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頂や峠で遠くの山々を眺めていると、居合わせた人とあいさつを交わしたわけではないのに、どちらからともなく語らい始めることがある。これも、ひとりぼっち登山だから味わえる山の楽しみといっていいだろう。
20年ほど前に登った伊予富士も、こんな思い出が心にのこる山だ。
伊予富士(1756m)は、山の名前に富士とついているが、四国の脊梁山脈である石鎚山系の峰々の一つで独立峰ではない。登山ルートは、旧寒風山トンネル南出口にある登山口から1451mの桑瀬峠に上がり、稜線をしばらく歩いて頂に至るのが一般的だ。
このアプローチの良さも、壁のように立ちはだかる山並みをぶち抜いて瀬戸内から太平洋へ最短ルートで結ぶ国道194号線の寒風山トンネルがあるおかげである。このトンネルが開通したのは、昭和39年(1964年)。しかし、標高1120mの高所にある全長945mのトンネルへの急傾斜の悪路の道は、冬季期間通行不能になる日も多く、平成11年(1999年)に新たに全長5432mの新寒風トンネルが開通した。おかげでこの区間の通過に50分かかったものが、わずか10分に短縮されたのだからすごい。
この日も、本格的な紅葉のシーズンを前に足慣らしにと山に向かったのだった。
西条から新寒風山トンネルを高知県の本川村一ノ谷に抜けて、旧道をUターンするように登り返すと旧トンネルの南側の瓶が森林道の入り口に着く。時刻は既に午前11時を回っていた。近くの駐車スペースに車を止めて、急いで身支度を整えて出発である。
樹林帯の急坂を息せき切って小一時間ほど登ると、笹原が生い茂る桑瀬峠に出た。峠から寒風山への稜線はくっきりと見渡せたが、笹ヶ峰は吹き上げてくるガスの中だ。桑瀬峠もまた伊予と土佐を結ぶ往還の峠であったが、愛媛県側の道は途絶えた。
笹の稜線を歩いていくと、ますます瀬戸内側からガスが湧き出てきた。急登の道にかかれば、山頂も近い。頂についてみたものの、楽しみにしてきた石鎚山はガスの中。肌寒さが一層強く感じられて、慌ててリュックからヤッケを取り出す。
それでも、ビスケットを頬張りながら、松山から来たという初老の夫婦の登山者と話をしていると、幾分ガスが薄らいできた。秋の日が頬にパット差すと、にわかに暖かさを覚える。眼前には高知の山々が、眼下には樹林帯を蛇行する瓶が森林道が見える。まだ紅葉には少し早いようだ。
「頂で語らひをればガス間より山なみ見えて秋日あたたかし」
重い腰を上げて、のんびりと美しい笹の稜線をたどっていくと、リンドウの花が咲いている。桑瀬峠で、また一足先に下っていった二人連れに追いついた。標高にして300mほど下っただけだが、南斜面はぽかぽかと暖かい。
お二人とも山はあまり歩きなれてない様子だったが、自然志向の強い人のようで、久万町の実家近くの山中で杜仲茶の有機栽培をしているという。杜仲の木の樹皮は昔から漢薬として昔から利用されてきたが、その葉っぱを乾燥させ焙煎したものが杜仲茶というもののようだ。ネット販売も手掛けているが、サイドビジネスには程遠いのが現状なのだといった他愛もない会話をしばらくして別れたのだった。
(山行記録)2003年10月4日
11:15寒風山トンネル出口登山口 11:58桑瀬峠 13:31伊予富士山頂 14:08リンドウの花 13:45桑瀬峠
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