|
|
|
幸い天気にも比較的恵まれて、無事完遂することができた。小屋の利用も、初日を除いて、みな冬季小屋を使わせてもらい、快適に過ごせた。しかも、行きの有峰口から折立峠まで、帰りの槍見温泉から平湯経由で新島々まで、ヒッチハイクさせてもらうという、オマケもついてきた。
以下は、よき昭和の貧乏学生の晩秋の北ア縦走の登山記録である。
夜行列車で早朝の富山に降り立つ。まだ夜明け前だ。一番のバスを待って有峰口に着いたのは、8時だった。30分ほど歩くと、電力会社の車が私たちを拾ってくれた。おかげで、9時半過ぎには折立峠に降り立つことができた。しかし、天気は次第に曇りから小雨模様、時折みぞれ交じりになる。気温は8度だ。身支度を整えて、10時に出立。11時45分三角点、13時35分に五光岩、14時30分には太郎平小屋に至る。ここまでくると、気温は零度、みぞれ交じりの小雪が舞う。相方のヤマレコkichichanの記憶によれば、太郎平小屋は、まだ小屋を閉める作業中だったので、冬季小屋利用とはいかず、小屋から若干尾根を薬師岳の方向にいったところにテントを張ることにした。テント場の上部にトイレがあり、風よけにトイレを利用することを考え付く。なんと、トイレ入り口の通路にテントを張ったのだ。さすがに、これはわびしい光景である。
次の日、朝起きると天気は回復していた。日の出間近な頃を見計らってテントサイトから薬師岳をアッタックする。わずかに雪で化粧した太郎兵衛平の枯れ芝も、たなびく雲もうっすらとピンクに染まる。北俣岳のゆったりとした斜面が朝日の光に映えて、何度もシャッターを切った。遠く槍ケ岳・穂高の山脈も見える。これもカメラに収める。わずかに白く輝く薬師岳の堂々とした山容が実にいい。
登山道を登っていくと、避難小屋あたりから風が強くなる。途中から防寒のためオーバーズボンをはいて、8時には山頂に着いた。うっすら新雪に覆われた山頂の天気は、快晴。山頂から四囲を紅葉の山に囲まれた有峰湖が見渡せた。立山、剣岳も手にとるように見える。しかし、風は強く、気温は零下以下。体感温度はさらに低いだろうから、あまりのんびりもできない。それでも、30分ほど粘って景色を楽しんだ。9時5分にはケルンのところまで下りてきて早めのランチ。10時にテントサイトに戻って撤収開始。気温2度。10時40分に薬師沢をめざして歩き出す。薬師沢の小屋には午後2時20分着いた。天気が良かったので、ここは気温が10度あった。
3日目。４時30分発、月明かりを頼りに雲ノ平を目指して登っていく。6時45分に雲ノ平に出る。霜の降りた湿原が朝の光に照らされて、幻想的な雰囲気で我々ふたりを迎えてくれた。池塘には、薄く氷が張っている。8時5分雲の平山荘着。ガスがかなりかかっていて気温3度。赤い屋根に白い小屋は、雲ノ平の雰囲気にぴったりだ。雲ノ平は、まだ地面が凍っており、ぐちゃぐちゃせず歩きやすい。8時30分、早めの昼食。池塘の水を飲み水にする。これが、なかなかうまい。風はかなり冷たく、気温1.5度と冷え込んだままだ。
祖父岳手前の分岐に9時35分に着く。この頃になると、どんよりとした雲が山稜部を覆い隠してしまう。ここから黒部源頭に下りる道をたどる。しばらく歩くと斜面に雷鳥が１羽いるのに気づく。まだ冬毛には生え変わっていないが、腹部は白く、絶妙の保護色だ。ここでも慌ててカメラを取り出し、写真をとる。kichichanが絶好のシャッターチャンスを狙って夢中で追いかけたので、とうとう雷鳥は飛び立ってしまった。これは雷鳥にとってとんだ御難だったに違いない。正午近くに三俣山荘に着く。天気は相変わらずすっきりしないままだ。
この夜、同宿者がひとり、かなり遅く小屋にやってきた。この山行中に出会った唯一の人だ。どうやら前の日もここに泊まった雰囲気がプンプンする。そういえば、机においてあった食べかけのセロリの粕漬けがあった。それを、我々は夕食時に漬物だから腐ってなかろうとばかり手を伸ばして頂いてしまったのだ。ひょっとしたら、このセロリの粕漬けの所有権はまだ放棄されていなかったのかと、ふたり神妙に顔を見合わせた。どうかお許しあれ。
4日目。昨夜天候を非常に心配しながら寝入ったが、起きてみると月夜に北斗七星やカシオペヤ、オリオンが輝いていた。5時10分、ヘッドライトをつけて三俣山荘を出発。三俣蓮華岳への分岐地点でちょうど日の出となる。燕岳の頂上から登りくる日の出がとても美しい。135�个遼庄鵑鬚弔韻董�日の出の瞬間をとらえ御満悦だったが、しばらくしてモノクロフィルムからカラーフィルムに取り換えた時にASAを変え忘れたのに気づき、意気消沈。フィルムを入れ替えるお手並みはプロ級との評もあったのだが、ASAを変え忘れては、努力はすべて水泡に帰すである。（注：この当時1台のカメラで撮影場所、撮影シーンによってカラーフィルムとモノクロフィルムを使い分けていた。）
8時に双六小屋着。双六池の周りの斜面にわずかにうっすら雪があった。このあたりから見える笠が岳は、いかにも笠という名にふさわしく見えてすばらしい。それにしても笠ヶ岳までの道のりは遠そうだ。弓折岳の西側をトラバースして、9時35分に大ノマ乗越に着く。空にはうろこ雲が広がって晩秋の山を感じさせる。11時5分秩父平。抜戸岳の独特の山容が大きい。ここでどうにか池塘の水をポリタンに補給することができた。今夜は、この2リットルの水で過ごすことになる。抜戸岳を通過し、穂高温泉への分岐に12時50分に到着。西の方の空に雲がかかり始める。低気圧の接近の兆候だ。少しピッチを速め、14時に笠が岳山荘に到着。ここまでくれば、明日は、槍見温泉めざして下山するのみである。
