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越後魚沼地方の冬の生活を綴った「北越雪譜」は、雪頽（なだれ）のことを「幾千丈の山の上より一度に崩頽（くづれおつ）る、その響（ひゞき）百千の雷（いかづち）をなし大木を折（をり）大石を倒す。此時はかならず暴風（はやて）力をそへて粉に砕（くだき）たる沙礫（こじやり）のごとき雪を飛（とば）せ、白日も暗夜（あんや）の如くその慄（おそろ）しき事筆帋（ひつし）に尽（つく）しがたし。」と書き印している。雪崩は、遙か江戸時代の山里暮らしにとっても大変な脅威だったわけである。
ゴールデンウイークの連休近くともなれば、さすがに雪面も安定してくるに違いない。一昨年の3月に行った尾瀬・至仏山の山頂からの景色が忘れられないことも手伝って、荒沢岳から平ガ岳を抜けて尾瀬ヶ原に至ろうという計画を立てる。昭和55年（1980年）4月のことである。同行の士は、高校時代の山仲間で、たまたま職場が一緒のH君である。ところが、最初の荒沢岳の前�堯覆泙┐�ら）であえなく敗退、事前調査が杜撰すぎたと言わざるをえない結果になった。だが、入山第1日目にして大人しく引き下がるのでは気が収まらない。再び銀山平から道行山、小倉山を経て越後駒ヶ岳を目指した。最後は天気も回復したので、山頂から雪の稜線歩きを楽しみ、中ノ岳経由で越後側に降りた。以下、その時の山行の思い出である。
早朝銀山平に下り立つ。銀山平のキャンプ場はすっぽりと残雪に覆われていた。その銀山平から前山へはかなりの急登だ。午前8時に前山着。そこから残雪の尾根道をアップダウンを繰り返しつつ前�瑤惴�かう。この季節であれば木々に邪魔されることもないので、雪に覆われた越後駒ヶ岳のどっしりとした山容が一層大きく見える。前方に見える前�瑤蓮�近づくにつれなかなかの迫力で迫ってくる。おっかないところは鎖や梯子があるに違いないと、登れそうなところを登っていって、どうにか前��第1峰を登りきる。ここから大きな岩壁が行く手を遮ぎり、ルートファンディングに困ってしまった。鎖も梯子も見当たらないのだ。よく見ると、岩峰の上部からちぎれたロープの残骸が見える。相方のH君が下の方からあまり無理するなと声をかけてくる。ザイルも何もない我々は、ここで万事休す。今から思うと、鎖、梯子は外されていたのだろう。残雪期は、夏道以外の別ルートを考えてもよかったのかもしれないと思ったが、後の祭りである。正午頃、1450m地点付近で引き返すことになった。14時に1206mピーク辺りでテントを張る。前途多難なことに夕方から風が出てきて、雨もぱらつき始める。
次の日朝方4時ごろテントの外の様子をうかがうと、風はおさまったようだが、雨がかなり強く降っている。10時30分、霧雨の中を出発。12時に伝の助小屋に着く。相変わらずの小雨模様。小屋の中で少し休ませてもらう。そこで猟師の人たちから暖かいウサギ汁を振る舞われ、すっかり心が和んで13時30分まで長居をしてしまった。16時に道行山への支稜線1060m地点でテントを設営する。夜は再び小雨模様。
翌朝は、小雪が舞っていた。9時10分の天気図を取り10時に出発する。11時には道行山、12時には小倉山と順調に高度を稼いでいくと、ガスが晴れ始めた。足下には壮大な雪景色が広がっている。14時20分には駒の小屋に着く。荷物を置いて14時45分には越後駒ヶ岳山頂に至る。午後の日差しに照らされた雪面がまぶしい。16時ごろになると空には白い巻雲がかかり、快晴状態になった。
ここでひと悶着。「したたり止まぬ日のひかり うつうつまはる水ぐるま あをぞらに 越後の山も見ゆるぞ さびしいぞ」などと室生犀星の詩の一節をつぶやくロマン派のH君は、ここで山行は完遂ときた。明日は天気がいいのに、なぜここから山を下りるのかと納得がいかない私。駒ケ岳から稜線を中ノ岳まで行き、そこから下山することを主張するが、とんと話がかみ合わない。これはもう仕方がない。最後の日はお互い安全に注意して別行動することに決した。
最終日は、朝方の天気は高曇り。6時に出発し、7時40分桧廊下、9時5分中ノ岳避難小屋と快調に進む。やはり、不完全燃焼なのだろう、稜線から見える雪を頂く荒沢岳や平ガ岳、燧ケ岳の山々に盛んに目をやる。9時30分、中ノ岳山頂に到着。後は一目散に降りるばかりだ。12時5分千本松原、12時45分十字峡。最後は熊射ちのおじさんの車に便乗させてもらって、日野橋詰バス停からバスに乗り、六日町駅に出た。
【山行記録】 昭和55年（1980年）4月27日〜4月30日
4月27日（日）
6:35銀山平・中荒沢、8:00前山 西の風・高曇り、8:25 1206M地点、10:20前��第1峰、12:00前��1450M地点 引き返す、14:00テント宿営地（1206M地点）夕方から風が強くなる。18:00から雨ぱらつく 19:30風極めつつよい。
4月28日（月）
4:00頃風おさまるも、雨が強い
8:20起床 霧雨、10:30出発、12:00頃伝の助小屋 ウサギ汁をごちそうになる 小雨模様、13:30小屋出発、16:00道行山への稜線、1060M地点でテント宿営 西の風 夜小雨模様。
4月29日（火）
小雪ぱらつく。9:10の天気図をとり、10:00出発、11:00道行山、12:00小倉山 ガス晴れ始める、14:20駒の小屋、14:45越後駒ヶ岳山頂、16:00天気回復快晴状態 巻雲。
4月30日（水）
4:30起床 高曇り、6:00出発、6:50天狗平、7:40桧廊下、9:05中ノ岳避難小屋、9:30中ノ岳山頂、10:30 1560M地点 南風、12:05千本松原、12:45十字峡、13:10野中の手前で熊射ちのおじさんの車に便乗、14:49日町橋詰からバス。
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