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強く心に残る雪山賛歌のフレーズは、第5番の「吹雪の日には本当に辛い ピッケル握る手が凍えるよ」であった。ところが、雪山賛歌の本家本元の京都大学学士山岳会（ＡＡＣＫ）のHPに紹介されている第三高等学校歌集の雪山賛歌は、人口に膾炙している歌詞と若干違っていて、第1番が「吹雪のする日はほんとに辛い アイゼンつけるに手がこごえるよ 雪よ岩よ我等が宿り 俺達あ町には住めないからに」とあった。
冬山での私の実感としては、アイゼンの方がもっともらしいかと思えるが、いずれにしても雪山といえば、ピッケルとアイゼンは最も象徴的な山道具であることに間違いない。
今回は、そのピッケルとアイゼンについて、少しばかり思い出話を書いてみよう。
私の所属した高校山岳部には、共同装備としてピッケルもアイゼンも十分あったので、雪山山行はそれを拝借すれば事足りた。確か、初めてピッケルに触ったのは夏山合宿の後立山連峰の白馬鑓ヶ岳と天狗の頭の中間点にある天狗山荘のテントサイト近くの雪渓だった。この日は合宿4日目で、皆疲れが出ていたので、午前中で行動を切り上げて午後に雪上訓練と称して雪渓の斜度が比較的大きい斜面でピッケル制動の練習をした。具体的には、谷側に転倒し仰向けになった体を素早く反転させピッケルに体重をかけて停止するというものである。ところが、スピードをつけすぎたのか、硬い雪面にはね返されてピッケルのシャフトであごをしたたか強打し、ひどい擦り傷を負うという痛い目にあったことが忘れられない。
大学に入ると、雪山に行きたければ、個人装備として自分でそろえるしかない。高校時代に使ってピッケル、アイゼンは、札幌の門田の製品だったので、選択は一択だった。
ピッケルは、「SAPPORO BERGHEIL K.I.W.」の刻印のある「NUPURI」の穴あき。1969年に買ったので、「NUPURI」シリーズの最初の頃のものだと思う。すでに炭素鋼ではなくてクロム・モリブデン鋼が使われていた。（注：今回インターネットで調べてみると、山岳雑誌｢岳人｣1972年(昭和47年)6月号に掲載されている門田の宣伝広告では価格が9500円であったことが分かった。）
当時のピッケルのシャフトは木製である。購入当初数か月、シャフトを包帯で念入りにぐるぐると巻き、アマニ油をシャフトの芯までしみこませようと時間をかけて作業した記憶がある。磨き上げると、丈夫になるのはもちろん、美しいあめ色に仕上げることができる。ブレードは、もちろん鍛造手作り、きっと3代目の門田正の手によるものに違いない。
山のヒヤリハットとして、11月下旬の北ア真砂岳付近の稜線で足を滑らせて滑落しかけ、かろうじて岩にしがみつき事なきを得たことがあった。よっぽど気が緩んでいたのか、情けないことにピッケルは吹っ飛んだが、バンドを手首に巻きつけていたお陰でピッケルを谷底深く流すことなくすんだ。苦い思い出である。
ピッケルを最期に使ったのは、もう20年程前の残雪の石鎚山だから、もはや装飾用のビンテージ物といえる。それでも、愛着のある一品、いざとなれば使えると大切に保管している。
アイゼンも同じころに買った。材料の安価な炭素鋼を用いたものと、材料は高いが低温環境の下で強さと軽量化に勝る特殊鋼（ニッケル・クロム・モリブテン鋼）のものとがあった。購入したのは、遠い昔のことで記憶が曖昧だが特殊鋼の方だったようだ。10本爪のものにしようか少しばかり迷ったが、結局8本爪のものにした。当時は、前爪のあるものは初心者にはかえって危ないと言われていたからだ。今なお手元にあるアイゼンをよく見てみると、爪側に「S.KADOTA」、「４」と打刻してある。
鋳造製法による手作りだから、重量は片足372ｇと、結構の重さであるが、雪の稜線でアイゼンをつけた時の安心感はそれに十分勝るものであった。もちろん長さ調整はできない。「４」と打刻してあったのは、アイゼンの大きさを示しているのだろう。
アイゼンベルトは、ナイロン製の一本締めといわれるタイプのもので、長さ180cm、幅1cm、重さ43gある。正しい知識かどうか怪しいが、低温でもこわばらないようにと、この平紐にもアマニ油を結構しみこませたように思う。ベルトを6個のわっかに通してアイゼンを登山靴に装着するのだが、しっかりと締めるには要領も必要で、結構時間がかかった。その上、オーバーミトンをつけたままでは装着しにくく、まさに「アイゼンつけるに手がこごえるよ」なのだった。
これらの思い出も、進化・改良の著しい山道具のこと、すべてが昭和の懐かしい昔話である。
写真�’鯒漏抻劃此�1971年3月）
写真�▲團奪吋觧ニ斂臈弔痢�NUPURI」のブレード部分
写真��札幌門田の８本爪のアイゼン
※YUKIOSAN1952さんの指摘を受け、一部文章を修正した。
コレクションのためヤフオクで集めた門田アイゼン特殊鋼3.5に固定ベルトをつけたので片方390gです。同じく門田アイゼン炭素鋼3は片方単体で489gでかなり重たく感じます。
小さな山道具館というサイトに写真が載っています。
http://www.nirayama.com/~suwabe/index
数字の刻印はサイズです。どのように違うのか知りません。
「3」だとキャラバンシューズｃ1−02ｓの26センチがピッタリはまります。
固定ベルトをつけ門田アイゼンを使ってみましたが、私にはしっくりしません。
45年前ゴールデンウィーク、涸沢テント泊で奥穂高岳のために購入した鍛造でなく門田より安かった切り抜き製法の10本タニアイゼンの方が私にはしっくりするので、今だに冬の金剛山で固定ベルト10本タニアイゼンを使っています。
ピッケルはシモンスーパーPBをたまに持ち出し使っています。
GWの奥穂高岳は友人と、翌年単独での2回。
単独で行ったとき山頂から穂高小屋の途中のニセ尾根とよばれるところの下りが恐くて思案。
某大学の山岳部について下りれば恐くないとついて行ったものの彼らの足が早く、1人でなんとか30mくらいの垂直に近い雪壁をビビリながら下りたのはここだけの秘密です。
タニアイゼンの梶田製作所はモンベルに吸収され、門田は廃業されています。
コメントありがとうございます。
アイゼンを買う時、あれこれ迷った記憶がありますが、まさか昭和の貧乏学生が値段の高い特殊鋼の方を買ったとは、半世紀前のこととて完全に勘違いしていました。
やはり、少しでも足さばきを良くしたかったのだなあと、当時の選択の確かさを再確認することができて嬉しく思いました。
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