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Yamareco

記録ID: 1840337
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
剱・立山

剱岳から薬師岳縦走(備忘録)

1979年07月28日(土) 〜 1979年08月02日(木)
 - 拍手
Swan_song その他4人
GPS
128:00
距離
46.8km
登り
5,042m
下り
5,169m

コースタイム

(おおよそのコースタイムの記憶)
1日目:黒部ダム 7:00頃 ー 内蔵助平手前 10:00頃(泊)
2日目:内蔵助平手前 10:00頃 ー 真砂沢ロッジ 15:00頃(泊)
3日目:真砂沢ロッジ 6:00頃 ー 剱沢キャンプ指定地 ー 剱岳 ー 剱沢キャンプ指定地 15:30頃(泊)
4日目:剱沢キャンプ指定地 4:30頃 ー 立山 ー 五色ヶ原 14:00頃(泊)
5日目:五色ヶ原 5:30頃 ー スゴ乗越上部キャンプ指定地 12:00頃(泊)
6日目:スゴ乗越上部キャンプ指定地 4:30頃 ー 薬師岳 ー 太郎平 ー 折立 13:00頃
天候 1日目:雨
2日目:雨のちくもり
3日目:晴れ
4日目:晴れ
5日目:晴れ
6日目:霧のち晴れ
アクセス
利用交通機関:
電車 バス
【行き】
新宿駅22:30頃発の夜行急行「アルプス13号」に乗って信濃大町駅下車。バスとトロリーバスを乗り継いで黒部ダム到着
【帰り】
折立からバスと電車を乗り継いで富山駅へ
コース状況/
危険箇所等
(個人的な危険個所・注意箇所の印象)
・内蔵助平への登り
・剱沢雪渓
・別山尾根
・ザラ峠への下り
・北薬師岳から薬師岳の岩陵
予約できる山小屋

感想

とても強い印象を残した、高校1年の時のワンゲル部夏合宿。

九死に一生を得る体験をしたり、先輩方に多大な迷惑をかけたり、重い荷物に悲鳴をあげたり、靴擦れが何箇所もでき歩くたびに痛い思いをした体験等、当時15歳だった私にとってこの合宿は、苦しい試練の連続であった。

一方この合宿は、私が40年にわたり山好きになった原点の合宿である。
現在、手元には何も資料はないが、強烈な体験だったので、今でもその時の記憶が鮮やかに蘇ってくる。
今でもそれを思い出すと辛くなる体験であったが、ここにその時の記憶を忠実に再現してみたい。




夏合宿出発当日は、12時に新宿駅に集合。夜行急行の座席を確保するためである。
家を出て歩き出すと、あまりのキスリングの重さに、「一週間後、無事に家に戻ることができるんだろうか?」と、暗澹たる気持ちになったものだ。

夜行急行の待機場所として指定された跨線橋では、夕方になり雷鳴がとどろき、
これから始まる波乱万丈の合宿生活を暗示しているように思えた。

夜行急行は、夏山に向かう登山客で超満員になり、
途中駅で下車する登山客は、窓から乗り降りするほどであった。


【1日目:黒部ダムから内蔵助平手前】

まったく眠れないまま黒部ダムに到着。
キスリングを担ぐと、目も眩むほどの重さが肩にのしかかった。
梅雨明け前の空は遠雷が聴こえ、同時に雨が降って来た。

雨の中、ふらついた足取りで、黒部ダム横の登山道を下りていく。
そんな状態でも、内蔵助沢出合までは必死に先輩たちについて行った。

内蔵助沢右岸に沿う細く急な登山道になると、
完全にバテはじめ、先輩たちの歩みから遅れるようになった。
必死に追いつこうとするが、息が切れ、足がおぼつかない。

意識がもうろうとした状態でしばらく歩くと、
雨に濡れた岩を通過する所があった。
ちょっと嫌な感じがしたが、不用心におぼついた足をそこに乗せ、
アッと思った瞬間、身体が空中に浮き、
連日の雨で濁流と化している内蔵助沢へ落ちて行った。
落ちていく間、頭の中は真っ白になり、
「ああ、このまま死んでしまうんだろうな」と、他人事のように感じた。

内蔵助沢の急流に届く寸前で、幸運にも木の枝に引っかかり、身体が止まった。
1年上の先輩が、危険を顧みず、急斜面を下りて私を助けに来てくれた。

そんなアクシデントがあって、今日の登山は中止。
滑落地点の近くの小さな空地を見つけ、テントを設営した。

私は、テント奥の一番快適な場所に寝袋を敷かせてもらった。
それにもかかわらず、今日の不甲斐なさでみんなに迷惑をかけたことが、
悔しく、恥ずかしく、申し訳なく、居心地は最悪だった。
その夜も眠れることができなかった。


