風に揺れるマツムシソウの花あれこれ

2024年07月13日 15:21山と草花と歌全体に公開

　風に揺れるマツムシソウの花は、可憐で、実にエレガントである。淡い青紫色の筒状花とそれを取り巻くフリルのような舌状花は、西洋印象派の画家クロード・モネの「パラソルを差す女」の帽子を連想させる。
　そのマツムシソウに初めて出会ったのは、四国の法皇山脈の東赤石岳の山頂近くの岩稜であった。東赤石岳は、地質的には珍しい橄欖岩体の山で、標高は1706ｍだがオトメシャジンなど貴重な花に巡り合える。
　20年ほど前、8月下旬に瀬戸内側の川又から登った。主稜線上の赤石越えに着く頃には、ガスが出てきて期待した展望は得られなかったが、赤茶けた岩陰に咲くシラヒゲソウやタカネマツムシソウの群落に心癒された。
　　　岩稜は乳白色につつまれて松虫草の色さやかなり
　タカネマツムシソウは、マツムシソウの高山型変種で、草丈は低く葉もコンパクトで、花はやや濃い青紫色をしている。通常3000級の北アルプスで見られる花が四国の山で見られるのは、お得感が感じられて気分がいい。
　そういえば、飛騨の大白川から白山へ平瀬道をたどった時に出会った、マツムシソウも印象深い。この花も、タカネマツムシソウだったのだろうか。
　　　ブナの森の谷底深く湖水見ゆマツムシソウの花を見やれば
　マツムシソウの花といえば、何といっても霧ヶ峰が思い出される。草原や湿原に咲く可憐な花は、夏の日の一時を涼やかに過ごすにはもってこい、家族の高原散策に興趣を添える花として欠かせない。
　　　マツムシソウのゆらりと咲ける湿原の木道の道母娘（ははこ）語らふ
　最後に、愛知と静岡の県境の標高313mの雨生山（うぶさん）で出会ったマツムシソウの話である。
　雨生山は、蛇紋岩質の山で珍しい花が多く、三河では気軽に登れる人気の山である。私が名古屋から横浜に移動する際にちょっと寄り道をして登ったのも、ムラサキセンブリの花見たさであった。
　明るい日差しのさす砂礫地にセンブリの花とともにマツムシソウが咲いている。11月の初旬、しかも300m足らずの低山で、出会うのは何とも不思議な感じがした。その花はマツムシソウにしては華やかなフリルの舌状花が少なく、何だか貧弱で、おまけに舌状花をもたない筒状花だけの白い花まであるではないか。
　後で調べてみると、これらの花はマツムシソウの変種で、東海地方の低地・丘陵地のみに分布する、ミカワマツムシソウだということが分かった。
　こうして見てくると、様々な環境下でたくましく命を紡ぎ、可憐な花を咲かせるマツムシソウの豊かな世界をあらためて感じさせられる。

写真①東赤石のタカネマツムシソウ
写真②霧ヶ峰のマツムシソウ
写真③雨生山のミカワマツムシソウ

（参考）
「岩稜の東赤石山　～岩石の知識あらば、なお楽しからずやの巻～」ヤマレコ日記
 https://www.yamareco.com/modules/diary/356744-detail-228072

「夏も終わりの八島湿原　家族と散策」2022年08月27日
 https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-4626047.html

「雨生山・金山　～世界の桜の園からセンブリの花咲く山へ～」2023年11月08日
 https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-6159424.html

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