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2018年08月17日 12:31回想の山旅全体に公開

正月の聖岳

 初日の出は、山で迎えると決めていた。大学1年、2年のときは妙高笹ヶ峰で、3年の時は木曽の御嶽山で拝んだ。大学最後の正月は、南アルプスの上河内岳から聖岳へ冬の稜線歩きを目指そうということなった。同行の士は、ヤマレコのkichichanである。
 この時代は、山登りは夜行列車利用が常識であった。長距離列車は年末でどれも大変な混みようだったが、京都から無理矢理に急行銀河に乗る。もちろん座席指定券などはない。幸いなことに、車掌室横の椅子にちゃっかり指定券もなしに座ることができた。浜松で乗り換え、金谷に着く。ここから大井川鉄道で千頭に向かう。
 千頭からは林用鉄道の改良車といった雰囲気の小さな、小さなディーゼル車に乗った。そののんびりとした速度にいささかうんざりするころに終点井川に着いた。昔は、運賃はただという話を小耳にはさんだのだが、良き時代もあったものだ。
 今度ばかりは、kichichanの殊勲賞である。昨晩無理矢理急行に乗ったおかげで、井川から畑薙ダムまでの一日一便のバスに間に合ったのだ。今ほど下調べが簡単ではなかったとはいえ、おおらかで、のんびりしていたものだ。静岡周りのバスででも来ようものなら、八木尾又から15Km は歩かなければならない。
 バスから降りるとさすがに風が冷たい。畑薙の中電ダムの建物は、うす銀茶色の山腹に巨大な廃墟のように佇んでいた。ダムでできた湖に沿って1時間ほど歩くと、静岡県警と県教育委員会体育課による移動交番が設置されており、登山届を書かされた。例年より雪が多い由。
 畑薙大吊橋を渡る。吊橋自体非常に長い上、手を添える鉄索がかなり背を屈まないと届かない。吊り橋の真ん中で、ヒューヒュー風に吹かれたら、恐怖そのものだ。どうにか無事にわたり終え、登りにかかる。ヤレヤレ峠あたりから小雨模様になった。沢筋に降り岩陰で昼食をとる。かなり雨が強くなってきた頃、ウソッコ沢小屋に着く。イノシシ狩りの三人連れがすでにいて、ありがたいことにたき火をたいていた。
 昨晩何回と気になったことが現実になった。ピーナッツが鼠にやられたのだ。これでおやつが一つ減ったと思うとがっかりだ。後悔先に立たず。あきらめて茶臼岳を目指す。風の音がすごい。山稜の季節風の強さが想像できるというものだ。
 横窪沢小屋あたりになるとかなり雪が多くなる。トレースがなく、ラッセルをしなければならないが、なかなか先発する者がいない。我々も1時間ほどクラッカーを食べたりしながらのんびりした。正月の山行だってラッセルはある。ところが、今回のような登山ルートに来るものはいい加減な者が多いのか、ろくにラッセルができない。結局、我々含め5人ほどが交替で膝までのラッセルに汗を流す。今回の行程はたかだか知れているからよいようなものだが、これでは、ラッセルをやろうとする気もうせるというものだ。4時近くになって茶臼小屋に到着。
 翌朝(31日)は快晴。日の出は素晴らしかった。あえて言えば、朝日が富士山のかなり南の方角から上ってくるのがいささか写真的には不満である。とはいえ、茶臼小屋は、富士の姿を眼前に見渡せる、大変優れた景観を有し、小屋としては恵まれている。
 稜線に出て初めて、伊那谷側からの季節風の強さに驚く。南アルプス一帯の天候は気圧の谷の通過により回復したが、前線通過に伴う吹き出しの風が厳しい。前に進むのもなかなかままならない。風の息を図らないといけない。それでも、歩いていると慣れてきたのか冷たさはいささか和らいできた。
 そんな次第で茶臼岳まではすぐそこだったが、敬遠してしまった。今から思えば、たかだか頂上まで往復30分の距離だろうから茶臼岳まで行けばよかった。上河内岳まではそれほどの距離ではない。大井側の陽だまりに風をよけると、嘘のようにのどかである。聖岳の雄姿も間近に見える。
 午後1時ごろには聖平の小屋に着く。この小屋は上河内岳を望むにはよい。上河内岳は聖岳側から見た方が山の姿が大きくてよいのだ。明日は元旦。もう1日天気が続くのを心に祈る。
 大晦日というのに同宿舎たちは早々に寝てしまい、紅白歌合戦もほとんど聞かずじまいだ。あくる朝(元旦)、最も早いパーティーは午前4時前にアタックに出かけた。こちらもそうのんびりとはしておれない。稜線に出たところあたりで日の出を見ようとラテ(ヘッドライト)をつけて出発。小屋の裏の沢をどんどん詰めていく。稜線に着くころようやく足元がはっきりしてきた。初日の出は、雲が東の空を覆っていてかなり遅くになって顔を出した。
 聖岳は小聖を過ぎると風が強くなり、氷片や小さな小砂礫が飛ばされてきて頬を打って痛い。低い姿勢をとり、風の息を選び登る。風が吹いてくる方角には顔を向けることはできないが、冷たさはさほどでもない。8時ごろには山頂に立つ。山頂はさすが厳冬の風だ。雪のブロックがなかったら、5分と止まるのは苦痛であっただろう。四方を見渡す。北の方面は晴れていた。赤石岳は偉丈な姿を見せてはいるが、塩見岳も白根三山も赤石岳の陰、わずかに仙丈岳がうかがえるだけだったのはいささか残念であった。
 聖平小屋に戻ると、嘘のように暖かな日和である。急いで撤収し、下山を開始する。午後4時ごろに出会所小屋(注:現在はない)に到着。ここまで降りておけば後が楽である。
 翌2日、朝起きると天気はやはり良くない。雪から、次第に雨模様に。バスは、一日10時20分発の一便だし、雨の中を雨具もなしに林道を歩くのは消耗なので、今日はゆっくり沈殿することにする。我々だけ畳付きの特別室で快適である。午後遅く雨も上がる。
 3日、朝1時20分に目を覚ましたので、そのまま起きることにした。3時過ぎにラテを頼りに下山を開始する。赤石渡から長い林道歩きとなるが、路面がすっかり凍結していて、実に歩きにくい。10時20分発のバスに2時間ほどの余裕をもって、畑薙第一ダムバス停に到着できた。井川から静岡に出るバスは、落石で出ず、大井川鉄道で金谷へ。

