最悪の選択・・？ だったか！
9月5日()
5：23発の始発に乗るべく廿日市駅に着いたところ『大雨の影響で12分遅れて現在玖波〜大野浦間を進行中』のアナウンス。遅れはさらに拡大して廿日市駅を28分遅れの5：51に出発したものの次の五日市駅で6:04から停車。『三原〜徳山間で運転見合せ』との放送。
五日市駅のアナウンスで乗客がざわざわし始め何人かの客が降りたが、6：19から『横川駅まで≫と断って徐行で運転再開となり、さらに進んで6：59広島に着くと大半の乗客がここで降りた。
本線はどうなるか分からないが始発の電車は呉線廻りなのでこのまま乗っていれば確実に糸崎までは行けると考えたのが結果的に最悪の選択で、7：18に向洋駅から呉線を走り始めたことに安心して心地よい揺れにうとうと眠り、目覚めると2時間あまり走っていて9：57に広駅に着いたが、ここから運転見合わせとなって停車した。この先で線路に竹が倒れかかって復旧作業中とのこと。
10：29から動きはじめたが30/kmの徐行運転。今日中に大町に帰るリミットを調べると岡山駅12：12で、すでにそれは絶望的となるが相生駅13：48に間に合えば可。そのためには三原発13：03の新幹線に乗ることが条件となる。
乗務員にそれを聴くと、通常でも三原まで1時間かかるところを30km/hで走っているので2時間以上かかるだろうとのことでそれも無理だと分かる。
結局三原駅には13：34着で待っていた岡山行きに飛び乗って15：09岡山着となるも、岡山〜相生間が川の増水で不通。吉永までの折り返し運転の列車で東岡山へ。40分待って15：55発超満員の赤穂行きに乗る。
何とか中津川までは帰りたいのだが赤穂から先は不透明。列車のやりくりのために16：43日生〜赤穂間運転中止のアナウンスが流れて16：48に日生で下車。ホームには足を奪われた客が溢れたが、後続の赤穂行きが来て17：01発。
赤穂発17：49に間に合い、かつその後が正常に動けば中津川まで可能となる望みを残して17：25赤穂着。うまく行けば中津川まで行けるかも知れないが相生から姫路までは代行バスとなりその先は不透明と・・。
18：08相生着。廿日市から相生まで何と12時間余りもかかったことになる。更に驚いたのは、広島駅で選択を誤って呉線に入ったとばかり思っていたのに本選廻りでやって来た人達がそこにいたことで、どっちを選んでも同じだったのだ。
相生に着いたはいいがそこから先の本線が川の増水で不通となっており、沢山の乗客が足止めされていた。代行バスは誤報で米原方面には新幹線以外になく、その新幹線も超満員である。
相生駅で夜を明かすことになるのか・・，と半ば諦めかけたところに『増水した川の水位が規定値まで下がり、米原方面運転再開』のアナウンス(18：44)が流れて、天佑とばかり乗り込んだ姫路行きが19：02に発車発車。姫路からどこまで行けるかまたまた不透明ながら取り敢えず動いたことに安堵する。
姫路に着くと米原行きがあると分かり、ここでやっと弁当を買ったり立ち食いうどんを食べる時間もあり、19：40頃発車。増水した川を徐行運転で越えたために生じた4分の遅れはあったもののほぼ定刻の21：56に米原着。すぐに大垣行きに乗り換えて21：58発車。
大垣着22：30，同36発の豊橋行きで名古屋着23：16，同20発中津川行きで1：15着となる。次善ではあるが中津川まで辿り着くことが出来たのは超ラッキーと言える。
広島や三原から新幹線で追いかけなかったのはその先の在来線が平常通りに動いているかと言う不安があったのでまず行けるか所まで行き、新幹線を使うなら効率よく使うべきだと思ったから。
結果的に新幹線使っても相生の手前と先の在来線が不通で、呉線を廻らなかった人達とも相生で一緒になったのだからこの勘は当たっており、どうあがいても姫路以遠，大阪か名古屋まで新幹線を使わない限り今日中に帰るのは不可能だった。
結果的に1:15と深夜にはなったが中津川には着くことが出来た。これが経験値と言うものだ。
今夜は待合室を開放してもらい、4人の男性達と過ごすこととなる。待合室では豪快な鼾合戦！
中津川から大町まで、出来れば18切符がもう1回分欲しいところだが、在来線の普通運賃は2520円で18切符の1回分2300円と大差なく、最少限の出費ですんだ。
状況を楽しむのが一人旅の醍醐味！
結論的には昨日ほどスリリングな旅は滅多に経験できないもので大満足している。先行きが全く分からず、どこまで行けるかも分からないまま手探りで進んで、最終的には中津川まで着き、余分な出費も最少限に押さえることが出来たのだから最高に面白かった。
