見立ては、和歌や俳句の表現技法として、また、日本庭園の作庭法としてお馴染みのものだ。例えば、「あさみどり糸よりかけて白露を玉にもぬける春の柳か」という歌は、芽吹きの柳のか細い枝を糸に、白露を玉に見立てているが、ちょっと技巧すぎる感がしないでもない。
神様、仏様の居ます山も同様で、地獄もあれば、浄土もある。立山曼陀羅などは、その典型である。
笹原を草原に見立て、満開のシロヤシオ(白八汐)を白い羊に見立てる。ドウダンツツジ(灯台躑躅)の鮮やかな紅葉を赤い羊に見立てる。なるほど、こういう山の景観もあるのかと思った。こうなると、実際見てみたいと思うのが、人情だ。
鈴鹿の竜ヶ岳は、白い羊が現れる代表的な山だ。この山に登ったのは、2023年の5月中旬、確か4年ぶりに花つきがいいとの便りを聞いて、勇んででかけた。シロヤシオの花は、大木に一面に咲くとはいえ、花は葉の影に咲くうえ、白いので遠くからは目立たないから、白い羊とはいかない年も多に違いない。
宇賀溪キャンプ場の駐車場からヤマツツジが彩を添える遠足尾根を登っていくと、いよいよシロヤシオロードの始まりである。シロヤシオのトンネルを下から見上げると、一面に咲く白い花の先に若葉と抜けるような青空が透けて見えて、一層白さを際立たせていた。鈴鹿主稜線に近づくと展望が開け、なだらかな山肌に笹原が広がり、白い羊の放牧場の出現である。シロヤシオが織りなす白い帯の向こうに鈴鹿最高峰の御池岳が見える。お昼は山頂から少し下って風をよけ、大放牧場を眺めながら、ゆったりとおにぎりを頬張った。
笹原にシロヤシオの花咲きにほへり白き羊の放たれしごと
若葉にも空にも染まず咲きにほふシロヤシオの白こころも澄みけり
さて、続いて赤い羊の話である。こちらは、南信州の大川入山で探してみた。2021年の10月初旬のことである。治部坂高原からあまり展望のきかない尾根を登っていくと、突然ドウダンツツジが点在する笹原の斜面が現れた。これが噂の赤い羊か。時期的にはあと10日ほどたつといいだろうか。赤い羊に出会うのも、一期一会、運も必要というものである。それにしても気持ちがいい景観である。
行く雲の秋を描ける笹原にドウダンツツジの紅葉(もみぢば)照り映ゆ
(参考)
「竜ヶ岳 〜シロヤシオ 白い羊を追って〜 」2023年05月16日
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-5500154.html
「大川入山 〜赤い羊を追って周回〜 2021年10月04日(月) [日帰り]」
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-3597932.html
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する