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2021年05月26日 10:38回想の山旅全体に公開

正月の火打山  〜雪山賛歌が響く〜

 新潟の火打山(2461m)は、頚城山塊の最高峰にもかかわらず、山里から優雅な山容を見ることはできないためだろうか、その素晴らしさをあまり知られていない。
 雪の降り積む冬、たおやかな峰は、どこまでも白く、雪山としての風格は超一級品である。しかし、その姿をいつも拝めるわけではなく、まして頂に立てるとは限らない。わたくし自身も学生時代に深い雪と降り続く雪に阻まれて、見事敗退した経験があった。豪雪地帯の山の宿命である。
 毎年のように正月の笹ヶ峰を訪れていた我が山スキーの師匠は、昭和54年(1979年)の年末に、30年越しの宿願を果たして頂に立った。それは、雪山賛歌の「雪の間に間に  キラキラ光る  明日は登ろうよ  あの頂に」、「朝日に輝く  新雪踏んで  今日も行こうよ  あの山越えて」の歌詞を思い起こさせるような僥倖の積み重なった山行だった。
 以下、その思い出をたどってみたい。

 この年は、正月過ぎまで雪が極めて少ない年だった。いつもお世話になっていた杉野沢の民宿のおばさんが、「根雪のない正月は、嫁入り以来2度目だ。」というほどであった。確かに、学生時代の2度の笹ヶ峰山スキー合宿の帰りは、妙高高原駅までスキーを滑らせてバス代を浮かしたのだった。
 思い返せば、10年前も杉野沢から火打山アタックの拠点の笹ヶ峰の営林署の小屋まで、重い荷物をもってスキーを履き1日かけて入山した。これはこれでなつかしい思い出なのだが、この年は、小雪のお陰で、1000円と引き換えにマイクロバスで笹ヶ峰まで入れた。笹ヶ峰に着いてみると、天然の「ゲレンデ」が一般スキーヤーに占領されてしまっていたのには、驚かされた。
 翌朝も快晴。現役の学生たちが合宿している営林署の小屋を朝7時に出発する。パーティーは6人、くだんの山スキーの師匠と2人の先輩、それに同輩3人である。ブナ林を抜けて黒沢橋へ、スキーを細引きひもで引っ張ってトレースの上をずぼ足で歩く。七曲りあたりからオオシラビソの林となり、やがて、ダケカンバの林になった。この急坂はスキーを担いで登る。
 シールをつけたのは、富士見平への最後の登りからである。まもなくして、真っ白な姿の火打山が眼前に姿を現した。初めて目にする山容に感激ひとしおだ。それにしても、富士見平からの火打山、焼山、金山と続くパノラマは圧巻である。
 昼前には、高谷池のヒュッテにつく。ヒュッテは、小ざっぱりした3層の山小屋に建て替えられていた。10年前、スキーをつけても膝近くまでくる新雪の中を交代でラッセルしてたどり着いたヒュッテは、古風な丸太のロッジ風。降りしきる雪に閉じ込められて、実に寒かった記憶がある。
 高谷池一帯は、一面の銀世界。その奥に火打山が堂々とした姿で控えている。天気はあいかわらず良く、雪もスキーをつければくるぶしほど、まるで春山のようだ。振り返ると、外輪山越しに妙高本峰が見えた。最後の登りの稜線の風もさほどでもない。2時間ほどかけて午後2時45分に頂に立った。
 なんだか実にあっけない。15分ほど頂でくつろいだが、山スキーの師匠は、30年越しの宿願達成の喜びをぐっと抑えているように見えた。それでも、天狗の庭の雪原へと続く大斜面をクリスチャニアで華麗に滑り降りる師匠の背中は、喜びにあふれていて、私はその姿を静かに追った。
 新装なったヒュッテは、3階部分が冬季小屋として開放されていた。おかげで、暖かな一夜を明かすことができた。夜中に外に出てみると、冬空に星が冴え、満月間近の月光が煌煌と雪面に降り注いでいた。 
 翌朝、太陽が昇り始めると、火打山の山肌がピンクに染まった。雪山が魅惑的な姿を現す一刹那である。しばらく夢中でカメラのシャッターを切り、山肌を染めたピンク色がオレンジ色に変わり、次第に白さを取り戻していくのを眺め続けた。
 朝食を済ませて再びヒュッテ前の雪面を登って行って、何本か滑って山との別れを惜しむ。午前10時:40分にヒュッテ発、11時に富士見平、13時過ぎには黒沢橋まで下り、午後2時30分には笹ヶ峰の小屋に戻った。
 ここまで順調にきて下山予定まで1日余ましてしまったので、明日は乙見山峠方面へのんびりと雪上散歩に出かかることにした。うれしい誤算である。その夜は、大みそか。現役たちと夜遅くまで酒を飲み交わしつつ、談笑する。
 翌朝、元旦の朝をゆっくり過ごして出発。笹ヶ峰の奥へと真川をさかのぼっていって、杉野沢橋まで来ると、優雅な稜線の、悠揚として迫らぬ風情の火打山が目に入ってきた。名残を惜しんだ山にまた会えた喜びに、思わずシャッターを切る。青空の下どこまでも純白な山がそこにはあった。

【山行記録】昭和54年.(1979年)12月.29日〜昭和55年1月1日

12月29日
 杉野沢の民宿から笹ヶ峰に移動。笹ヶ峰でスキーの試走。

12月30日
 7:00笹ヶ峰の営林署小屋発、8:00黒沢橋、11:00富士見平、11:45高谷池ヒュッテ、12:50同発、14:45火打山、15:00同発、16:00〜16:15ヒュッテ前ゲレンデ、17:00ヒュッテ着

12月31日
 8:50ヒュッテ前ゲレンデで名残のスキー、10:40ヒュッテ発、11:05富士見平、13:10黒沢橋、14:30営林署小屋着

1月1日
 9:00営林署小屋発、9:40杉野沢橋、ニグロ川から乙見山峠方面、11:40引き返す、14:15杉野沢橋、15:10営林署小屋着 この日に杉野沢に下山。
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