【2日目:内蔵助平手前から真砂沢ロッジ】

昨日の雨はまだ降り続いていたが、時間が経つにつれ雨は弱まって来た。
雨が小止みになった頃を見計らって出発。
私は荷を軽くしてもらった。

出発するとすぐに雨具の内部は汗で蒸れ、雨も相まって身体全体がビショビショに濡れた。
そんなこともあって、今日も私は最悪のコンディション。
やはり、先輩たちから遅れるようになった。

内蔵助平は草深い平坦地であった。
いつしか雨は止み、周りは霧で白一色となった。

登っても登ってもハシゴ谷乗越はなかなか到着しない。
ハシゴ谷乗越に近づいてくると、冷たい風が吹いてきて、全身びしょ濡れの私は震えあがった。

真砂沢は、剱岳へのバリエーションルートの前線基地。
カラフルな沢山のテントでいっぱいであった。
夕方、我々のテントの外では、某大学の派手なパフォーマンスが繰り広げられていた。
私はその喧騒を聞きながら、いつしか眠りに陥っていた。


【3日目:真砂沢ヒュッテから剱沢キャンプ場(剱岳往復)】

3日目は2日間の憂さを晴らすような上天気。
鮮やかな青空の下では、剱沢大雪渓が凄い迫力で私たちに迫っている。
その光景に私は息を飲み、大自然の偉大さを知った。

今日はすこぶる体調が良好。
剱沢雪渓は思いのほか歩きやすかった。
一歩一歩、足裏から伝わる雪の感触を楽しむように登って行った。
今日は先輩たちから遅れることはない。息もはずまない。
剱沢の冷たい空気が、火照って来る身体には心地よい。
気分が違うと、こんなにも調子が違うものか。

快調なペースで、剱沢キャンプ指定地に到着。
現金なもので、大雪渓はまだ登り足りないくらいの感覚であった。

ここで、テントを張って自分たちの場所を確保して、
空身で剱岳を往復してくることになる。

剱岳の岩稜、緊張するどころかアスレチックのように楽しく、
快調に歩を進めることができた。
あっという間に剱岳山頂。
重い荷物から解放されることが、なんと快適なことなのか。

キャンプ場に戻ってから、OBからは、
「君は重い荷物を分担して山を歩く部活動(団体行動)には向いていないな。
それより、軽い荷物で山を楽しむ少人数の活動の方が向いているな」
と感想を述べられた。
逆に言うと、そんなことを言われるほど、私は先輩方に迷惑をかけていたのである。

はしゃぎ過ぎた昼間から一転、夜は意気消沈して眠りについた。


【4日目:剱沢キャンプ場から五色ヶ原】

この日は3時前起床、4時半過ぎ出発。
薄暗い中、剱御前の稜線に向かって登って行く。
今日も良い天気だ。

明け行く北アルプスの静かで厳かな空気感。
これを身体の感覚として受け取った。
この時はじめて「夏合宿に参加して良かったな」と感じた。

先頭を歩くOBが、私にとっては程よいペースを作ってくれる。
おかげで私は快適に歩を進めることができた。

立山山頂は混雑していた。
重荷を背負ったときの下り方のコツがつかめない私は、
混雑する一ノ越への急坂では、ちょっとした落石をおこしてしまい、
OBから厳しく叱責された。

一の越から五色ヶ原にかけては炎天下の下、
多くのザレ気味の登り下りがありばててきた。
同時に、足の裏には靴擦れが出来はじめ、痛みにこらえて歩いていた。

ザラ峠を介して天上の楽園と思わせる五色ヶ原が広がっている。
あそこに辿り着くには、ザラ峠という関門を通過しなければと、
折れそうな心に鞭打って、必死に歩いた。

五色ヶ原は誰もがウキウキするほどの別天地であった。
午後のひととき、のんびりと横になり、のんびりした午後のひとときを過ごした。
立山と剱が近くに並んで立っている。
この二つの山がはるか遠くに見えるようになった時、
この苦しい合宿も終わるのだなとも考えていた。


【5日目:五色ヶ原からスゴ乗越キャンプ場】

この日は、炎天下の中を黙々と歩く辛抱の1日であった。
息が弾み、汗がダラダラと流れる。
目玉となる大きな山岳もない。
ただひたすらに無数の小さなピークを越えていく。

苦しかったのは、水分不足。
このころは、「水はバテの元」と信じられていたから、
最初の2ピッチ(1ピッチは約1時間)は、水を飲ませてもらえず、
3ピッチ目でやっと水(麦茶)を飲ませてもらえる。
その後1ピッチずつ水がもらえる感じだ。

そして、それにも増して辛かったのは靴擦れの痛さ。
歩くたびに新しい靴擦れが出来ていく。
あまりの痛さに弱音を吐くと、先輩方に活を入れられた。
特にスゴ乗越越えは急坂で、拷問を受けているのではないかと感じるほどであった。

