私の植物図鑑遍歴

2021年09月12日 13:55昭和の山旅考全体に公開

　　　自然を愛する君へ

　　春は野を歩いて　　　草の名を覚えよう　
　　夏は高原を歩いて　　草の名を覚えよう
　　秋は渓谷を歩いて　　草の名を覚えよう
　　冬は堤を歩いて　　　明日への息吹を知ろう

　これは、若き日のノートに記されていた詩作だ。ちょっとばかり詩人気どりで書き付けたのだろう。
　これまで十数回引っ越しをしたが、どこででも住めば都と時間があれば身近な自然を求めて歩いてきた。しかし、今でも草木の知識は、からきし身についていない。どうやら、季節の移ろいを感じ取ることで私の心は満たされ、自然を風景として捉える性向が強かったようだ。
　それでも、一つひとつの植物を見つめ、語りかけ、たくましい生存戦略の世界をのぞいてみたいと思っていたらしく、捨てがたい書物で埋め尽くされた書棚には、若い時から買い込んできた植物図鑑が結構ある。

　最初に買ったのは、山渓カラーガイドの「カラー　山の花」だ。本の奥付には昭和41年8月とあるから、山に登り始めた高校生の頃だ。値段は480円とある。表紙を飾るのはヒナウスユキソウの花。あの当時、映画「サウンドオブミュージック」に魅了されていた日本人は、皆エーデルワイスの虜だった。どの写真にも、撮影場所・日付、撮影機材、撮影データが記されており、山岳写真家の白旗史郎氏の高山植物撮影ノートを2ページ載せられている。本の帯に新田次郎氏が「この本とともに山を歩けばひと夏でちょっとした高山植物のオーソリティーになれる」と推薦の言葉を寄せているのは、いかにも時代を感じさせる。
　次に古いのが、「カラー　野に咲く花1」（初版　S43.3.25　10版S47.4.15　580円）である。関心が、山の花からもっと身近な野の花に広がってきた頃に買った。ハードカバーで、一つひとつの写真に、撮影者の名前が明記されている。最初の花がシオンで、これだけはすぐ覚えた。「カラー山の花」と同じく、国立科学博物館付属自然教育園に勤務している丸山尚敏氏の解説文が、単なる植物誌という範疇を越えていて、なかなか面白い。
　保育社のカラー自然ガイド「野山の木Ⅰ」、「野山の木Ⅱ」（初版S50.4.1　重版　S52.4.1　430円）は樹木の解説が充実しており、図版はすべて写生画であるのが特色だ。文庫版サイズで、極めてハンディなものだが、残念ながらあまり持ち歩いた記憶はない。
　山渓の野外ハンドブックシリーズの「４　野鳥」、「６　樹木１」、「７　樹木２」、「１１　薬草」も忘れがたいものだ。いずれも値段は、1600円。買ったのは、昭和50年代中頃、狂乱物価でモノの値段が上がった後の時代だ。樹木の2冊は、「花のめだつ木」、「実のめだつ木」、「紅葉のめだつ木」、「針葉樹」と実用的に配列されているのが特色だ。
　平成時代に発刊されたものとしては、山渓ハンディ図鑑が輝きを放っている。「２　山に咲く花」、「３　樹に咲く花　離弁花①」、「４　樹に咲く花　離弁花②」、「５　樹に咲く花　合弁花、単子葉、裸子植物」と取りそろえた。いずれも値段は2800円だった。山の花一つとっても、生態写真という視点で複数の写真が載せられているのは、魅力だ。何といっても、ラテン語語法の学名が記載され、学名索引までついていたのには、素人の気持ちをくすぐられた。
　近年購入したものでは、「葉っぱ・花・樹皮でわかる樹木図鑑」（池田書店　2014.5.20発行　2300円+税）がお気に入りだ。葉っぱ、樹形、花、樹皮。枝葉の5つの視点から256種の樹木を写真付きで解説している優れものだ。
　
　最近ふとしたことから、「毒草を食べてみた」（植松黎　文春新書）、「植物はなぜ薬を作るのか」（斎藤和季　文春新書）を手にしてみたが、なるほど植物の世界は奥深い。「自然を愛する」とは、どういうことなのか、探求は続きそうだ。

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