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昆虫や鳥や蝶の身になって山や高原に咲く花を探し求めるなんて芸当は、したことがない。もっとも、何事にも例外は、あるものだ。ヒヨドリバナやヨツバヒヨドリの名を知り、その花を覚えたのは、ある蝶に出会いたいためだった。
その蝶は、アサキマダラ(浅葱斑)。人をひきつけてやまないのは、淡い浅葱色(薄い水色に近い色)のまだら模様の美しい羽を持ち、ひらひらと蜜を求めて舞う姿が魅惑的なこともさることながら、南の海へと渡りをする蝶として大いにロマンを掻き立てられるためである。
8月の霧ヶ峰なら、アサキマダラの好きなヒヨドリバナやヨツバヒヨドリの花が咲いているに違いない。善は急げ。ある八月の夏の日、車山の肩に車を停めて、霧ヶ峰を散策することにした。
車山高原のニッコウキスゲの季節は過ぎたらしく、ハイカーもそれほど多くはない。まずは、沢渡から八島湿原を目指そうと、高原を歩いていくと、一面ヒヨドリバナらしき花が咲いている。よく見ると、葉が輪生しているので、ヨツバヒヨドリである。
花自体は、白色あるいはやや紫を帯びた頭状花と呼ばれるキク科の植物らしいタイプのもので、決して華やかとは言えないが、草丈がやや高いので、比較的よく目立つ。
四囲を注意深く眺めながら歩く。白い花が点々と続く草むらにひらりと動くものを目の片隅に感じた。目を凝らすと、アサキマダラが一頭羽を休めるでもなくひらりひらりと舞っている。ロープを越えて草原に足を踏み入れる訳にもいかず、もどかしい。
谷間へと高度を下げていくと、四囲はだんだん草原らしさを失って、花も少なくなっていく。ついに、足を止めて登山道を行きつ戻りつしていると、思わぬ方向からアサキマダラが飛んできて花に舞い降りた。急いでカメラを構えて、何とか写真に収める。
アサキマダラ舞ひ来たれかしと風なぎしヨツバヒヨドリの咲ける原ゆく
山河越え海わたる蝶舞ひきたりヒヨドリバナの蜜をすひをり
八島湿原は、シモツケソウやヤナギラン、クルマユリ、アサマフウロ、マツムシソウ、オミナエシ、イブキトラノオなど夏の盛りの花々が彩を添えるばかりで、残念ながら、とんとアサキマダラの匂いは感じない。御射山神社の社から沢渡に戻り、笹の下草が生い茂る樹林帯を抜けて霧ヶ峰の車山分岐を目指す。
分岐からしばらく山道をたどると、案の定ヨツバヒヨドリの花咲く高原に出た。時折ひらりひらりと花を渡るアサキマダラの姿は見えれども、なかなか近くには舞い降りてくれない。ようやく、目の前にとまったので、踏み跡に一二歩足を踏み入れてカメラを構える。
羽ゆらすアサキマダラに息あわせ蜜吸ふ姿にピント合わせり
翌年も、同じ日に入笠山に登ったので、アサキマダラに会えるに違いないと、入笠湿原の林縁部を丁寧に歩いてみた。ヨツバヒヨドリの花が咲く林で、しばらく様子をうかがっていると、天からひらりとアサキマダラが舞い降りてきて、蜜を吸い始めた。近づいても蜜を吸うためか花の上の位置を変えることはあっても、止まった花から微動だにしない。人間の存在など関心ないという雰囲気が、またたまらないく良い。
(参考)
「霧ヶ峰 〜アサギマダラと咲き乱れる草花を愛でに〜」2022年8月6日(土)
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-4556821.html
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