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2019年05月10日 20:01回想の山旅全体に公開

甲斐駒ヶ岳 〜早春の早川尾根をたどりオベリスクへ〜

 昭和47年(1972年)4月に甲斐駒ケ岳から早川尾根を縦走し鳳凰三山を目指した。この時期にアルプスの稜線を歩くのは初めての経験だった。春山への大いなる期待とちょっぴり不安が入り混じった心の状態を見透かしたかのように、春の嵐が吹き荒れて、出発を一日延ばすこととなってしまった。
 名古屋からは夜行列車に乗り、塩尻に。翌朝、辰野から飯田線で伊那北駅まで行き、そこからバスで戸台まで入る。戸台には9時前に着いた。同行者は、ヤマレコkichichanである。ここからは歩きである。
 あの当時、南アルプススーパー林道は工事がストップしていた。林道の建設による自然破壊が社会的な問題となっていたからだ。夏秋の登山シーズンに戸台から北沢峠まで長谷村営バスが通るようになったのは昭和56年(1981年)のこと。バスなら1時間ぐらいで峠に着いたのだから、入山するのに1日がかりという長いアプローチは今では好まれないだろうが、その分山登りへの高揚感は高まり、体も山に順応しやすい。道々、季節の移ろいやそれに応ずるがごとき自然の営みに、心躍ることもしばしばだ。
 戸台から、戸台川に沿ってだだっ広い河原を歩いていく。双児山が奥の方に見え、やがて駒津峰、甲斐駒の雄姿も見ることができると川の音も近くなる。よく見ると、まだ4月の初めだから、流木につららがかかっている。丹渓山荘あたりで雪道となった。赤河原登山指導所で登山届を出して出発。
 丹渓山荘からしばらく進むと八丁坂の急な登りとなる。このあたりでロングスパッツをつける。八丁坂を登り切って、しばらく行けば大平小屋。もう北沢峠は近い。峠を少し下って15時40分に北沢長衛小屋に無事着いた。早速、小屋の付近に簡易テントを張った。
 夜テントで横になっていると、しきりと高校時代の春山合宿の事が思い起こされて、なかなか寝つかれない。あの時は、北沢峠にテントを張って、小仙丈岳と駒津峰を往復しただけだった。何分、県教育委員会のお達しで、高校生の春山登山では森林限界を超えるような山の頂上まで登ることが禁止されていたからだ。そのようなわけで、今回の山行は、その時のリベンジでもあるのだ。
 春山合宿は、思い返してみると良い思い出ばかりでない。まず峠までの登りで、仙丈岳で滑落事故を起こした犠牲者を下界に降ろすスノーボートに出くわして神妙な気持ちにさせられた。それなのに、幸先の悪いことに最初の夜に用を足しに外へ出ようとして、登山靴の中に入れてあったメガネを踏みつけて壊してしまった。夜行列車の中でリュックサックのサイドポケットに入れていたオーバーシューズを片方落としてしまうといった失敗もあった。そのため、駒津峰の下山時には、オーバーシューズを履いていない方の靴には雪が入り込み、次第に足が冷たくなってくるのが分かる。やがて靴もこわばってきて歩きにくい。自業自得とはいえホトホト閉口した。テントサイトでも、今から思えば面白い経験をした。下から担いで上がった貴重な糸こんにゃくがいつの間にか凍結してしまい、豚汁に入れてみると輪ゴムのようになって食べられたものでなかったことや綿製のテントの底の生地が撤収時にはすっかり凍結してしまい、うまく折りたためなかったことなど、次から次へと脳裏に浮かんできた。
 第2日目は、オーバーズボン、ピッケルにアイゼンを着用し、甲斐駒ケ岳までアッタックする。天気は快晴。5時50分に出発する。仙水峠までは、何度か沢を渡りかえしてすすむ。峠には、浦和高校二部山岳部の遭難碑が立っていた。明日荷物を背負って越えていかなければならない栗沢岳、アサヨ岳には雪がびっしりついている。目を転じると真っ白な仙丈ヶ岳の姿が実に印象的だ。
 峠から駒津峰へはかなり急登となる。トレールがしっかりついているのはありがたかった。森林限界を超えると急に展望が開け、待望の北岳が姿を現した。特徴のある山頂部の塩見岳も見える。いずれも森林限界を超えると雪山である。六方石でファーストランチを取り、最後の登りにかかる。巨岩の下をトラバースしている先行パーティーが豆粒のように見える。10時30分には甲斐駒ケ岳山頂に立った。山頂でしばし絶景に見入る。地蔵岳、その奥には富士山の姿が見える。白根三山、仙丈ヶ岳はじめ南アの山々を堪能し、下山する。駒津峰でセカンドランチをとり、14時25分には北沢峠の宿営地に戻った。
 第3日目は、いよいよ早川尾根を通って、鳳凰三山を目指す。尾根の状況によっては時間がかかるかもしれないと不安が胸を過る。朝3時に起きて、出立の準備。おかげで5時30分には出発できた。仙水峠までは昨日と同じ道。そこからは尾根を昨日とは反対方向に進み、栗沢岳に向かう。8時30分栗沢岳、9時40分にはアサヨ峯に到着した。甲斐駒の堂々とした姿に改めて見入る。ここから更に早川尾根を進んでいくが、残雪期の尾根歩きはかなり体力を消耗する。早川尾根の避難小屋に着いたのは、13時を回っていた。広河原峠についたのが14時10分。二人とも足取りが重い。この調子では、今日中に地蔵岳を抜けるのは難しそうだ。ここは、樹林帯にある早川尾根の避難小屋に引き返した方が賢明だと判断した。何しろ簡易テントは、風が不安だった。ところが、小屋までの戻りのわずかな登りにてこずり、1時間を要してしまった。
 第4日目、早朝6時20分に出発。足取りも軽く、わずか20分で広河原峠につく。気持ちの上では同じようなペースで歩いているつもりでも、一晩休むとこうも違うものかと驚いた。その後も快調に飛ばし、8時に白鳳峠、9時に高嶺に着いた。ここまでくれば、地蔵岳のオベリスクも間近なのだが、次第にガスがかかってきた。オベリスクを見上げながら、鳳凰小屋に10時40分に到着した。明日の天気はよさそうだが、今回は鳳凰三山のうち観音岳、薬師岳は別の機会に譲ることにして下山することに決定し、午後はのんびりと過ごす。
 第5日目、鳳凰小屋を7時30分に出発、燕頭山に9時、御座石鉱泉には10時45分に着いた。御座石鉱泉から小武川林道を数キロメート歩き、再び山道に入り、ちょっとした峠を越えると宇波円井の集落に出る。
 人家のある山里にたどり着いて、ようやく山を下りたという満ち足りた気分になった。椿の花もすっかり散り果てたお寺の前で老婆に出会った。どこから来たのかと言う。耳が遠いのも手伝って、なかなかこちらの説明が通じない。しばし問答の末に「伊那の国から来たのか」と言われた時、なるほどここは甲斐の国、雪の稜線を伝って「国を越えてきたのだ」という感慨がワーッと胸に湧き起ってきた。
 14時10分に釜無川にかかる穴山橋を渡り、山行中終始天気に恵まれたことに感謝しながら、桜の花咲き乱れる中を中央本線の穴山駅まで歩いた。


