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新居浜の東のはずれの海辺近くに住み始めて、毎日山並みを仰いで暮らすことになった。それは、名古屋生まれの私にとって、初めての経験であり、極めて新鮮だった。
海辺まで散歩すると、東の方に一段と端正な姿の山が見える。調べてみると、その山は赤星山(1453m)、別名伊予小富士ということが分かった。
西行法師が50歳の時に讃岐の善通寺玉泉院に庵を結び、弘法大師の遺跡を訪ね歩いた折に、赤星山を見て「西南の秀嶺」に感嘆したと伝えられているのも頷ける。
その赤星山には、夏の暑い盛りに登った。Tシャツにスニーカーという、ちょっと登山には似つかわしくない格好であった。
土居町の野田から高速道路を越えて大地川沿いに林道を進むと野田登山口。ここから山頂までは、標高差にして1160m、皇子渓谷の7つの滝を楽しみながら登る。
30分ほど歩くと、機滝についた。機滝は高さ17m、幅20m、落下する水が機織りの糸を思わせことからその名がついたといわれるが、その日は思ったほど水量がなく三筋の滝のようにも見えた。滝口に下りると、水しぶきを浴びて苔むした大きな岩の上に、イワタバコだろうか、可憐な花が咲いていた。
この辺りの道は、かつて曽我部友吉という篤志家がつるはし一本、まさに手弁当で道を切り開き、3,000本以上の桜の木を植えたところだという。もうすっかり忘れ去られてしまった事跡であるが、末永く顕彰すべきことなので、書き添えておくことにしよう。
木の間から見える紅葉滝は、結構水量が多い。布引の滝はその名の通り滑るように流れ落ちていく。
稲妻滝、千丈滝、中折滝、天流滝とつづく谷筋の路を登っていくと、しゃくなげ尾根の道となる。谷筋を離れると、急に蒸し暑さを感じる。夏の日が差して気温が上昇するとともに、夏の山特有のガスが発生してきて、ブナやカエデの森は瞑想の森といった雰囲気となった。
山頂は、背丈ほどの灌木の中にあった。カヤ原から西の方には二ツ岳や東赤石岳などの山々が見渡せるはずだが、期待外れ。わずかに、ガスの合間から土居町の海岸線が見えるばかりであった。
帰路、野田から新居浜の多喜浜に抜ける天満峠までくると、瀬戸内の紺、天満港の漁船の白、田園の緑、翠波高原の山並みの青と、疲れが吹っ飛ぶような絶景が広がっていた。夏山の天気は、こうだから少しばかり苦手である。
注:冒頭の歌は、最初の年の暮れに宿舎から望み見た赤星山を詠んだもの。
(山行記録)2002年8月4日
8:40野田登山口 9:09機滝、9:17紅葉滝 9:21布引滝 10:49天流滝、12:05赤星山山頂 15:05野田登山口
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