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「友と登る山路黄色く色づきて風澄みわたり光舞ひ散る」
南国土佐のイメージとは程遠いので驚きなのだが、江戸時代に土佐藩の御留山であった手箱山（1802m）の山中に氷室があった。氷室のための番所も設けられ、夏には殿様に冷たい氷を届けたという。
氷室とは、一言でいえば冬にできた天然の氷を保存する穴のことある。地形や手に入る素材により形態は様々だろうが、日のあたらない山腹に穴を掘り、地面には茅やすすきを厚く敷き詰めて氷を置き、さらにその上を草で覆って断熱したものだ。
かの清少納言の「枕草子」にも、暑い夏の盛りにかき氷を楽しむくだりがある。「削り氷にあまづらを入れて、新しい金属製の器にもってあるもの」は、上品なものとある。（注� 砲海鵑癖唇造竜�族の楽しみも、氷室があったおかげである。
その手箱山には、久しぶりに大学時代の友人と2003年の10月中旬に登った。
前夜は、瓶ケ森林道のシラサ峠にある山荘シラサに泊まった。翌朝、県道石鎚公園線を高知の本山村長沢方面に向かい、名野川の登山口（943m）に車をデポして、筒上山、手箱山へ向かう。
二つほど谷を渡り、尾根に取り付く。シャクナゲ帯を抜けて尾根の上部に至ると、雲一つない秋の青空が広がり、黄葉に彩られたブナやミズナラの木々が目を奪う。笹の下草も照り輝くようだ。
土小屋方面からのトラバース道に出て、自然林に覆われた気持ちのいい道をしばらく行くと、手箱越に出た。歩き始めて2時間20分、ちょうどよいペースだ。
峠には石垣づくりの修験道場があり、鳥居越しに独特のドーム型の山容をした筒上山（1860ｍ）が見える。しばらく歩いて40メートルほどの鎖場を登れば、山頂である。筒上山からの石鎚山は、天狗岳を頂点に尖型の姿が際立っており、成就社からの荘厳な姿とは趣を異にしているが、これもまたいいものだ。
これから向かう手箱山も、紅葉したコメツツジが笹原に色彩を与えていて実に良い。手箱越から手箱山へつづく稜線は、ダケカンバの林を越えるとゆったりと笹原が続いている。
手箱山の山頂から、再び笹原を分け入りながら、氷室番所跡の分岐を目指して下りていく。当初の計画では、ここからダイレクトに名野川登山口に周回する予定だったが、いざ現場に立つと、踏み跡がいかにも薄く、急峻な尾根道は至極荒れている雰囲気である。鳩首協議の末、ここは急がば回れと、大瀧登山口に下りることにする。途中、氷室番所跡を見るのも一興である。
標高1500mほどにある氷室番所跡の本格的な発掘調査は、昭和48（1983）年に行なわれた。その結果、平屋の建物の礎石が出土して、この付近に氷室が設けられていたらしいということになった。今では、地元の町おこしにと毎年７月に復元された氷室から氷を取り出して、麓で氷室まつりの催しが行われているという。
秋の日差しが差し込む中、標高差1000mを超える下りの道を降りきると、名野川に架かる木橋に出た。もう大瀧登山口は近い。後は、県道をのんびりと名野川登山口に登り返すだけだ。
注� �枕草子４２段「あてなるもの。・・・削り氷（ひ）に あまづら入れて 新しき金碗（かなまり）に入れたる。」
（山行記録）2003年10月18日
8:06名野川登山口 10:26手箱越 10:50筒上山 12:10手箱山 15:14名野川吊橋 15:20手箱山大瀧登山口
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