【山行記録】
1972.12.29(金) (富士山正午の気象:雪、南西の風、風力9、気温−10度)
畑薙第1ダムバス停(10:00)、畑薙第1ダム発(10:15)、畑薙大吊橋(11:35)、ヤレヤレ峠(12:00)、ウソッコ沢小屋(13:20)

1972.12(土) (富士山正午の気象:晴、北西の風、風力10、気温−25度)
起床(4:30)、ウソッコ沢小屋出発(6:30)、中の段(7:20)、横窪沢小屋(8:20)、横窪沢小屋発(9:15)、水場(12:00)、茶臼小屋(15:35)

1972.12.31(日) (富士山正午の気象:快晴、西北西の風、風力8、気温−16度)
起床(4:50)、茶臼小屋発(7:30)、稜線(8:00)、お花畑(8:55)、上河内岳山頂(10:20)、聖平(12:35)、聖平小屋(12:50)

1973.1.1(月)
聖平小屋からアタック(5:45)、聖岳山頂(8:05)、聖岳山頂発(8:50)、聖平小屋(10:20)、聖平小屋から下山開始(11:15)、桧平(14:00)、聖沢吊橋(2:35)、出会所小屋(15:50)

1973.1.2(火) (富士山正午の気象:雪、南の風、風力6、気温−6度)
雪から雨へ。雨は午後遅くやむ。一日沈殿

1973.1.3(水)
起床(1:30)、出会所小屋発(3:15)、畑薙大橋(6:00)、畑薙大吊橋(7:00)、畑薙第1ダムバス停(8:20)
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