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ことの発端は、年末の越後の火打山で、山スキーの師匠の滑りにカルチャーショックを受けたからだ。師匠は、年齢も何のその、山頂部から天狗の庭へと続く大斜面をまるでゲレンデを滑るように、弧を描いて軽やかに滑り降りていった。
その夜の歓談は、いつしかスキーの技術論から道具論にまで及んだ。新雪に近い雪面なら山スキーの板の性能は二の次でよく、何と言っても足元が肝心だと言わんがごとく聞こえてくる。ダブルブーツという初めて目にする山スキー靴の秘密のベールが解き放たれた瞬間だった。
確かに、普通の登山靴では、どうしてもスキーの板との一体感が完全には生じがたい。それで、スキー操作は、ついつい力業に頼ることになるが、日頃の仕事漬けの生活がたたって、学生の時のようにバランスの崩れを足腰の力で補うこともままならず、思わぬところで転倒したりする。日ごろの運動不足に恥じ入るばかりである。その点、師匠は毎日ランニングの鍛錬を欠かさないというから、恐れ入る。
豁然大悟。「スキー兼用靴は、ローバーにしかず。スキー板はコンパクトなもので十分。」と悟った。帰京後、早速登山用品店に行って、ローバーの2重靴を大枚49,000円はたいて購入した。
靴の重量は、片足2kg、うちインナーブーツは0.4�圈�実にがっしりしている。履いた感じも足がしっかり包み込まれて申し分ない。それに、柔らかな皮とフェルトのインナーブーツは防寒性にも秀でている。さすがドイツ・バーバリア地方にあるイェッツェンドルフで長年靴作りに励んで、世界的に評価されるようになっただけのものはあると感心する。
夜行列車に乗って土合駅に着くと、そこはトンネルの中だった。土合駅の下り線の駅は、昭和42年（1967年）9月に新清水トンネル開通により湯檜曽駅から土樽駅の間が複線化されるに伴って地下駅となっていたのだ。
まずは、地下70mにある地下駅から上り線の地上駅まで、長さ338m、一直線に伸びる462段の階段を登らなくてはいけない。呆気に取られていてもしょうがない。皆黙々と登っていく。
靴を新調するなら、この際他の装備も一新とばかりに新調したゴアテックスのヤッケと胴体一体型のオーバーズボンを身に着けたいで立ちは、周囲のスキーヤーとはスタイルが違っていて、いささか気恥ずかしいが、気にしていてもしょうがない。色とりどりのスキーウェアをまとったスキーヤーに混ざって天神平へ向かうロープウェイ乗り場にゾロゾロと上がっていく
麓のゴンドラ駅で１日通し券を買って、ロープウェイに乗り込む。ロープウェイは、全長2400m、標高差約570mを一気に標高1300mの天神平に運んでくれる。その間、お目当ての田尻沢の様子を観察しようとゴンドラの窓際に陣取る。天候のことよりも、これから滑る田尻沢の沢筋の雪が気にかかるのだ。上から眺めると、なんだか雪の付き方が不足気味に思えて、滑れないのではないかと不安がよぎった。
天神平で、リフトを使って何本か滑り、足慣らしをしたところで、いよいよ田尻沢の滑降を試みる。スキー客は、ほとんど足を向けない。降り口の斜面は狭く、斜度はかなりきつい。慎重にコース取りを定めて、滑りだす。滑り出してしばらくすると、少し余裕が出た。3�劼離瀬Ε鵐劵襪了呂泙蠅任△襦�
滑りきると、再びロープウェイに乗る。何回乗っても料金が同一なのは、ありがたい限りだ。ただ、待ち時間がもどかしいのには、閉口した。
田尻沢を何本も滑り降りて、すっかり満足した。ただ、日帰りは、帰りの列車の時間を気にしなければならないから、気ぜわしい。
試走の結果は、どうだったか。ローバーの靴は、最初に履いた時に感じたのと同じで、実に素晴らしいものだった。ここまで来ると雪質がよいのも確かだが、断然スキーを操作しやすいのに、驚かされ、帰りの車中では終始ご満悦だった。
なお、未踏の谷川岳には、それからおよそ40年後の夏に天神平から登った。これまた、日帰り登山だったので、やはりロープウェイ利用だった。
（昭和55年（1980年）1月21日の記録をもとに）
（参考）「正月の火打山 〜雪山賛歌が響く〜」
昭和54年.（1979年）12月.29日〜昭和55年1月1日
https://www.yamareco.com/modules/diary/356744-detail-240717
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