スゴ乗越小屋に到着すると、すぐにキャンプ場に着ける、
やっと痛さから解放されると喜んだが、
キャンプ場にはさらに小1時間ほどかかった。
あと5分、あと5分と思って登ったから、心が折れなかったのかもしれない。

スゴ乗越キャンプ場は、間山のすぐ近くの雪渓の脇にこじんまりと存在していた。
雪渓からの雪解け水は、火照った身体への最高のご褒美であった。
雪渓で冷やしたミカンの缶詰は最高に美味かった。


【6日目:スゴ乗越キャンプ場から折立】

夏合宿6日目。
長かった夏合宿は、いよいよ今日が最終日だ。

早朝、霧の中を出発。
薬師岳の長い長い岩尾根を黙々と歩く。
靴擦れの痛みはあまり感じない。

薬師岳頂上には、いつの間にかに到着。
小さい祠があるだけ。
白一色の景色で、あまり感慨はなかった。
あまり長居はせず、そそくさと下山にとりかかった。

薬師峠まで下って、更に槍ヶ岳へ向かう組と、折立に下る組に分かれた。
ここで、余計な荷物は折立に下ろすことになった。
私のキスリングはズシリと重くなった。

縦走組を見送ってから、私たちは折立へ向けて出発した。
折立までの下りは、肩に食い込む荷物の重さと靴擦れの痛みとの戦いであった。

折立に下り立った時は、無事に山から下りてこられた安堵感と、
苦しい夏合宿をやり遂げた充実感でいっぱいであった。
自販機で買った冷たいジュースをガブガブ飲んだ時、下界に戻って来たという実感がわいた。

有峰口駅までのバスに乗車する前に、乗務員より荷物の重さの計測が行われた。
私の荷物の重量は35kgの値を示した。

有峰口駅からは電車に乗り、真夏の暑さの富山駅に向かった。
富山では、叔母の家で1週間ぶりのお風呂に入れさせてもらった。



(2019年5月15日 記)

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コメント

スゴい!( 〃▽〃)
ちゃんと最後まで読みましたよ!

初めてかも、写真無しで、文字だけのレコ!(*^ー^)ノ♪
2019/5/15 21:55
Re: スゴい!( 〃▽〃)
nori3 最後まで読んでいただけるなんて感涙です

この合宿は、私にとっては辛い体験の連続だったのですが、
同時に、大きく成長した青春の1コマでもありました。

この合宿なしには、今の私はありません。
若いころは、この時のことを思い出すのもつらくて・・・

今は、その体験をポジティブに捉えられるようになり、懐かしく思っています。
2019/5/15 22:21
読み入ってしまいました
Swan songさんはじめまして。
1979年の記録が語られていて感動しました。
私も29年前大学のワンゲル部で初めて山に登り、その虜にになって以来、途中ブランクもありましたが、今に至っています。その初縦走が室堂→五色ヶ原→薬師→折立だったので、Swan songさんとは比べものにならない位甘ちゃんな合宿ではありましたが、当時のことがどこか重なって、読み入ってしまいました。今でもベストオブマイ山は五色ヶ原です。
Sean songさんをフォローさせていただいているので、こちらの投稿はメールでお知らせを受けたのですが、プロフィールから入った場合は山行記録ではない、どこに収められているのでしょうか?。
2019/5/16 2:29
Re: 読み入ってしまいました
taromiさま おはようございます。

私の稚拙な文章を読んでいただき、ありがとうございます。
こんなコメントを頂けるなんて、大変うれしいです。

この合宿については、昔は思い出すこと自体つらかったのですが、
今となっては、この体験が今の私の糧になっているようです。
年を取った証拠でしょうか、妙に懐かしく感じます。


プロフィールからですが、
最新の山行記録の下方にある「もっと見る」をクリックしていただけると、
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並びは最新の順になっておりますので、
一番最後が、この山行記録になっております。
その場合は、上の数字の9をクリックしていただければ、本山行記録を見つけることができると思います。


PS:私もtaromi様のフォローをさせてくださいね。
2019/5/16 7:27
昔はザックも重かったのでしょうねぇ。辛い山行が目に浮かびます。それに比べれば今回私が持った 15~6kg は大したことありませんねぇ…。
でも,天気良くなった時の北アルプスはいいですよねぇ。また行きたくなってしまいます。
2021/9/5 19:51
matsupさん こんにちは

昔はキスリングで、荷の重さに加え肩の痛さがとても辛かった思い出があります。
今となっては貴重な体験だったと思います。
どうして、15〜16kgも相当な重さですよね。今の私には担いで歩けるかどうか怪しいところです。

今年は久しぶりに北アに行こうと思っていたのですが、緊急事態宣言が出てしまい、またワクチンも打っていませんのであきらめざるお得なくなりました。
来年は是非行きたいと思っております。
2021/9/6 11:42
プロフィール画像
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