道志の赤鞍ヶ岳　～同一山名の謎と戸惑い～

2021年11月19日 22:23山行記録雑記全体に公開

道志の赤鞍ヶ岳　～同一山名の謎と戸惑い～

　先日、赤鞍ケ岳（別名ワラビタタキ)、赤鞍ケ岳（別名朝日山）、菜畑山と道志村役場から周回した。初めての道志の山旅だったが、晩秋の一日誰一人会わない静かな山歩きをしてきた。
　その時気になったのが、同じ「赤鞍ヶ岳」の山名を持つ山が同じ稜線上に１時間ほど離れたところにあることだった。
　これを、「山名が混乱している」で済ましていいのだろうかと、疑問が湧いたのだった。なぜなら、山歩きには山名は極めて重要な情報であるから、山の名前に思い違いがあったとしたら予想もしないことが起きても不思議でない。

　下山後、まずは私の手元にある山の資料を当たってみた。
　アルペンガイド別冊「東京周辺の山」（1986年）では、「厳道峠から朝日山」のコースを紹介しているが、当然のように三等三角点があるワラビタタキ（標高1257m）を赤鞍ヶ岳と呼び、国土地理院の地図記載の赤鞍ヶ岳（標高1299m）を朝日山として解説している。この三等三角点の点の記を国土地理院のデータベースで調べてみると、点名は「大栗村」で、明治19年8月3日に選点、同12日に埋票したとなっていた。所在地は、道志村赤倉沢5465-18とある。
　また、昭文社の「山と高原地図21　丹沢」（1991年）では、２つのピークを朝日山と赤鞍ヶ岳（ワラビタタキ）と記載している。
　さらに、別冊山と渓谷「マイカー登山便利マップ［関東と周辺の山］」（2001年）では、ただ朝日山と赤鞍ヶ岳と記すのみである。
　どうやら、以前は、国土地理院地図が赤鞍ヶ岳と記すピークを今以上に朝日山としているようである。
　そこで、近所の図書館に出かけ、「日本山岳ルーツ大辞典」（竹書房）に当たってみた。
　それによると、赤鞍ヶ岳を1257mのピークとし、「赤は噴火によってこの山の山肌が赤褐色をしていること。鞍はこの山の山稜が特徴的な鞍部（鞍のようにくぼんでいる）を持っていること」としている。一方、朝日山（1299m）は、「山頂の南側に朝日岩があるので山名になった。つまり、この山の東側に高い山がなく朝の陽光をまともに受け、日の出を拝むことができるという山名」としている。
　いずれも典拠が示されている訳でないので、はっきりしないところが残るが、ワラビタタキの別名を持つ赤鞍ヶ岳は赤倉沢の東沢を詰めたピークである点や山頂付近のゆったりとした稜線がふたこぶのように見える点、また1299mピークの方は地元で親しまれた朝日岩と呼ばれる岩があるとされていることなどから考えると、登山関係書籍で朝日山、赤鞍ヶ岳の山名使用の使い分けが行われたのも、相当程度うなずける。

　結局のところ、今回の調べでは、なぜ国土地理院の地図が何を典拠に1,299mピークを赤鞍ヶ岳と記すのか、疑問が残らざるを得なかった。
　ただ、今回の山行を通じて朝日山の呼称は、気が付いた範囲内では、1299mピークの山名標識にかっこ書きで手書きされているものだけだった。時代の経過とともに、国土地理院の地図表記を尊重する傾向が強まった結果なのだろうか。少なくとも私が若い時の印象の中に、道志の山に朝日山という山があるという認識があったように感じられ、朝日山という山名が使われなくなることに、いささかの寂しさを感じることも事実である。
　なお、赤鞍ヶ岳（朝日山）から菜畑山に向かう途中の峠に「本坂峠（道志口峠）」と峠名の記された手製道標が樹木に取り付けられていた。まあ、これは近くに同名の峠はないから、まだ良しとし得るだろう。

　写真①「東京周辺の山」（1986年）の関係コース図
　写真②「山と高原地図21　丹沢」（1991年）の該当部分
　写真③「マイカー登山便利マップ［関東と周辺の山］」（2001年）の該当部分

（参考）
「ワラビタタキ、赤鞍ケ岳、菜畑山　～晩秋の道志の山、村役場から周回～」R3.11.16
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-3750487.html

2021-11-09 登山靴の思い出　いろいろ

2021-12-09 会津駒ケ岳と田代山・帝釈山の思

お気に入りした人

人

拍手で応援

拍手した人

拍手

訪問者数：371人