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富士山の美しさは、優美な山の姿にある。しかし、皮肉なことに、その美しさ故に登山は単調な歩行となり、森林限界を越えればダイナミックな展望の変化も期待できない。
その富士山が世界文化遺産に登録されたのは2013年の年であったが、世界遺産に推す声は条約を批准（1992年）した時分からあった。その後、世界文化遺産として必要となる「顕著な普遍的な価値」の評価基準に「文化的景観」の概念が加えられた頃から、地元の動きも活発になってきた。
そんな折、知り合いの静岡新聞の若い記者から誘われて、シンポジュウムに参加することになった。これも何かのめぐりあわせだ。百聞は一見に如かずと実際に夏の富士山に登ってみたのが、「遠くで眺める山」に登った直接のきっかけだった。
以下、その時の山行記録である。
25日の午後あわただしく登山靴や手頃なリュックサックを買い揃えて、22時20分川崎の自宅を出発する。調布から中央高速に乗る。夏休み最後の週末ということで、この時間帯もかなりの交通量だったが、快調にとばして26日の午前1時に富士スバルラインの5合目に着いた。すでに相当の車が入っていて駐車場はもとより、路肩に多くの車が止まっていた。仕方なく、Uターンして駐車場の1.5�劼阿蕕ぜ蠢阿力�肩に駐車する。
明日は新月、天の川までもがくっきりと惜しみなく輝く満天の星空の下、巨大な富士山の山体に一条の光の糸が山頂まで続いている。ご来光を求めて登る登山者のヘッドライトだ。夏の富士山特有の景観に心を躍らせる。
今回は御来光目当てでないので、車の中で少しばかり仮眠することにした。ところが、目を覚ますと朝の5時30分だった。何ということだろう、観光バスが続々と登ってくるではないか。これはまずいと、慌ててインスタントラーメンを食べ、5時55分に出発する。
八ヶ岳から奥秩父の山並みが美しい。空には高層雲が薄くかかっているが、天気は良さそうだ。6時10分に5合目、6時35分に6合目と、軽快な足取りで、森林限界に至る。眼前に山中湖と雄大な富士のすそ野が眺望されて、一層気分が高揚する。
思い思いのスタイルで山頂を目指す人々の中に、外国人の姿も少なくない。彼らの心をとらえてやまぬ富士山の存在とは、何なのだろうか。人生の一時期を日本で暮らした証としてなのか、富士登拝を通じて日本の文化を探ろうということなのだろうか。彼らの表情はあくまで明るく、屈託がない。
現代の日本においても、富士は一生のうちに一度は登る山といった感覚を持つ人間は少なくないだろう。しかし、近代アルピニズムの精神からすると、夏の風物詩の富士登拝の営みは、何か飽き足らない。私自身も46歳の年まで富士山には登ったことはなく、「富士は遠くから眺める山」という感情を大切にしてきた。七面山の宿坊敬心院に泊まってご来光の富士山を眺めたのはいつのことだっただろうか。どの山に登っても、天気の良い日には富士山の姿を探し、見つかったといっては幸福な気持ちになった。富士山は、日本人の心の奥深く刻み込まれた神聖な山なのである。
こんなことを考えながら登っていく。7時30分7合目通過。久しぶりの山登りだからなのか、寝不足からなのか、次第に足取りが重くなってきた。9時5分太子館、10時白雲荘と溶岩帯を進んでいく。ガスが次第に出てきて、遠くで雷鳴も聞こえてきた。焦ってもしょうがないと、一歩一歩上がっていく。最近では携帯酸素というのが出回っているらしく、私の周辺でもスパスパやっている人が結構いる。
10時55分、本八合目（3400m）トモエ館に着く。12時10分には9合目を通過して、12時50分3700mの「富士山頂上浅間大社奥宮」に登りついた。石室の小屋が50mほど続く、両側がお土産屋さんになっていて雰囲気が門前市のようだ。ビールが600円、ジュースが300円である。ごみは思ったほどではなかったが、トイレは悪臭芬々たるものだった。こればかりは、我慢するしかないないのだろうかと、登山者数の増加が自然に与える影響を思わざるを得ない。
奥宮に参拝して一息入れるが、「俗」の風が満ちているここでは、なんだか頂上にきた感じがしない。やはり、最高点の剣が峰まで行かないと登った気がしないというものだ。ザックを片隅に置いて、カメラ一つで歩き始める。逆時計回りに、いわゆる内院コースをたどる。
14時10分富士山測候所のある「日本最高峰富士山剣が峰 3775.6ｍ」に到達する。ここまで来ると、気分爽快だ。お鉢巡りをして14時40分に奥宮に戻ってきた。さすがに疲労感は隠せない。売店でジュース1本を買った。私の世代の山岳部経験者は、食べ物、飲み物は自分で担いでいくべきだという妙な美学が染みついているのだが、これぐらいは許してもらうことにした。
14時55分奥宮発。結構遅い時間になってしまった。15時25分に8合目の小屋を通過し、砂埃をあげながらひたすら下っていく。軽い高山病なのだろうか、掌が白いのが気になる。履き慣れない靴で、足も痛い。
黙々と下って、17時25分に6合目の穴小屋に着いた。18時にスバルラインの終点の5合目に到着。長い一日だった。
次の日、朝早く富士吉田の北口本宮浅間大社に行く。吉田の火祭りの宵宮が前日あったはずだが、静かなものだ。そこから、富士吉田市立歴史民俗博物館に行って、江戸時代に盛んだった富士講関係の資料を見る。
富士山は、明治初めの1872年まで女人禁制の山だった。2合目を超えたあたりにある「富士山遥拝所女人天上」まで行って、往時をしのび、帰路に就いた。
（平成7年8月26日（土）~27日（日）の山行記録メモを基に）
写真�”抻了灰譟璽澄璽鼻璽燹 �1999.11.1レーダー観測は廃止された。）
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富士山レーダードーム、懐かしいです。
富士山剣ヶ峰にレーダードームを建設する男たちの苦闘する様子を書いた「富士山頂(新田次朗著)」を読み、自分の目でぜひレーダードームを見たいと思っていました。
もしこの本を読まなかったら富士山には登ってなかったかも知れません。
37年前に初めて登り、測候所員に恐る恐る声をかけてみたら、意外にも見学は大歓迎との事でびっくり。
測候所の内部やレーダー画面、パラボラアンテナなどを見せてもらい、所員から色々な話を聞かせていただきました。
高山病で少々頭痛に悩まされましたが、楽しい登山だった事を覚えています。
もう今では体力も落ちてしまったので、頂上まで登れる自信はありませんが…(^_^;)
コメントありがとうございます。
昭和の東京オリンピックの開催された年（1964年）に富士山頂剣が峰に建設された富士山レーダードームは、当時世界一の高所に設置されたレーダー観測施設で、私などの世代には、誇らしさを感じさせるものでした。翌年の1965年には「富士山頂気象レーダー完成記念」の切手が発行されているのですが、少年期の切手収集コレクションにあるのは、ちょっとした自慢です。
そのドームも、衛星観測の発達と老朽化から、私が富士山に登った4年後の1999年に35年の役割を終えることになりました。
そのドームは解体されて、現在、2004年に開館した「富士吉田市立富士山レーダードーム館」に移設、復元されているそうです。是非、一度行ってみたいと思っているところです。
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