屋根、壁、床材、硯の材料として利用され続けている。石巻市雄勝町特産で「雄勝石」という名前で流通しているという。石巻あたりが宮城県と岩手県の県境で、宮城側に大きく出っ張っているのは、伊達藩がこの石切り場の利権を手放さなかったためという。このスレートは震災前に東京駅の床材として使われることが決まっていたが、震災で波をかぶってしまった。その後、それをなんとか取り出して磨き、現在東京駅の床材として見ることができるという。
この細形石棒は縄文中期中葉に出現し、中期後葉には大変多く流通したらしい。頭の部分の文様の違いなどから石棒の編年が試みられているようだ。このような石棒は冬場に造られた形跡があり、東北の冬場の地場産業のようなものだった可能性もあるそうだ。このような石剣の起源を男根型のシンボルから始まったとする説と、シベリア南部の鈴首青銅剣に由来するという説があるそうだ。
石剣の出現は縄文晩期の初頭から前葉の熊登型石剣や山形県村上の元屋敷遺跡出土の石剣の南限まで、副葬品として使われたようだ。日本海地域に中国やシベリア南部・沿海州の文化の影響がみられるのは、船の難破・漂流などで日本海沿岸にたどり着いた人々の存在が考えられる。縄文時代に青銅製品が鳥海山周辺で出てくるのは、日本海でっ最初に見える日本が鳥海山だからだと考えられるようだ。鳥海山を目指して陸地にたどり着いた遭難船で持ち込まれた当時の人々が見たこともなかった青銅器などにひきつけられて、金属に似たスレートを使った石剣・石刀などが造られたと考えられるようだ。その他いろいろ面白い話があったが、メモが不完全なのでこれ以上触れられないのは残念。このメモも不完全なことが多いかもしれないーー。
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