5日目。夜半から雨が小屋の屋根をたたき始める。気温は1.5度ぐらいだから、幸いなことに雪ではなく雨である。朝方9時まで雨が降り続いた。5時ごろから起き出したが、当然様子見である。kichichanは、今日中に松本に出たいのでイライラしはじめる。10時まで待って出発する。小屋の前に雷鳥が４羽散歩中であった。ガスがかかるとどこからともなく現れるのが雷鳥だと、妙に納得する。笠ヶ岳の頂を踏み、ここから標高差2,000mの下りである。単調な下りが続き、終いには膝ががくがくになった。下りてみると、そこは美しい紅葉の森だった。木々の間から焼岳がわずかに見えた。
槍見温泉に14時30分着。ここで、15時54分の高山行きのバスしかないことが分かる。kichichanは松本行きに未練が残るようで、高山に出るのを渋る。仕方がない、後はヒッチハイクである。幸いなことに、地獄に仏である。槍見温泉から栃尾に、栃尾から平湯に、平湯から新島々にと3度にわたってヒッチハイクを繰り返し、何とか松本に出ることができた。
松本駅で深夜の夜行列車を待ちながら、山行を振り返る。それにして、10月下旬の北アルプスの縦走にしては順調にいったものだ。食糧や果物をいつも以上にたっぷり持って行ったのはよかった。何よりも早めに冬季小屋に入り、体力の回復に努めたこともよかった。今からまた山に出かけられそうな気分である。
【山行記録】昭和47年（1972年）10月23日〜10月27日
23日（月）
夜行列車で、5:47富山駅着。バスで8:00有峰口。8:30ごろ、北陸電力の車に乗せてもらい、9:35に折立峠に到着。天気は曇り、小雨で時折霙まじり、気温8度。10:00に同出発、11:45三角点。13:35五光岩、14:30太郎平小屋、15:00テント地 気温零度、小雪、みぞれ交じり。
24日（火）
4:00起床、5:50出発。（朝日を写す）6:55三角点（２６５８m）、7:30避難所 風が強い、8:00山頂 快晴、8:30山頂出発、9:05ケルン 昼食、10:00小屋 気温2度、10:40出発、13:40薬師沢の出合くもり、14時20分薬師沢小屋 気温10度
25日（水）
3:00起床 晴れ4度、4:30月明かりの中出発、6:45三角点付近 曇り、8:05雲ノ平山荘 ガス 気温3度、8:30昼食 気温1.5度、8:50出発、9:35祖父岳とトラーバース道分岐点、雷鳥発見、（黒部源流）11:55三俣山荘着
26日（木）
5:10三俣山荘出発、8:00双六岳、9:35大ノマ乗越、11:05秩父平 水場、12:50抜戸岳からの分岐、14:00笠山荘
27日（金）
5:00起床 雨、気温1.5度 9時ごろまでガスが濃い。10:05出発、雷鳥４羽目撃、14:30槍見温泉 紅葉が美しい。栃尾、平湯、新島々とヒッチハイクを繰り返し、松本に出る。
「セロリの粕漬け」のことは鮮明に覚えています。同宿者は他の山小屋も点検してきたという話をしていたと思うので、山小屋関係者だと感じていました。なお粕漬のワサビなどは親しんでいましたが、セロリの粕漬は初めてで珍しく松本の駅でもお土産に購入した気がします（貧乏学生もどうにかカメラ用品やちょっとした土産は買ったのでしょう）。ウィキペディアによれば「セロリが盛んに栽培されるようになったのは戦後、食生活が洋風化していってからのことである」ということでした。
槍見温泉手前の美しい紅葉の森も深く印象に残っています。当時食料を含め予備日なども残っていたはずで、帰着を焦らなくとも一日程度であればむしろ学生としての充実した時間を過ごすこともできた気もします。まあそれなりにどうにか日程を工面して山に出かける計画を立てたのでしょう。ご苦労様でした。
私のカメラは、ニコマートシリーズのものだった。もちろん中古です。ニコンＦシリーズは憧れの的。勤めてからボーナスはたいてようやくＦ３を買ったときは、うれしかった。１３万円ぐらいした記憶がある。
フイルムは、当時コダック社のエクタクロームやコダクロームが発色がいいというので使っていたが、何しろ値段も高かった。そこで、長尺のフイルムを短く切ってセコハンのフイルムケースに入れたものを扱っている店があって、そこで購入していたのは、良き思い出です。
この山行で食べ物の思い出といえば、下山後松本の街で喫茶店に入り、パフェを食べたね。普段、私などは、喫茶店に入ってもストレートコーヒーかせいぜいレモンスカッシュ程度で、パフェを頼む勇気はなかった。甘いものに飢えていたのだろう。
この時の記録が残っているのは、松本駅で東京方面に行く貴兄と別れてから、夜行列車の時間まで暇だったので、感じたことなどあれこれフィールドノートに書き記しておいたからです。気温を盛んにメモしていたのは、やはり天候変化に過敏になってたからだろうね。
長尺フィルムすっかり忘れてました。最近でもアナログフィルムを利用している方の話題にはなっているようで驚いています。
https://cloudandwater.jp/2016/01/07/making-35mm-film-bymyself/
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する