【山行記録】昭和47年4月1日〜4月5日

4月1日(土) 晴れ
 8:50戸台発、12:00丹渓山荘着 ここで登山届を出し、昼食、12:45同出発、15:40北沢長衛小屋着
4月2日(日) 快晴
 5:50テントサイト出発、7:00仙水峠、9:00駒津峰、六方石でファーストランチ、10:30頃甲斐駒ケ岳山頂、10:45山頂出発、駒津峰でセカンドランチ、13:00仙水峠、14:25テントサイト着
4 月3 日(月)快晴
 3:00起床、5:30テントサイト出発、6:40頃仙水峠、8:30栗沢岳 ファーストランチ、9:40アサヨ峯、13:05早川尾根避難小屋、13:30同小屋発、14:10広河原峠、ここから引き返し、15:15早川尾根避難小屋着
4 月4日(火)晴れ、一時ガス
 6:20出発、6;40広河原峠、8:00白鳳峠、9:00高嶺 ガスがかかり始める、10:00赤抜沢の頭、地蔵岳オベリスクを経て10:40鳳凰小屋着
4 月5 日(水)晴れ
 7:30小屋発、9:00燕頭山、10:45御座石温泉、11:40同発、14:10穴山橋 穴山駅に。 
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コメント

RE: 甲斐駒が岳 〜早春の早川尾根をたどりオベリスクへ〜
同行者です。止まり場を変更・引き返したのは広河原峠でしたっけ?
広河原峠から若干進行方向に登って疲れを実感し戻ることを選択したのかと思っておりました。直前にブッシュにメガネを外され疲れも急激に襲ってきた気もしていました。
いずれにしろ翌日同区間を短時間で踏破できたのは、貴重な実体験でした。
その後深夜遅くまで仕事などが続いた時一時的に切上げてしまう判断時などにしばしば思い起こしたものです。結果的に効果的だったことが多く山行の有効性を実感したものです。
2019/5/13 11:47
RE: 甲斐駒が岳 〜早春の早川尾根をたどりオベリスクへ〜
広河原の峠の様子をすごく覚えています。
山行記録は、広河原峠となってますが、あなたが記憶してるように少し行動してみて戻ることに決定したのかもしれません。そして、広河原峠がテント泊可能か観察・検討したから、峠の様子が強く印象に残っているとも考えられます。いずれにしても、それほど登ったわけでないと思う。
2019/5/14 12:59
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