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2022年01月06日 14:05回想の山旅全体に公開

白根三山  〜就職の年の夏の思い出よ、甦れ〜

 就職して初めての夏、仕事にもようやく慣れてきて8月の下旬に夏休みが取れることとなった。さてどこの山に登ろうか。あれこれ考えたあげく、白根三山が候補に上がった。学生時代に甲斐駒ケ岳から早川尾根を歩いたときに見た北岳の美しく、力強い山姿が、強く印象に残っていたからである。
 夏休みは、3日は取れそうなので、広河原から北岳、間ノ岳、農鳥岳と縦走して奈良田に下りる計画を立てた。この季節であれば、もう夏山も終わりに近い。南アルプスらしい静かな山旅が楽しめるにちがいない。
 就職して山仲間も散り散りになったので、一人での2泊3日の小屋掛けである。大学時代はテント泊か冬季小屋利用だったから、山小屋利用の縦走は、大学1年の時に木曽駒ケ岳から南駒が岳まで単独で歩いて以来である。
 しかし、この時の山行記録のメモ類は、長年大切に保管してきた段ボール箱の中には見当たらなかった。今手元にあるのは、30数枚のスライドの写真と4枚の五万分の一の地図(韮崎、市野瀬、鰍沢、大河原)に記された赤線、辰野駅で手に入れた昭和49年発行の南アルプス北部編の大型パンフレットのみである。幸いスライドには、ところどころ日付と撮影場所が鉛筆で書き入れてあった。
 以下、就職という人生の節目の記念すべき山行の復元的な思い出話である。

 当時のことだ、まずは新宿から夜行列車で甲府に向かった。早朝6時のバス便で芦安を経由して広河原に入る。バス代は、550円、荷物が大きい場合は半額の追加料金が必要だった。
 私たちの世代は「広河原」というと、伊那側の戸台口から北沢峠を経て山梨側の広河原に通じる南アルプススーパー林道を連想してしまう。高校時代の1967年に春山登山で北沢峠に入った時には、既に建設が始まっていた。しかし、その後も環境保護の観点から建設を問題視する声は絶えなかった。時の環境庁長官が工事凍結を表明したのは、私が白根三山に登ったこの年だ。その後、スーパー林道は完成したのだが、南アルプスの山深いイメージが崩れていくさみしさを感じるのだろうか、この山域に足を踏み入れる機会はなく、その姿を一度見てみたいと思いながら今日に至っている。

 シシウドとヤナギランの群落を抜け、黙々と大樺沢の雪渓を登っていく。雪渓の最上部から眺めると、8月末なのに結構雪が残っている。チングルマやイワベンケイ、リンドウが咲く岩陰にネズミのような小動物が顔を見せている。かわいいものだ。八本歯のコルから稜線に出るが、もうその頃には夏山特有の谷から湧きあがるガスに包まれていた。
 ガスの切れ間から北岳が見える。ともかくは山頂を踏まなければとの思いが勝って、頂上に登ってみたが、当たり前のことだが展望は利かない。また、明日の朝に来ればいいだけのことだと言い聞かせて、そのまま北岳稜線小屋に向かった。
 北岳稜線小屋は、現在の北岳山荘の前身の小屋で、昭和38年(1963)にできた。それまでは、稜線から300mほど下った場所に昭和4年(1929)に建てられた北岳小屋が、もっぱら利用されていたらしい。しかしながら、広河原が登山ルートの拠点になる時代になって登山者の利便向上のため稜線上に鉄骨造りで建てられた。ただ、北岳小屋と違って、水はドラム缶に天水をためたり、水場から水を汲んで荷上げをしたりしていたという。この頃は、南アルプスの小屋は統一料金で、翌年の5月発行のパンフの記載では、1泊2食(寝具付き)が2000円、素泊まり900円、素泊まり寝具付きが1200円である。
 夕方、小屋前から富士山が見えた。八本歯の上空の雲も夕日に照らされて、美しい。落日が、明日の好天を約束してくれているようでうれしかった。

 次の日は、小屋近くで日の出を待つ。池山吊尾根の空が朝焼けに染まり、待望の朝日が昇ってきた。富士山も朝日に輝く間ノ岳、農鳥岳もいいが、朝の光が山襞に影を作り、山容の大きさを浮かび上がらせた仙丈岳のどっしりとした姿が印象的だった。仙丈岳は、小仙丈までしか登っていない、宿題を残したままの山なので、その感が一層強かった。
 朝日を差し込む北岳山頂は、甲斐駒ヶ岳、鳳凰三山、八ヶ岳と素晴らしい眺めで、ようやく日本第2の高峰に登った実感がわいた。
 間ノ岳、農鳥岳への稜線歩きは、想像以上に雄大で気持ちのいいものだった。間ノ岳の山頂までくると、塩見岳の独特の山容が間近に見えて、大学3年11月の単独登山の思い出が蘇ってくる。三伏小屋に閉じ込められた一夜。30センチの新雪が木々を飾り、塩見岳は雪に包まれ輝いていた・・・。
 農鳥岳に登り、大門沢下降点から急ぎ足で下っていく。この日は、大門沢小屋泊まりだ。次の日は、奈良田まで歩くだけ。奈良田から身延までは、バスが一日8便あるから、気が楽なものだ。
      昭和48年(1973年)8月27日(月)〜8月29日(水)の山行から
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コメント

北岳稜線小屋懐かしいです。
私が初めて歩いたのは1977年、同じコースです。
稜線小屋は真ん中に通路が有り両側が居住(寝る)スペース、入口が北岳側で入口の右側にドラム缶が沢山有りました。

お陰さまで懐かしい想い出を楽しめました。

今後も安全で楽しい山を永く続けられる事を願っています。😊
2022/1/6 15:45
henke1956さん
コメントありがとうございます。

残っているスライドは、日の入りや日の出の写真ばかり。きっと感動の瞬間だったのでしょうね。
北岳稜線小屋の写真がないのが残念です。わずかに遠景に写っているのですが、赤屋根ではなかったようですね。

これまで、昭和の山旅シリーズとして、40数座思い出を綴ってきたのですが、白根三山は資料がなくて後回しにされてきたものです。
ただ、人生の節目の山行だったので、拙文にまとめてみました。
henke1956さんに、若き日の山旅をなつかしく思い出していただいて、幸いでした。
2022/1/6 17:57
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