子どもの頃、台風や大雨の時に親が外に出るなと叱るのも構わず外に出て、ワクワクしながら山や木や川の様子を見に行ったものだった。
あれは日々平安な暮らしを願う一方で、その平凡さを覆す非日常的な事象に対する期待や憧れであり、それこそが冒険心や旅の原点ではないかと思う。けれどそれは年と共に失われて行くものでもある。
多くの人々は平安・安寧を求め、その日常を大きくは損ねない程度に冒険心をくすぐる旅をする。旅そのものが目的では決してなく、強いて言えば大枚をはたくことが最大の冒険と言ってもいいくらい惜しまず金をつぎ込むと言う点では冒険と言えなくもない。
けれどつぎ込んだ金額に反してそんな旅には旅としての値打ちはない。
この間に、友人から『広島か福山辺りで新幹線に乗り換えて岡山まで、あるいは大阪か名古屋まで』行くようにとのアドバイスをもらったが、そうする気にはならなかった。姫路以遠まで乗らなかったら新幹線を使っても無駄だったと後で分かった。
不測の出来事に遭遇しながら 先行きの分からない中を手探りで進んで行くことにこそ、旅そのものの面白さがあると思う。
思いがけずそう言う旅ができて楽しかった。
『播州平野』を辿る〜もう一つの旅
広島から大町に帰る各駅停車の旅にはもう一つの楽しみがあった。それは宮本百合子の『播州平野』を読みながら、その足跡を辿って山陽路を追走すると言うものだった。
『播州平野』の中で、主人公ひろ子は、網走刑務所から拘束を解かれて東京に帰って来る夫重吉を迎えるべく、重吉の実家のある山口県から汽車で東京に向かう。その途上，岡山〜姫路間で洪水に合い、辛酸をなめながら明石まで辿り着いている。
『播州平野』を読みながら、のんびりとその足跡に思いを馳せたいと思っていたのが、自分自身がそれに近い状況に追い込まれてそれどころではなくなってしまい、友人に借りたその本は1ページも開かれることなく手元にある。
一段落した今、改めてそのくだりを読んで見ると、ひろ子もまた呉線廻りの列車に乗り、沼田川の鉄橋が落ちて不通となったために須波と言う駅で下されて、雨と浸水でぬかるんだ道を道連れとなった目の不自由な人と三原駅まで、歩き、その人の口利きで三原に一夜の宿を得ていたのだった。それが10月8日のこと。
翌日，洪水はさらに深刻になり、岡山を越えると広大な浸水地帯となって汽車は水没したレールの上を最徐行で走ると言う、今では考えられないような無謀とも言える運行に委ねて姫路まで辿り着く。
姫路で2泊の逗留を余儀なくされた11日，ようやくひろ子達姫路を発つ。加古川までは汽車に乗れたものの全員がそこで下され、地元のトラックに乗って少しづつ前進する。1台のトラックに30人が立ったまま乗り、代金は2円。そのトラックに乗れた区間はわずかで、じきに橋が落ちた川の手前で下され、俄かごしらえの板敷の橋を渡って次のトラックに乗る。
そのトラックもすぐに乗換えとなり、2里の道を荷車引きの馬車に1個10円で荷物を乗せてもらって歩き、やっとの思いで次のトラックを待つ長い列の最後尾に辿り着くが、その列はいくら待っても縮まらず、痺れを切らした連れが荷車引きと交渉して馬車で明石まで行くこととなる。
こうして『姫路を出てから一日中，トラックを攀じ登り、這い下り、荷車にすがって急いで歩いて』来たひろ子は、思いもかけず『透き通るような秋の西日に照らされてのびかにひろがっている播州平野の国道』を『馬車に揺られて、子どものように疲れた両脚をぶら下げて、かたりことりと東へ向かって行く』のである。
主人公の体験には程遠いとは言え、大雨による不接・不連続と言う得難い経験をしながら、読むのが後になってしまったのは返す返すも残念でならないが、読もうと思いながら？十年を過ごしてしまった書のページをめくったことだけでも自分にとっては大きな収穫であるし、山陽路を走る旅は今後も続くのだから、その楽しみが無くなった訳ではない。
後半を先に読んでしまった『播州平野』であるが、とっつきにくそうだと言う先入の印象を覆す内容で、もっと早く読むべきだったと思った。
播州平野の描写が、馬車に荷物だけを乗せて東へ向かって歩く2人の快活な朝鮮人の若者達と共に象徴的である。
歓声を上げながら海峡を目指してフルスピードで西に向かう朝鮮人兵士達ヲ見送る眼は、この戦争の終結が自分を含む日本人のみならず、アジアの人民を抑圧から解放するものであることを思わせて温かく、かつ彼らをして未だ歓声を上げることも出来ず泥道と格闘している自分達日本人の声を代弁させてもいるように思えた。
この次に播州平野・山陽路を走る時には、これまでとは違った感慨を持ってその景観を見ることになるに違いない。
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